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チュートリアル
初陣
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俺は、プロローグの戦闘として賊の討伐に行くことになった。
自分の見ている夢が、余りにも願望と一致していることに、若干の違和感を感じなくもない。
それでも、折角、自分の好きなゲームの舞台に立てたんだ。
迷ったり、躊躇ったりしている場合じゃない。夢はいつか終わるもの、全力で楽しまなきゃな!
そう考えた俺は、戦いに行く前に、とある人物に話しかけることにした。
「やあ、ちょっといいか?」
「ツカサか、どうしたんだい?」
どうやらここでも俺はツカサで通っているらしい。名前に違和感とか感じないのかね、こいつらは。
俺が話しかけたのは、言わずと知れたオリュゲイオンの主人公、クリス・スウォードだ。
彼は、オリュゲイオンの舞台となる公国で双璧を成す、二つの騎士団の内一つ、日輪騎士団で団長を代々預かる名門、スウォード家の末弟であり、この物語の主人公でもある。
見た目はブロンドを長く伸ばした流麗な青年で、女性と見紛うばかりの中性的な顔立ちをしている。体も華奢だ。
顔を見ると先入観からか、美形ではあるが、同時に何処か薄幸な印象を受ける。
というのも、彼はこれから起こる戦乱の渦に巻き込まれ、家族や共に戦ってきた大切な仲間達を失うことになる。
しかし、己の信念を貫ぬく為、戦いから身を引くことなく、仲間達を鼓舞して戦線に立ち続けるのだ。
主人公に悲劇は付き物であるが、その健気な姿に心を打たれるものも多く、クリスの存在が、オリュゲイオンのヒットした理由の一つとして挙げられることも多い。
そんな、主人公してるクリスくんに話しかけた理由は一つだ。
「俺と一緒に戦って欲しいんだ。君と組めば、賊なんか蚊トンボさ」
「…面と向かって、そんな風に言われると照れるな」
クリスは頰を赤く染めて言う。
おまけに、自分の手を絡めてモジモジしている。褒められて照れているみたいだ。
野郎がやっていても気持ち悪いだけだが、クリスがやると妙に似合う。
「待てよ、クリスはオレと組むって決めてるんだ。お前は大人しくすっこんでな」
クリスに見惚れていると、横から口を挟んでくる奴が現れた。
レナード・ティスカ、クリスと幼馴染で、代々日輪騎士団に所属する騎士家の一つ、ティスカ家の長男だ。
少々訳ありで、幼少の頃からクリスの家に世話になっている。
序盤ちょろっと活躍して戦線離脱するので、戦力的にはあまり役に立たない。
だからぶっちゃけ、興味ないんだよね。
ただし、こいつの妹マルベール・ティスカはカワイイと評判である。
レナードを登場させる為に出されているといっても過言ではない…らしい。
よわよわレナードくんは、ゲームとは違って赤い髪の毛を伸ばして、ポニーテールのように後ろで結んでいるみたいだ。
こいつも美形ではあるので、どんな格好をしていても様になる。
というか少し、女性的な顔立ちになっているような…?
