賢者から怪盗に転職しました

レオナール D

文字の大きさ
28 / 85
第3話 ホーンテッド・キャッスル

(2)

しおりを挟む

 東方のスレイヤー王国と、西方のブレイブ王国。その国境にある城、サブロナ城。50年前まで国境警備を担っていた要所である城は、現在はアンデットの巣窟なっていた。

 ブレイブ王国の攻撃により一族を皆殺しにされた領主のサブロナ一族。彼らが所有していたという財宝は敵国に略奪されることはなく、今も城のどこかに隠されていると噂されている。
 その噂のせいで、廃城となって50年経ってからも財宝目当ての冒険者が後を絶たなかった。

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・!」

 寂れた城の廊下を、男が息を切らして疾走していく。
 その男は財宝を目当てに城に侵入したブレイブ王国の冒険者だった。仲間達と共に意気揚々と城に入った男であったが、今はたった一人で城の中を逃げ回っている。
 背後からは鎧を付けたスケルトンの群れがガチャガチャと音を立てて男を追いかけている。すでに男の仲間は不死者達の餌食となっていた。

「くそっ! 何でこんなことになったんだ! 話が違うじゃねえか!」

 男と仲間達も無策で城に入ったわけではない。
 事前に城の見取り図を手に入れたし、アンデットに対抗することができる装備、聖水や聖灰などのアイテムも持ってきた。
 万全の準備を整えてサブロナ城へと入った冒険者パーティーだったが、奥に行けば奥に行くほど増えていくアンデット、そして、突如として現れた難敵によって崩壊してしまった。

「あんな化け物がいるなんて・・・聞いてねえぞ!」

『化け物とは誰のことですかあ?』

「ひっ!」

 突然、響いた女の声に男は悲鳴を上げた。
 男が逃げていた廊下の壁からにじみ出るようにして、ドレスを着た少女の姿が浮かんできた。

『ねえ、ねえ、おじさん♪ 化物って、私に言ったのかなあ?』

 それは10代前半ほどの年齢の幼さが残る少女である。男の腰程度までしか背丈もなく、ここが街中であったならば恐れるに値しない相手である。

 しかし、ここはアンデットが蔓延る廃城であり、目の前の少女も人間ではありえなかった。事実、ドレス姿の少女は身体が半透明になっており、床から数十センチのところをふわふわと浮いている。

「ち、違う! そうじゃない! そうじゃないんだ!」

『んー? なにが違うのかなあ? 私、子供だからわかんなーい』

「ひいっ!?」

 少女がとぼけたよう子供っぽく笑う。ほっこりと心が和むようなあどけない笑顔であったが、男にとっては悪魔の笑みである。
 その笑顔を浮かべながら、目の前の少女は男の仲間達を皆殺しにしたのだから。

「ゆ、許してくれ! 城に勝手に入ってきたことは謝るから! 俺達は何も盗ってない、盗賊じゃないんだ!」

『んー、どうしようかなあ?』

 少女が首を傾げて思案する。
 目の前の少女はどうやらサブロナ一族の生き残り・・・もとい死に残りらしい。勝手に自分の城に侵入した男達のことを盗賊か何かと思っているらしく、そのせいで仲間達は殺されることになった。
 もっとも、財宝目当てで来たの事実なため、盗賊というのもあながち間違いではないのだが。

「もう城から出て行く! だから見逃してくれ!」

『どうしようかなー、城から出て行ってくれるならもういいかな? ねえねえ、君はどう思う?』

『カタカタカタ』

 少女が男の背後にいるスケルトンに言葉を向けると、スケルトンは頭蓋骨を鳴らして答える。

『えー、私が好きにしていいの? どうしようかなあ?』

 くるりと空中で回転しながら、少女は上機嫌な様子で悩んでいる。それはまるでお菓子屋さんでスイーツを選ぶ子供のように無垢である。男の生殺与奪を握っているとはとても思えない。

「・・・・・・」

 男は忌々しげに表情を歪めながら、懐から聖灰を取り出した。ゴースト系のモンスターに大きな効力を持つアイテムの袋を解く。

『どうしようかなあ、どうしようかなあ、どうしよう・・・きゃあ!』

「くらいやがれ!」

 男は目の前の少女に聖灰を投げつけた。少女の霊体の身体がバチバチと音を立てて、灰を被ったところから白い火花が弾ける。

『きゃ、いたいたいいたい!』

「ははっ、ざまあみやがれ! あばよ!」

 男は少女の横をすり抜けて、一目散に出口に向けて走り去る。スケルトンが慌てて追いかけてくるが、もう追いつくことは出来ないだろう。

「助かった・・・!」

 男の身体が扉を潜り抜ける。生き残った喜びから、男の顔に笑顔が浮かぶ。

 しかし――

『もうコロス。ゆるさない』

 感情が消えた声が背中にかけられる。次の瞬間、男の足首が何者かに掴まれた。

「ぎゃっ!」

 足を掴まれたことで前のめりになって倒れてしまう。慌てて足元を見ると、床を突き抜けるようにして青白い手が生えていて、男の足首をがっちりと握りしめている。

「離せ! 離せえっ!」

 男がゴーストの手に剣を叩きつける。神官によって聖属性が付与された武器によって、手が切り払われる。
 しかし、次々と床から手が出てきて、男の手を、足を、全身を掴んで床に押し付ける。

『私にひどいことする大人なんて、みんな死んじゃえ』

「ひいっ・・・!」

 男の元まで飛んできた少女が無慈悲な断罪を注げる。
 ゆっくりと、いっそ緩慢とも呼べる動きでスケルトンの群れが歩いて来て、倒れた男をとり囲んで剣を振り上げる。

「やめっ、やめてっ・・・あ、が、ぎゃああああああああああっ!」

 スケルトンが次々と剣を振り下ろす。
 生ける者の住まない呪われた城に、無残な悲鳴が轟いた。

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

処理中です...