エスメラルドの宝典

のーが

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第24話

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「それで、要求は何かな? 犯罪自慢をするために電話したなら、もう少しだけであれば付き合ってもいいけど」

 声色を乱さず悠司は挑発する。
 返答まで、やや間があった。阿久津が鼻を鳴らす。

《口の減らねぇ奴だな。こちらが目的のために手段を選ばねぇってのは理解できたはずだ。これ以上の被害を出したくねぇなら、おとなしく指示に従ってもらおうか》
「いくら用意すればいい? それとも身の安全を保障してほしいのかな? しかし申し訳ないが後者は無理だよ。我々は小さな組織だ。強大な力から君たちを守ってやることはできない」
《余計な話をするな。別にカネがほしいわけじゃねぇ。そんなもんほしけりゃいくらでも盗める。安心しな、要求するのはてめぇらが用意できるもんだ。その代わり、いますぐ対応してもらおうか》
「焦らしているようでは、ご希望に沿えるか保証できないよ?」
《マジでよく舌がまわるジジイだな》
「ああ、いいね。一度そう呼ばれてみたいと願っていたんだ。君が初めてだよ」

 間髪を入れない痛快な悠司の弁舌に、事態を傍観している面々の口元が緩む。
 慧としても、自分に向けられているときは面倒だが、憎む相手に応対する様子を眺める分にはスカッとする。遊ばれる阿久津に多少の同情も感じたが。

《うぜぇ奴だ。いいか、てめぇらんとこに逃げてきた上倉慧って男がいるよな? 十八時に、そいつを昨日てめぇらが潰したアジトに連れて来い》

 他人事のように聞いていた慧が携帯電話のほうを見た。
 寄っていこうとしたが、悠司が手で制した。座っていた席に戻る。

「新しいほうのアジトじゃなくていいのかな?」
《二度も言わせるな》
「確認だけど、彼を連れていけば無関係な一般人を狙わないでくれるのかい?」
《約束してやるよ。勝手をするんじゃねぇぞ。気晴らしに何をしちまうかわかんねぇぜ?》
「心配しなくとも、要求どおり彼を差し出そう。大勢の市民と一人の新入社員。天秤にかけるまでもなく、どちらが重要かは明白だ。煮るなり焼くなり好きにするといい。十八時なら、いまから出れば充分に間に合う。ご配慮ありがとう」
《くれぐれも遅れねぇようにな。待つのは苦手なんでね。誠実に行動することだ》

 要求を締め括る物言い。それで敵の連絡は終わりかと思えた。
 通話はまだ続いていた。

《そこに慧はいるか?》

 わずかに声のトーンを落とした呼びかけ。慧はどう対応すべきか目配せする。
 彼と視線を交錯させた悠司は、会議室の天井を見上げた。

「いないようだ」
《間があったな?》
「うちはとても広いからね。近くにいたら代わろうと思ったんだけど。それとも、探しにいったほうがいいかな?」
《……いらん。遅れず、慧を連れて来い》

 終始尊大だった声が途切れ、部屋は静まった。
 悠司は机から電話を拾いあげ、胸ポケットにしまった。

「やれやれ、『約束』とは未熟だね。それにしても大勢の一般市民と同等とは、君の命は随分と重いようだ」
「囮として捨てられた身だが、奴らの俺に対する評価は存外高いようだ。市民を人質に誘き寄せるなど、正気とは思えん。ここまで非情な手段を取る連中ではなかったはずだが……幻滅だな」
「我々の行動が彼らを狂わせてしまった可能性は否めない。狂気に汚染されたのなら、浄化するのが我々の責任だ。慧くん、引き受けてくれるね?」
「俺一人の命で犠牲が減るなら破格だろ。これも、自分の蒔いた種だ」

 慧は今度こそ席を立つ。
 連動するように、俊平も涼しい顔を浮かべて腰を上げた。

「同行者の有無は自由だったね。行くなら僕が運転手を務めよう。今回ばかりは少々荒くなるかもしれないけど、そこは留意してくれ」
「あたしもついていってあげるわ。宝典魔術師が待ち伏せてたら、アンタじゃ勝てないものね」

 次いで立ち上がった琴乃も同行を申し出る。
 善意からの判断とわかってはいた。だが、ふたりが付いてくるとなると不安がある。

「その気持ちは慧くんとしても嬉しく感涙ものだろうけど、今回はふたりとも邸宅で待機していてほしい。代わりに鏡花、君が同行したまえ」
「はい。了解です」

 頷き、鏡花は深く理由を尋ねることもなく了承する。

「なんでよっ! あたしは退屈に留守番してろってこと!?」
「そうじゃないよ。琴乃くん、よく考えてみてほしい。複数人の同行も許可して、大胆な行動をしてまで慧くんを遠く離れた場所に誘導するのはどうしてかな? そりゃあ、慧くんの抹殺が目的かもしれないけど、せっかく戦力を思いどおりのタイミングで分断できるんだよ? 彼らにとって我々は最たる敵対組織だ。警備が手薄になるこの状況を、みすみす逃してくれると思うかい?」

 琴乃はばつの悪そうな顔を浮かべた。

「少なくとも、あたしなら逃さないわね。……はぁ、そういうことは先にいいなさいよ。いいわ、社長の希望に従ってあげる。でも、どうして鏡花だけ?」
「鏡花の魔術は多人数相手には向いてないからね。その点、琴乃くんは一対多に適してるし、君は優秀だと私は評価している。鏡花を連れていくのは、向こうで慧くんに救援が必要になった際に働いてもらうためだ。敵だって一人とは限らない。邸宅は琴乃くんだけでも大丈夫だと思うけど、万が一想定外の戦力が押し寄せてきたときの保険として、俊平くんも残っておいてほしい」

 社長から絶賛された琴乃は腰をおろした。平静を装っているが、口角がわずかにあがっていた。

「僕もそれで構わないけど、ドライバーはどうするのかな? 急ぐなら、それなりに慣れた者でなければ任せられないだろう?」
「ああ、その点は問題ないよ」

 俊平の指摘には、緩い雰囲気を醸したまま悠司が答えた。

「俊平くんに運転を教えたこの私が、じきじきに送り届けよう」

 慧の脳裏に、車が崖から飛び立った瞬間の映像がフラッシュバックした。
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