久しぶりに見たし気の所為だろうか。
まあ、どうせすぐ居なくなるし、どうでもいいか。
「まあまあ、組む人数に制限なんか無いんだから、良いじゃないか?」
とはいえ幼馴染ポジションは強力だ。
そんなことないとは思うが、これで万が一にもクリスくんに断られても困るので、宥め賺すように俺は言う。
「そうだよレナード、彼だってここで同じ釜の飯を食べた仲じゃないか。急場で募った傭兵よりも、信頼できる士官候補生の方が良い。彼も一緒に連れて行こう?」
「フンッ!そんなこと言ったって、クリスに付き纏おうとしているだけだろ?騙されるな、クリス。お前はスウォード家の一員なんだぜ?」
レナードの言い分は、完全に間違っている訳ではない。
実際、名門のスウォード家に取り入ろうとする奴も後々登場することになる。
「まあ待ってくれよ、別に今回だけで良いんだ。スウォード家の力に興味が無い訳じゃないが、今回は初の実戦だろ?俺も怖くてね、出来るだけ信頼出来る仲間が欲しくて声を掛けたんだ」
別にこれは嘘じゃない。
ゲームをやった人間として、クリスくんは色々な面で信頼出来ると識っているから声を掛けたのだ。
運が良ければスウォード家とも懇意になって、キャラとの会話を楽しめたら良いなとも思いはするが、それは主な目標ではない。
「レナード、僕の為を思ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと失礼過ぎるよ。ツカサとも決して短くない付き合いだ。このまま意地を張るようなら、僕が君を拒絶しなくちゃいけなくなる」
クリスは優しく諭すように、しかしそれでいて、しっかりとした意志を持ってレナードに言った。
「…ちっ、わかったよ。確かに、そこらの野良犬共よりかは、まだマシだろうしな」
レナードは最終的にはクリスの決定に従うみたいだ。
ゲームをやっていて側からみている分にはまだ良かったが、実際に話すとなるとめっちゃウザいな。
こいつを離脱させる為にも、さっさとストーリー進めてしまいたい。
さてと、夢の中でオリュゲイオンがどんな感じに改鋳されているのか確かめてやろうじゃないか。
ティルダの街~街道~
「居たぞ!賊だ!」
レナードが大声で叫ぶ。
いや、叫んじゃダメだろ。
バレちゃうじゃん。
ほら、敵こっち見てるし。
黙って隠れて奇襲をかました方が良いと思うのだが、周りにツッコむ者はいない。
やっぱそこはオリュゲイオン、という事なのだろうか。
「あれが賊か。総員、戦闘準備!」
クリスくんの号令に従って、俺とレナード、他傭兵3人の計5人が構える。
向こうもこちらと同じ人数、戦闘員が居るみたいだ。
ここで少し、このゲームシステムのおさらいをしよう。
このゲームは6人対6人の戦闘を行う。
戦闘は碁盤のマス目があるマップ内で行われ、アクション要素は無い。
代わりに、それぞれのユニットに素早さを基準として順番に行動権が与えられる。
この行動権をユニットターンとする。
ユニットターンに出来る行動は大まかに3つ。通常攻撃と移動、そしてアビリティである。
この内、移動は通常攻撃とアビリティを使っていても選択することが出来るが、通常攻撃とアビリティは、何方か一方を使っていると、選択することが出来ない。
移動オンリーも、もちろんアリだ。
まあ、所詮夢なのでどこまで再現してくれるかは分からないが。
頑張れ、俺の脳みそ。
さてさて、一番最初に動くのは誰だ?
「「「…………」」」」
…俺かよ!
どうやら俺が一番槍みたいだ。
未だ敵ユニットとの距離は遠いから、適当に動いても良いと思うが、俺が何マス進めるのかが分からない。
というかそもそも、移動もオリュゲイオン方式なのだろうか。
もし同じなら、移動を確定するまで動き回れるし、ここらで試してみるか。
うろうろうろ…
「おい、遊びに来たんじゃないんだぞ!」
フィールドを歩き回っていると、レナードに怒られた。
怒鳴られたからって訳じゃないが、俺は移動を止めた。
検証結果、移動はオリュゲイオンのシステムと変わらないことが分かった。
歩行距離はまっすぐ進んで3歩程。
斜めに移動すると、角度をつける程遠くには行けなくなるみたいだ。
次は行動終了だが、何もしなければ終わるのかな?
