ANVIL

東松 蒼璃朱

文字の大きさ
1 / 5

第一章 : 夢のページをめくって

しおりを挟む
私は、小さい頃によく絵本を読んでいた。絵本だから、「見る」の方が近いかもしれない。
今となっては、絵本が何処にあるのかも、どんなタイトルなのかも、どんな内容なのかも、全て記憶に残ってない。ただ、たった最後の一ページの部分だけ、今でも鮮明に覚えている。
それは「正義」は必ず「悪」に勝つということ。逆を言えば、「悪」は必ず「正義」に負けるということ。
小さい子が読む絵本なのだ。悪が勝っては駄目なのかもしれない。パンは自分と大体同じ大きさの菌に勝つのだ。菌は幾ら大きくなっても、パンには勝てないのだ。
誰もが純粋な子供の時期を経験する。犯罪者の様な悪い人も、神様の様な良い人も。勿論、私も。
でも、私が清廉潔白な心を持っていた時間は、他の子供よりとても短いと思う。
何故なら、私は悪魔だから。
それを教えられたのは、物心着いた頃だ。人間の子供が、幼稚園に通う位の時、私の「光」は「闇」に呑み込まれた。

玲音れいん、辛い事でもあった?大丈夫?」
そう耳元で囁き、肩を優しく叩いて、笑顔を向けるお兄ちゃんの夜斗ないとは、私の闇を照らす唯一の光でもある。そのお兄ちゃんの声で我に返った。
勿論、お兄ちゃんも悪魔だ。悪魔の囁きは、人間にとって、悪いものに感じる人も多いかもしれない。ダイエットの時に「お菓子食べちゃいなよ!明日から始めればいいさ!」とか、財布拾った時に「自分のものにしちゃいな!お金ゲットだぜ!」とか。
でも私は、お兄ちゃんの悪魔の囁きに何度も助けられたのだ。
「大丈夫だよ。何でもない。」
「そう…。辛かったら、もっとお兄ちゃんを頼っても良いんだよ。もう、悪夢を現実にはさせないから。」
そう言われ、私はお兄ちゃんの腕の中に収まった。心も体も温かくて優しいお兄ちゃんは、とても強い。
私の自慢のお兄ちゃんだ。絶対に誰にも渡したくない。
「お兄ちゃんありがとう。私が悪夢に負けていちゃ駄目だよね。」
私は「悪夢」、お兄ちゃんは「恐怖」を司る悪魔。
私が見る夢は、現実になる事もある。いわゆる、予知夢っていうやつ。
私の今日の夢は、お兄ちゃんと離れ離れになってしまう夢。勿論、お兄ちゃんは知っている。だからこそ、今日はいつも以上にお兄ちゃんと一緒に行動しているのだ。
「玲音、そろそろ仕事行こう?勿論、俺も一緒に。」
悪魔の仕事は、下界に住む人間の願いを叶える代わりに、人間の魂を貰うこと。
人間の魂は、大人になるにつれ黒くけがれてくる。欲望、嫉妬、傲慢、色々な感情が悪い方向へ向かわせるのだ。
悪魔の食事は、所詮こんな黒くけがれたモノ。でも、結構美味しんだよ?人間の持つ負の感情は、私達悪魔にとってエネルギー源。例えるなら、車のガソリンだ。
「うん。でも、私、何も出来ない。怖い。」
「大丈夫だよ。玲音は優しい子だからね。勇気を持てば、何でも出来る。さぁ、行こう。」
私達は飛び立った。目的地は、もちろん下界だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...