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とある居酒屋の店員達 1
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北海道札幌市。
市内にある歓楽街『すすきの』。
其処には大型ネオン看板が幾つもあり、その明かりにより夜中でも昼の様に明るくした。
交差点には名物と言われる「ヒゲのおじさん」もあった。
歓楽街のネオン看板に火に集まる虫の様に仕事を終えた会社員達が引き寄せられていく。
一時の安らぎを得んが為に店の戸を開けて入っていった。
そんなすすきのの外れにひっそりとある一軒の居酒屋。
軒先には屋号が書かれた看板があった。
屋号は『青木』と書かれていた。
掲げられている赤ちょうちんの明かりにも黒字で屋号が書かれていた。
その店の引き戸が開かれた。
と同時に店で食事をしていた客が出て行った。
ちなみに、その客は人ではなくコボルトであった。
「ありがとうございました!」
出て行く客を見送る店員。
店員は頭を上げると、その客が座っていた椅子に行き皿を片付けていた。
年齢は二十代ぐらいで、濡れた烏の様な色の髪を後ろで一つ結びにしていた。
動き易さを重視した制服の上に黒いエプロンを着ていた。
中背で可愛らしい顔立ちをしていた。
歳の割りに発育が良い方では無く、腰は細いが胸も尻も大きいとは言えなかった。
溌溂とした雰囲気をだしていた。
カウンター席の向こうには料理をする料理人が居た。
たすき掛けした着流しを纏い、頭には料理帽を被っていた。
年齢は三十代で、短く切り揃えた黒髪で精悍そうな顔立ちをしていた。
店員の名は青木令奈と言い、料理人は青木信之介と言う。
「今日はもう店じまいにするか」
信之介が目に付く所に置いている時計を見た。
時刻は午後十一時を過ぎていた。
歓楽街の中心地ではまだやっている店は多いだろうが『青木』がある店の大通りより少し外れた所に所にあった。
なので、十一時を過ぎると客足がぷっつりと途絶える。
特に今日は金曜日ではなく水曜日。
花の金曜日であれば、もう少し営業時間を伸ばすのだが、水曜日であれば伸ばす必要が無かった。
信之介が厨房の片づけをしていると、令奈も暖簾を仕舞い戸に鍵を掛けた。
そして、二人は店内を綺麗に掃除した。
掃除が終わる頃には、時刻はもう十二時を過ぎていた。
「今日の営業も無事に終わったね。しんちゃん」
「ああ、そうだな」
真剣な表情で包丁を研ぐ信之介に声を掛ける令奈。
そんな信之介を見ながら、指折り数える令奈。
「札幌に来て、もう二年になるね。最初来た時はわたし達が暮らしていた故郷よりも寒くてやっていけるか心配だったけど、大丈夫だったね」
「そうだな・・・・・・」
令奈の会話に返事をしながら包丁の研ぎ加減を確認する信之介。
「まさか、令奈お嬢さんと一緒になるとはあの時は思いもしなかったな~」
満足に遂げた包丁を仕舞いつつ感慨深げにつぶやく信之介。
「あっ、また出た。もう、お嬢さんと言うのは駄目って言ってるでしょう!」
令奈が頬を膨らませた。
「ああ、ごめん。うっかりでたな」
自分の失言に謝る信之介。
「気を付けてね。時々出るんだからね」
「はは、善処するよ」
頭を掻きながら苦笑いする信之介。
この二人は夫婦であるのだが、実は駆け落ち婚であった。
令奈の旧姓は下山と言い実家は京都にある料亭『下山』を経営していた。
信之介は『下山』で修業していた板前であった。
其処で椀方をする程の腕前で、あと数年したら脇板になれるだろうと言われていた。
その関係で二人は知り合い、やがて恋に落ちた。
二人は順調に交際を重ねていたが、其処にある不幸が齎された。
『下山』の経営が悪化して、このままでは店が無くなると言われていた。
そんな中で令奈の両親は状況を打開する為に、常連客でさる金持ちに令奈を嫁がせて金を借りようという話が出た。
令奈はその話を両親から聞いた時は大反対した。
しまいには、令奈は信之介と話をした。
そして、二人はその日の内に荷物を纏め置手紙を残して駆け落ちした。
京都を出た二人は北へ北へと行き、最終的に札幌に辿り着いた。
信之介が働いてきた金で店を借りて居酒屋『青木』をオープンした。
一年ほど経った頃に二人は結婚した。
その半年後。風の噂で『下山』が廃業したという話を聞いた。
令奈の両親と従業員達はどうなったのか分からなかった。
実家が潰れたという話を聞いた令奈は驚いたが、特に動揺する事は無かった。
家を出た時点で縁を切ったと思っていた令奈。
潰れたという話を聞いても何とも思わなかった様だ。
「でも、もう二年か。早いものだ」
「そうね」