俺が移動を止めてから5秒ほど待つと、他のユニットが動き出す。
うむ、終わるつもりが無いのに、うっかり動きを止めないように気をつけなきゃいけないな。
どうやら次はクリスくんみたいだ。
「やあ、次のターンで接敵しそうだね」
横に並んだクリスが言う。
「ああ。見たところ大したこと無さそうだが、油断は禁物だな」
「うん、そうだね。ボクらの初陣に、一点の曇りもない白星を飾ろう!」
敵の強さなんぞ見たところで判らんが、この夢がゲーム通りなら全然大した事ない筈だ。クリスくんの見立てでもそうらしいので、安心して戦えるな。
夢の中でも死にたくなんかないし…
クリスが行動を終えたことで次のユニットに行動権が移る。
次に動いたのはレナードだ。
口煩いレナードも、戦場では冷静沈着な様だ。特に無駄口を叩く事も無く、行動を終える。
これを機に敵のターンが始まった。
先ず、戦士風の見た目をした男が動く。
目測、3歩程の距離だ。
更に敵のユニットが動く。
最初に動いた男の右につく。
次も敵ユニットだ。
こちらは男の左についた。
となると、あれが敵の指揮官か。
指揮官とは何か。それを説明するには、オリュゲイオンのシステムについて話さなければならない。
オリュゲイオンには、主に2つのユニットタイプがある。
それは命令を出すことのできる指揮官ユニットと、その命令を聞く戦闘ユニットだ。
指揮官ユニットは文字通り、部隊の指揮を執るユニット。
戦闘ユニットも文字通り戦闘するユニットなのだが、指揮官ユニットだからといって戦闘が出来ない訳ではない。
指揮官ユニットだけが他ユニットの行動を指揮することが出来、指揮ユニットが居なければ戦闘は自動的にオートバトルになってしまうのだ。
それだけでなく、味方に指揮ユニットが居るだけで、戦闘ユニットのステータスが一定数上がるなどの効果もある。
よって、指揮官ユニットは率先して狙うべきであり、敵からも当然狙われる。
さて、そんな素晴らしい指揮官ユニットであるが、もちろん味方にもいる。
それこそが主人公たるクリスなのだ。
接戦を強いられる高難易度の戦いでは、強制オートバトルは致命的だ。
それどころか、普通に戦えば勝てる相手にすら負けてしまう。
主人公が倒されたら負け!
大変シンプルでよろしい。
それはそうと、敵ユニットのターンは続くみたいだ。
意外と敵もバカでは無い。指揮官の周りに戦力を集中し守りを固めるといった、基本に忠実な陣形を組んできた。
最序盤なのに、抜け目無いね?
俺なんか何も考えずに前に出ちゃったのにさ。
まあ、こちらも最終的には同じ様な陣形となった。
俺とクリス、レナードを先頭に後ろに傭兵達が立ち並ぶ。
傭兵達を壁にして、俺たちが後ろで構えても良いし、そのまま殴りかかっても良い。クリスの側面は俺とレナードで塞がれていて、正面の空きマスからしか攻撃出来ないからだ。
ただ、一撃で敵を仕留められなかった場合、敵ユニットの行動順を考えると、2回攻撃を受けてしまう。
殴ってから後退、後ろに控えていた奴らが入れ替わりで入って殴ることが出来る。
さて、どうするかな。
ターンが一巡して、俺の番が回って来たみたいだ。
俺は攻めを選択することにした。
こんな所で時間を割いてはいられない。
俺が狙うのはもちろん大将首…ではなくその横のモブ戦士だ。
指揮官ユニットは特別な人物がなるので、ユニットの形質とは別に、ステータスが高めになる傾向がある。
なので、そう易々と撃破出来ない。
それは最序盤であるこのステージでも変わらず、他のザコが一撃で屠れるにも関わらず、指揮官は複数回殴らなければ倒せないのだ。
「恨むなら、自分の出自を恨むんだな!」
ズバッ!
