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第3話 ホーンテッド・キャッスル
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しおりを挟む東方のスレイヤー王国と、西方のブレイブ王国。その国境にある城、サブロナ城。50年前まで国境警備を担っていた要所である城は、現在はアンデットの巣窟なっていた。
ブレイブ王国の攻撃により一族を皆殺しにされた領主のサブロナ一族。彼らが所有していたという財宝は敵国に略奪されることはなく、今も城のどこかに隠されていると噂されている。
その噂のせいで、廃城となって50年経ってからも財宝目当ての冒険者が後を絶たなかった。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・!」
寂れた城の廊下を、男が息を切らして疾走していく。
その男は財宝を目当てに城に侵入したブレイブ王国の冒険者だった。仲間達と共に意気揚々と城に入った男であったが、今はたった一人で城の中を逃げ回っている。
背後からは鎧を付けたスケルトンの群れがガチャガチャと音を立てて男を追いかけている。すでに男の仲間は不死者達の餌食となっていた。
「くそっ! 何でこんなことになったんだ! 話が違うじゃねえか!」
男と仲間達も無策で城に入ったわけではない。
事前に城の見取り図を手に入れたし、アンデットに対抗することができる装備、聖水や聖灰などのアイテムも持ってきた。
万全の準備を整えてサブロナ城へと入った冒険者パーティーだったが、奥に行けば奥に行くほど増えていくアンデット、そして、突如として現れた難敵によって崩壊してしまった。
「あんな化け物がいるなんて・・・聞いてねえぞ!」
『化け物とは誰のことですかあ?』
「ひっ!」
突然、響いた女の声に男は悲鳴を上げた。
男が逃げていた廊下の壁からにじみ出るようにして、ドレスを着た少女の姿が浮かんできた。
『ねえ、ねえ、おじさん♪ 化物って、私に言ったのかなあ?』
それは10代前半ほどの年齢の幼さが残る少女である。男の腰程度までしか背丈もなく、ここが街中であったならば恐れるに値しない相手である。
しかし、ここはアンデットが蔓延る廃城であり、目の前の少女も人間ではありえなかった。事実、ドレス姿の少女は身体が半透明になっており、床から数十センチのところをふわふわと浮いている。
「ち、違う! そうじゃない! そうじゃないんだ!」
『んー? なにが違うのかなあ? 私、子供だからわかんなーい』
「ひいっ!?」
少女がとぼけたよう子供っぽく笑う。ほっこりと心が和むようなあどけない笑顔であったが、男にとっては悪魔の笑みである。
その笑顔を浮かべながら、目の前の少女は男の仲間達を皆殺しにしたのだから。
「ゆ、許してくれ! 城に勝手に入ってきたことは謝るから! 俺達は何も盗ってない、盗賊じゃないんだ!」
『んー、どうしようかなあ?』
少女が首を傾げて思案する。
目の前の少女はどうやらサブロナ一族の生き残り・・・もとい死に残りらしい。勝手に自分の城に侵入した男達のことを盗賊か何かと思っているらしく、そのせいで仲間達は殺されることになった。
もっとも、財宝目当てで来たの事実なため、盗賊というのもあながち間違いではないのだが。
「もう城から出て行く! だから見逃してくれ!」
『どうしようかなー、城から出て行ってくれるならもういいかな? ねえねえ、君はどう思う?』
『カタカタカタ』
少女が男の背後にいるスケルトンに言葉を向けると、スケルトンは頭蓋骨を鳴らして答える。
『えー、私が好きにしていいの? どうしようかなあ?』
くるりと空中で回転しながら、少女は上機嫌な様子で悩んでいる。それはまるでお菓子屋さんでスイーツを選ぶ子供のように無垢である。男の生殺与奪を握っているとはとても思えない。
「・・・・・・」
男は忌々しげに表情を歪めながら、懐から聖灰を取り出した。ゴースト系のモンスターに大きな効力を持つアイテムの袋を解く。
『どうしようかなあ、どうしようかなあ、どうしよう・・・きゃあ!』
「くらいやがれ!」
男は目の前の少女に聖灰を投げつけた。少女の霊体の身体がバチバチと音を立てて、灰を被ったところから白い火花が弾ける。
『きゃ、いたいたいいたい!』
「ははっ、ざまあみやがれ! あばよ!」
男は少女の横をすり抜けて、一目散に出口に向けて走り去る。スケルトンが慌てて追いかけてくるが、もう追いつくことは出来ないだろう。
「助かった・・・!」
男の身体が扉を潜り抜ける。生き残った喜びから、男の顔に笑顔が浮かぶ。
しかし――
『もうコロス。ゆるさない』
感情が消えた声が背中にかけられる。次の瞬間、男の足首が何者かに掴まれた。
「ぎゃっ!」
足を掴まれたことで前のめりになって倒れてしまう。慌てて足元を見ると、床を突き抜けるようにして青白い手が生えていて、男の足首をがっちりと握りしめている。
「離せ! 離せえっ!」
男がゴーストの手に剣を叩きつける。神官によって聖属性が付与された武器によって、手が切り払われる。
しかし、次々と床から手が出てきて、男の手を、足を、全身を掴んで床に押し付ける。
『私にひどいことする大人なんて、みんな死んじゃえ』
「ひいっ・・・!」
男の元まで飛んできた少女が無慈悲な断罪を注げる。
ゆっくりと、いっそ緩慢とも呼べる動きでスケルトンの群れが歩いて来て、倒れた男をとり囲んで剣を振り上げる。
「やめっ、やめてっ・・・あ、が、ぎゃああああああああああっ!」
スケルトンが次々と剣を振り下ろす。
生ける者の住まない呪われた城に、無残な悲鳴が轟いた。
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