二人はしみじみとしながら話した後、店の明かりを消して住居としている奥へと向かった。
市内にある歓楽街『すすきの』。
其処には大型ネオン看板が幾つもあり、その明かりにより夜中でも昼の様に明るくした。
交差点には名物と言われる「ヒゲのおじさん」もあった。
歓楽街のネオン看板に火に集まる虫の様に仕事を終えた会社員達が引き寄せられていく。
一時の安らぎを得んが為に店の戸を開けて入っていった。
そんなすすきのの外れにひっそりとある一軒の居酒屋。
軒先には屋号が書かれた看板があった。
屋号は『青木』と書かれていた。
掲げられている赤ちょうちんの明かりにも黒字で屋号が書かれていた。
その店の引き戸が開かれた。
と同時に店で食事をしていた客が出て行った。
ちなみに、その客は人ではなくコボルトであった。
「ありがとうございました!」
出て行く客を見送る店員。
店員は頭を上げると、その客が座っていた椅子に行き皿を片付けていた。
年齢は二十代ぐらいで、濡れた烏の様な色の髪を後ろで一つ結びにしていた。
動き易さを重視した制服の上に黒いエプロンを着ていた。
中背で可愛らしい顔立ちをしていた。
歳の割りに発育が良い方では無く、腰は細いが胸も尻も大きいとは言えなかった。
溌溂とした雰囲気をだしていた。
カウンター席の向こうには料理をする料理人が居た。
たすき掛けした着流しを纏い、頭には料理帽を被っていた。
年齢は三十代で、短く切り揃えた黒髪で精悍そうな顔立ちをしていた。
店員の名は青木令奈と言い、料理人は青木信之介と言う。
「今日はもう店じまいにするか」
信之介が目に付く所に置いている時計を見た。
時刻は午後十一時を過ぎていた。
歓楽街の中心地ではまだやっている店は多いだろうが『青木』がある店の大通りより少し外れた所に所にあった。
なので、十一時を過ぎると客足がぷっつりと途絶える。
特に今日は金曜日ではなく水曜日。
花の金曜日であれば、もう少し営業時間を伸ばすのだが、水曜日であれば伸ばす必要が無かった。
信之介が厨房の片づけをしていると、令奈も暖簾を仕舞い戸に鍵を掛けた。
そして、二人は店内を綺麗に掃除した。
掃除が終わる頃には、時刻はもう十二時を過ぎていた。
「今日の営業も無事に終わったね。しんちゃん」
「ああ、そうだな」
真剣な表情で包丁を研ぐ信之介に声を掛ける令奈。
そんな信之介を見ながら、指折り数える令奈。
「札幌に来て、もう二年になるね。最初来た時はわたし達が暮らしていた故郷よりも寒くてやっていけるか心配だったけど、大丈夫だったね」
「そうだな・・・・・・」
令奈の会話に返事をしながら包丁の研ぎ加減を確認する信之介。
「まさか、令奈お嬢さんと一緒になるとはあの時は思いもしなかったな~」
満足に遂げた包丁を仕舞いつつ感慨深げにつぶやく信之介。
「あっ、また出た。もう、お嬢さんと言うのは駄目って言ってるでしょう!」
令奈が頬を膨らませた。
「ああ、ごめん。うっかりでたな」
自分の失言に謝る信之介。
「気を付けてね。時々出るんだからね」
「はは、善処するよ」
頭を掻きながら苦笑いする信之介。
この二人は夫婦であるのだが、実は駆け落ち婚であった。
令奈の旧姓は下山と言い実家は京都にある料亭『下山』を経営していた。
信之介は『下山』で修業していた板前であった。
其処で椀方をする程の腕前で、あと数年したら脇板になれるだろうと言われていた。
その関係で二人は知り合い、やがて恋に落ちた。
二人は順調に交際を重ねていたが、其処にある不幸が齎された。
『下山』の経営が悪化して、このままでは店が無くなると言われていた。
そんな中で令奈の両親は状況を打開する為に、常連客でさる金持ちに令奈を嫁がせて金を借りようという話が出た。
令奈はその話を両親から聞いた時は大反対した。
しまいには、令奈は信之介と話をした。
そして、二人はその日の内に荷物を纏め置手紙を残して駆け落ちした。
京都を出た二人は北へ北へと行き、最終的に札幌に辿り着いた。
信之介が働いてきた金で店を借りて居酒屋『青木』をオープンした。
一年ほど経った頃に二人は結婚した。
その半年後。風の噂で『下山』が廃業したという話を聞いた。
令奈の両親と従業員達はどうなったのか分からなかった。
実家が潰れたという話を聞いた令奈は驚いたが、特に動揺する事は無かった。
家を出た時点で縁を切ったと思っていた令奈。
潰れたという話を聞いても何とも思わなかった様だ。
「でも、もう二年か。早いものだ」
「そうね」
二人はしみじみとしながら話した後、店の明かりを消して住居としている奥へと向かった。
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