俺はモブ戦士の前に辿り着くと、手にした武器を振り抜く。
赤い血が飛び散ると、敵は崩れ落ちた。
まずは一人撃破。
そしてこれで俺の前には壁が出来た。
ユニットは倒されると"遺体"となってその場に留まる。
それから4ターン経つと遺体がロストして、その場から消え去るのだが、それまでは遺体の占有パネルとなり、誰もそこに立ち止まることが出来ない。
このステージでは飛び道具を使うユニットが、敵味方共にいないので、敵を倒すだけで、自分の身を守ることが出来る。
「クリス、最初に動いた奴の右側にいる奴を狙え!」
俺が倒したモブは向かって左側の奴だ。
クリスがモブを倒し、レナードが指揮官ユニットを攻撃すれば、クリスに隣接する空きパネルは2つのみ。
何も敵から遠く、移動の範囲外なのでクリスの安全は守れる。
レナード?いや、別にあいつはいいでしょ。俺?横に障害物あるから、一番安全なんだよね。
レナードについては、きちんとした理由もあるがな。
「わかった!」
クリスは俺の指示通りに動く。
「ハアッ!」
敵モブは倒れ遺体となった。
レナードが続いて動く。
「ちっ!損な役回りさせやがって…」
文句を言いながらも、ボスモブを攻撃する。やはり、一撃では倒せないみたいだ。
ターンが周り、ボスモブが動き出す。
「くっ、良くもあいつらを…くらえっ!」
痛みにレナードが顔を歪めるが、大したこと無いらしい。けろっとしている。
ボスモブもだが、剣で切りつけられても死なないってすごいな。
実際に見ると結構驚きだ。
俺が感動している間にも、動きが止まることはない。
ボスモブが攻撃を終えて後ろに下がる。
続いてザコモブがレナードの前へ。
「せりゃ!」
レナードはナイフを突き立てられるも、ピンピンとしている。
ボスモブの攻撃に加えて二撃目だが、大してダメージはないみたいだ。
「その程度か?お返しだ!」
「ぐわっ!?」
モブの攻撃が終わると、突然レナードが動き出し、反撃の体当たりを喰らわせた。
これはリアクションアビリティだ。
アビリティ毎に特定の条件が課せられ、それが満たされると、そのユニットにターンが来ていなくても発動する。
今発動したのは、カウンタータックル。
威力はやや低めだが、序盤から使える数少ないリアクションアビリティだ。
通常攻撃を受けた時、攻撃者に体当たりで反撃する。
威力は低めだが、序盤は通常攻撃が大きなダメージソースとなっているので、かなり有効なアビリティである。
小憎たらしいことに、レナードだけが最序盤でも使える様になっている。
俺がわざとレナードを矢面に立たせたのも、これが一因だったりする。
そうでなくてもしたけどな。
更にターンが巡り、味方の傭兵達が動き出す。彼らはぴったりと俺たちの後ろに並んでついた。
役に立たねぇ…俺の所為だけどね。
続いて俺のターンが来る。
純粋な戦闘力の差もあるし、敵の数はもう4人だ。反撃を恐れることなく攻めることが出来る。
さあ、後はさくっと片付けますか。
最序盤ということもあり、簡単に詰めることが出来た。消化試合である。
追い詰められたボスモブが、身分差による貧富の格差とかを声高に主張してきたが問答無用で斬り伏せた。
この先へ進む為にも、倒さなければいけないしな。俺がやらなくても、他の誰かがやるだろうし。
しかし、クリスは何か思う所があったみたいだ。
「本当にこれで良いのだろうか…」
哀しげな表情で呟くクリス。
「仕方のないことだと、割り切るしか無いだろうな」
レナードも何処か思う所があるみたいだが、自分の立場を弁えているみたいだ。
身分差をテーマにしたこの作品、こういう場面は割りかし多い。
資本主義社会となり、身分は平等とされている現代でも、貧富の差は無くなる事なく開き続けている。
むしろ拡大しているといっても良いだろう。それは解決できる問題なのか、そうでないのか、する必要もないものなのか。
今の俺には答えが出せない。
身分差のある社会に馴染んでいるレナードやクリスと、俺は何も変わらない。
しかし、何はともあれ卒業試験は突破した。報告に戻ろうか。
自分の見ている夢が、余りにも願望と一致していることに、若干の違和感を感じなくもない。
それでも、折角、自分の好きなゲームの舞台に立てたんだ。
迷ったり、躊躇ったりしている場合じゃない。夢はいつか終わるもの、全力で楽しまなきゃな!
そう考えた俺は、戦いに行く前に、とある人物に話しかけることにした。
「やあ、ちょっといいか?」
「ツカサか、どうしたんだい?」
どうやらここでも俺はツカサで通っているらしい。名前に違和感とか感じないのかね、こいつらは。
俺が話しかけたのは、言わずと知れたオリュゲイオンの主人公、クリス・スウォードだ。
彼は、オリュゲイオンの舞台となる公国で双璧を成す、二つの騎士団の内一つ、日輪騎士団で団長を代々預かる名門、スウォード家の末弟であり、この物語の主人公でもある。
見た目はブロンドを長く伸ばした流麗な青年で、女性と見紛うばかりの中性的な顔立ちをしている。体も華奢だ。
顔を見ると先入観からか、美形ではあるが、同時に何処か薄幸な印象を受ける。
というのも、彼はこれから起こる戦乱の渦に巻き込まれ、家族や共に戦ってきた大切な仲間達を失うことになる。
しかし、己の信念を貫ぬく為、戦いから身を引くことなく、仲間達を鼓舞して戦線に立ち続けるのだ。
主人公に悲劇は付き物であるが、その健気な姿に心を打たれるものも多く、クリスの存在が、オリュゲイオンのヒットした理由の一つとして挙げられることも多い。
そんな、主人公してるクリスくんに話しかけた理由は一つだ。
「俺と一緒に戦って欲しいんだ。君と組めば、賊なんか蚊トンボさ」
「…面と向かって、そんな風に言われると照れるな」
クリスは頰を赤く染めて言う。
おまけに、自分の手を絡めてモジモジしている。褒められて照れているみたいだ。
野郎がやっていても気持ち悪いだけだが、クリスがやると妙に似合う。
「待てよ、クリスはオレと組むって決めてるんだ。お前は大人しくすっこんでな」
クリスに見惚れていると、横から口を挟んでくる奴が現れた。
レナード・ティスカ、クリスと幼馴染で、代々日輪騎士団に所属する騎士家の一つ、ティスカ家の長男だ。
少々訳ありで、幼少の頃からクリスの家に世話になっている。
序盤ちょろっと活躍して戦線離脱するので、戦力的にはあまり役に立たない。
だからぶっちゃけ、興味ないんだよね。
ただし、こいつの妹マルベール・ティスカはカワイイと評判である。
レナードを登場させる為に出されているといっても過言ではない…らしい。
よわよわレナードくんは、ゲームとは違って赤い髪の毛を伸ばして、ポニーテールのように後ろで結んでいるみたいだ。
こいつも美形ではあるので、どんな格好をしていても様になる。
というか少し、女性的な顔立ちになっているような…?
久しぶりに見たし気の所為だろうか。
まあ、どうせすぐ居なくなるし、どうでもいいか。
「まあまあ、組む人数に制限なんか無いんだから、良いじゃないか?」
とはいえ幼馴染ポジションは強力だ。
そんなことないとは思うが、これで万が一にもクリスくんに断られても困るので、宥め賺すように俺は言う。
「そうだよレナード、彼だってここで同じ釜の飯を食べた仲じゃないか。急場で募った傭兵よりも、信頼できる士官候補生の方が良い。彼も一緒に連れて行こう?」
「フンッ!そんなこと言ったって、クリスに付き纏おうとしているだけだろ?騙されるな、クリス。お前はスウォード家の一員なんだぜ?」
レナードの言い分は、完全に間違っている訳ではない。
実際、名門のスウォード家に取り入ろうとする奴も後々登場することになる。
「まあ待ってくれよ、別に今回だけで良いんだ。スウォード家の力に興味が無い訳じゃないが、今回は初の実戦だろ?俺も怖くてね、出来るだけ信頼出来る仲間が欲しくて声を掛けたんだ」
別にこれは嘘じゃない。
ゲームをやった人間として、クリスくんは色々な面で信頼出来ると識っているから声を掛けたのだ。
運が良ければスウォード家とも懇意になって、キャラとの会話を楽しめたら良いなとも思いはするが、それは主な目標ではない。
「レナード、僕の為を思ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと失礼過ぎるよ。ツカサとも決して短くない付き合いだ。このまま意地を張るようなら、僕が君を拒絶しなくちゃいけなくなる」
クリスは優しく諭すように、しかしそれでいて、しっかりとした意志を持ってレナードに言った。
「…ちっ、わかったよ。確かに、そこらの野良犬共よりかは、まだマシだろうしな」
レナードは最終的にはクリスの決定に従うみたいだ。
ゲームをやっていて側からみている分にはまだ良かったが、実際に話すとなるとめっちゃウザいな。
こいつを離脱させる為にも、さっさとストーリー進めてしまいたい。
さてと、夢の中でオリュゲイオンがどんな感じに改鋳されているのか確かめてやろうじゃないか。
ティルダの街~街道~
「居たぞ!賊だ!」
レナードが大声で叫ぶ。
いや、叫んじゃダメだろ。
バレちゃうじゃん。
ほら、敵こっち見てるし。
黙って隠れて奇襲をかました方が良いと思うのだが、周りにツッコむ者はいない。
やっぱそこはオリュゲイオン、という事なのだろうか。
「あれが賊か。総員、戦闘準備!」
クリスくんの号令に従って、俺とレナード、他傭兵3人の計5人が構える。
向こうもこちらと同じ人数、戦闘員が居るみたいだ。
ここで少し、このゲームシステムのおさらいをしよう。
このゲームは6人対6人の戦闘を行う。
戦闘は碁盤のマス目があるマップ内で行われ、アクション要素は無い。
代わりに、それぞれのユニットに素早さを基準として順番に行動権が与えられる。
この行動権をユニットターンとする。
ユニットターンに出来る行動は大まかに3つ。通常攻撃と移動、そしてアビリティである。
この内、移動は通常攻撃とアビリティを使っていても選択することが出来るが、通常攻撃とアビリティは、何方か一方を使っていると、選択することが出来ない。
移動オンリーも、もちろんアリだ。
まあ、所詮夢なのでどこまで再現してくれるかは分からないが。
頑張れ、俺の脳みそ。
さてさて、一番最初に動くのは誰だ?
「「「…………」」」」
…俺かよ!
どうやら俺が一番槍みたいだ。
未だ敵ユニットとの距離は遠いから、適当に動いても良いと思うが、俺が何マス進めるのかが分からない。
というかそもそも、移動もオリュゲイオン方式なのだろうか。
もし同じなら、移動を確定するまで動き回れるし、ここらで試してみるか。
うろうろうろ…
「おい、遊びに来たんじゃないんだぞ!」
フィールドを歩き回っていると、レナードに怒られた。
怒鳴られたからって訳じゃないが、俺は移動を止めた。
検証結果、移動はオリュゲイオンのシステムと変わらないことが分かった。
歩行距離はまっすぐ進んで3歩程。
斜めに移動すると、角度をつける程遠くには行けなくなるみたいだ。
次は行動終了だが、何もしなければ終わるのかな?
俺が移動を止めてから5秒ほど待つと、他のユニットが動き出す。
うむ、終わるつもりが無いのに、うっかり動きを止めないように気をつけなきゃいけないな。
どうやら次はクリスくんみたいだ。
「やあ、次のターンで接敵しそうだね」
横に並んだクリスが言う。
「ああ。見たところ大したこと無さそうだが、油断は禁物だな」
「うん、そうだね。ボクらの初陣に、一点の曇りもない白星を飾ろう!」
敵の強さなんぞ見たところで判らんが、この夢がゲーム通りなら全然大した事ない筈だ。クリスくんの見立てでもそうらしいので、安心して戦えるな。
夢の中でも死にたくなんかないし…
クリスが行動を終えたことで次のユニットに行動権が移る。
次に動いたのはレナードだ。
口煩いレナードも、戦場では冷静沈着な様だ。特に無駄口を叩く事も無く、行動を終える。
これを機に敵のターンが始まった。
先ず、戦士風の見た目をした男が動く。
目測、3歩程の距離だ。
更に敵のユニットが動く。
最初に動いた男の右につく。
次も敵ユニットだ。
こちらは男の左についた。
となると、あれが敵の指揮官か。
指揮官とは何か。それを説明するには、オリュゲイオンのシステムについて話さなければならない。
オリュゲイオンには、主に2つのユニットタイプがある。
それは命令を出すことのできる指揮官ユニットと、その命令を聞く戦闘ユニットだ。
指揮官ユニットは文字通り、部隊の指揮を執るユニット。
戦闘ユニットも文字通り戦闘するユニットなのだが、指揮官ユニットだからといって戦闘が出来ない訳ではない。
指揮官ユニットだけが他ユニットの行動を指揮することが出来、指揮ユニットが居なければ戦闘は自動的にオートバトルになってしまうのだ。
それだけでなく、味方に指揮ユニットが居るだけで、戦闘ユニットのステータスが一定数上がるなどの効果もある。
よって、指揮官ユニットは率先して狙うべきであり、敵からも当然狙われる。
さて、そんな素晴らしい指揮官ユニットであるが、もちろん味方にもいる。
それこそが主人公たるクリスなのだ。
接戦を強いられる高難易度の戦いでは、強制オートバトルは致命的だ。
それどころか、普通に戦えば勝てる相手にすら負けてしまう。
主人公が倒されたら負け!
大変シンプルでよろしい。
それはそうと、敵ユニットのターンは続くみたいだ。
意外と敵もバカでは無い。指揮官の周りに戦力を集中し守りを固めるといった、基本に忠実な陣形を組んできた。
最序盤なのに、抜け目無いね?
俺なんか何も考えずに前に出ちゃったのにさ。
まあ、こちらも最終的には同じ様な陣形となった。
俺とクリス、レナードを先頭に後ろに傭兵達が立ち並ぶ。
傭兵達を壁にして、俺たちが後ろで構えても良いし、そのまま殴りかかっても良い。クリスの側面は俺とレナードで塞がれていて、正面の空きマスからしか攻撃出来ないからだ。
ただ、一撃で敵を仕留められなかった場合、敵ユニットの行動順を考えると、2回攻撃を受けてしまう。
殴ってから後退、後ろに控えていた奴らが入れ替わりで入って殴ることが出来る。
さて、どうするかな。
ターンが一巡して、俺の番が回って来たみたいだ。
俺は攻めを選択することにした。
こんな所で時間を割いてはいられない。
俺が狙うのはもちろん大将首…ではなくその横のモブ戦士だ。
指揮官ユニットは特別な人物がなるので、ユニットの形質とは別に、ステータスが高めになる傾向がある。
なので、そう易々と撃破出来ない。
それは最序盤であるこのステージでも変わらず、他のザコが一撃で屠れるにも関わらず、指揮官は複数回殴らなければ倒せないのだ。
「恨むなら、自分の出自を恨むんだな!」
ズバッ!
俺はモブ戦士の前に辿り着くと、手にした武器を振り抜く。
赤い血が飛び散ると、敵は崩れ落ちた。
まずは一人撃破。
そしてこれで俺の前には壁が出来た。
ユニットは倒されると"遺体"となってその場に留まる。
それから4ターン経つと遺体がロストして、その場から消え去るのだが、それまでは遺体の占有パネルとなり、誰もそこに立ち止まることが出来ない。
このステージでは飛び道具を使うユニットが、敵味方共にいないので、敵を倒すだけで、自分の身を守ることが出来る。
「クリス、最初に動いた奴の右側にいる奴を狙え!」
俺が倒したモブは向かって左側の奴だ。
クリスがモブを倒し、レナードが指揮官ユニットを攻撃すれば、クリスに隣接する空きパネルは2つのみ。
何も敵から遠く、移動の範囲外なのでクリスの安全は守れる。
レナード?いや、別にあいつはいいでしょ。俺?横に障害物あるから、一番安全なんだよね。
レナードについては、きちんとした理由もあるがな。
「わかった!」
クリスは俺の指示通りに動く。
「ハアッ!」
敵モブは倒れ遺体となった。
レナードが続いて動く。
「ちっ!損な役回りさせやがって…」
文句を言いながらも、ボスモブを攻撃する。やはり、一撃では倒せないみたいだ。
ターンが周り、ボスモブが動き出す。
「くっ、良くもあいつらを…くらえっ!」
痛みにレナードが顔を歪めるが、大したこと無いらしい。けろっとしている。
ボスモブもだが、剣で切りつけられても死なないってすごいな。
実際に見ると結構驚きだ。
俺が感動している間にも、動きが止まることはない。
ボスモブが攻撃を終えて後ろに下がる。
続いてザコモブがレナードの前へ。
「せりゃ!」
レナードはナイフを突き立てられるも、ピンピンとしている。
ボスモブの攻撃に加えて二撃目だが、大してダメージはないみたいだ。
「その程度か?お返しだ!」
「ぐわっ!?」
モブの攻撃が終わると、突然レナードが動き出し、反撃の体当たりを喰らわせた。
これはリアクションアビリティだ。
アビリティ毎に特定の条件が課せられ、それが満たされると、そのユニットにターンが来ていなくても発動する。
今発動したのは、カウンタータックル。
威力はやや低めだが、序盤から使える数少ないリアクションアビリティだ。
通常攻撃を受けた時、攻撃者に体当たりで反撃する。
威力は低めだが、序盤は通常攻撃が大きなダメージソースとなっているので、かなり有効なアビリティである。
小憎たらしいことに、レナードだけが最序盤でも使える様になっている。
俺がわざとレナードを矢面に立たせたのも、これが一因だったりする。
そうでなくてもしたけどな。
更にターンが巡り、味方の傭兵達が動き出す。彼らはぴったりと俺たちの後ろに並んでついた。
役に立たねぇ…俺の所為だけどね。
続いて俺のターンが来る。
純粋な戦闘力の差もあるし、敵の数はもう4人だ。反撃を恐れることなく攻めることが出来る。
さあ、後はさくっと片付けますか。
最序盤ということもあり、簡単に詰めることが出来た。消化試合である。
追い詰められたボスモブが、身分差による貧富の格差とかを声高に主張してきたが問答無用で斬り伏せた。
この先へ進む為にも、倒さなければいけないしな。俺がやらなくても、他の誰かがやるだろうし。
しかし、クリスは何か思う所があったみたいだ。
「本当にこれで良いのだろうか…」
哀しげな表情で呟くクリス。
「仕方のないことだと、割り切るしか無いだろうな」
レナードも何処か思う所があるみたいだが、自分の立場を弁えているみたいだ。
身分差をテーマにしたこの作品、こういう場面は割りかし多い。
資本主義社会となり、身分は平等とされている現代でも、貧富の差は無くなる事なく開き続けている。
むしろ拡大しているといっても良いだろう。それは解決できる問題なのか、そうでないのか、する必要もないものなのか。
今の俺には答えが出せない。
身分差のある社会に馴染んでいるレナードやクリスと、俺は何も変わらない。
しかし、何はともあれ卒業試験は突破した。報告に戻ろうか。
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