堕ちた英勇の子

正海広竜

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第七話

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  翌日。



 エドワードは自室のカーテンから差し込んだ朝日を浴びて目を覚ました。

 もう、朝になったのかと思いながらエドワードは身体を起こそうとしたが。

「うん?」

 左腕が重かった。

 正確に言えば、左腕に何かが乗っている様な感じであった。

 エドワードは何だろうと思い掛かっている布団をどけると。

「んん、あ、おはよう、えどにィ……」

 猫の様に丸まってエドワードの腕を枕にして寝ているストラーの姿があった。

 布団をどけた事で明かりが差し込んだ様で、それで目を覚まし朝の挨拶をしてきた。

「…………」

 エドワードはストラーが寝ている事に一瞬驚いたが、直ぐに怒りが湧いた。

「ベッドに潜り込むのは止めろと言っているだろうが‼⁉」

 屋敷に響き渡る怒声と供にストラーの頭に拳骨を叩き込むエドワード。

 その怒声を聞いても屋敷に居るサンドラ達は、首を振りながら溜め息を吐いた。



「いったい~、もう可愛い妹が起こしてあげようとしたら、エド兄の寝顔を見てて、眠たくなって眠っていただけなのに~」

「それおかしいでしょうっ」

 ストラーがまだ痛む頭を抑えながら文句を言うが、クリュネはその発言に突っ込んだ。

「ええ~、いいじゃん。別に義理とは言え兄妹なんだから、問題ないでしょう?」

「あるに決まっているでしょう。そんな、破廉恥な事を許せる訳が無いわっ」

 ストラーは何が問題なのか分からない顔をして、そんな事を言うのでクリュネが兄妹が一緒に寝るのは問題だと説いていた。

 朝から元気だなと思いながらコンクリートで舗装された道をエドワード達。

 ちなみに、デュランダルは早朝の内に仕事に向かっていたので今朝の騒動など知らない。

 クリュネとストラーが言い合いをしている中で、ヘレネはエドワードの左側に寄り添っていた。

「朝から賑やかだね。兄さん」

「そうだな」

 少々騒がしいと思いつつエドワードは青い空を見上げた。

 透き通りそうな位な青さに目を奪われていると。

『可愛い妹達に囲まれて楽しそうだな。兄弟』

 そんな気分を台無しにするような声が聞こえて来た。

(何か用か? テッド)

 頭に響く声にエドワードは心の中で訊ねた。

 デュランダルや義妹達が居る時は姿も見せない声も上げないのに、今日は珍しく姿を見せて声を掛けて来たので訊ねるエドワード。

『なに、面白い事が起こるから見ておこうと思ってよ。ほら、前方の電灯を見ろよ』

 テッドが言う通りに前方を見ると、其処にはアルティナが居た。

 誰かを待っているのか、頻りに髪を弄りながら足踏みしていた。

 エドワードの視線を感じたのか、アルティナはエドワードを見るなり笑顔で手を振ろうとしたが、直ぐにクリュネ達を見て固まった。

 そんなアルティナに構わずエドワードが近付く。

「おはよう。ティナ」

「おはよう。エド。それと」

 アルティナはちらりとクリュネ達を見る。

 クリュネ達はアルティナを見るなり、敵を見る目で見ていた。

「「「おはようございます。アルティナさん」」」

 異口同音でクリュネ達はアルティナに挨拶をする。

「お、おはよう。四人共」

 アルティナは顔を引きつらせながら挨拶を返した。

 挨拶を終えたクリュネ達はエドワードにくっつきだした。

「おい。歩きづらいぞ。何をしているんだ?」

「何だか、お兄ちゃんとくっつきたくて」

「あたしも~」

「わたしも」

 クリュネ達は突然エドワードにくっつきだした。

 三人が甘えるのを見て、アルティナは羨ましそうに見ていた。

 ストラーはそんなアルティナを見てニンマリと笑った。

 アルティナは悔しそうに唸りだした。

 突然、唸りだすアルティナに首を傾げつつエドワードはアルティナと共に学院へと向かった。

 「じゃあ、エド兄。勉強頑張ってね~」

「お昼は一緒に食べようね」

「後で」

 クリュネ達はエドワードにそう言い離れて行った。

 クリュネ達が通う学校とエドワード達が通う学院は同じ敷地にある。

 なので、容易に行き来する事が出来た。

「ああ、分かった」

 そう言って手を振るエドワード。

 そして、クリュネ達から視線を外した。

 その瞬間を見計らうかのようにクリュネとストラーはアルティナに向かって赤い舌を出した。

 それを見たアルティナはカチンとしたが、逃げる様に離れて行くクリュネ達。

 ヘレネは二人の行いを代わりに謝る様にペコリと頭を下げて、クリュネ達の後を追いかけて行った。

「どうかしたか?」

「ううん。なんでもないわ……」

 エドワードが訊ねると、アルティナは顔を引きつらせながらも何でもない様に答える。

 その様を見てテッドは腹を抱えて笑っていた。

 その姿はエドワードにしか見えないとは言え、何がそんなに面白いのか分からずエドワードは首を傾げた。

「それにしても、今日は三人一緒だったのね。珍しいわね」

 何時もはエドワード一人か、ストラーかヘレネのどちらかを連れて学院に向かっているので珍しい事もあるのねと言わんばかりに訊ねるアルティナ。

「ああ、まぁ。ちょっとした事があってな」

 エドワードは肩を竦めた。

 普段であればヘレネかストラーのどちらかがエドワードの登校に付いて来る。

 クリュネが付いてこないのは、三人の中で一番朝が弱いからだ。

 エドワードが登校する時間になっても寝ている事など良くあった。

 その為、遅刻しない様にストラー達の誰かが付き添っている。

 何かしらの当番などがある場合は三人で登校する。

 なので、今日みたいに四人で仲良く登校する事は珍しいと言えた。

 その理由がエドワードが目を覚ますなり、自分のベッドの中にストラーが居たので、起こす際の騒動でクリュネが起きた。

 それで一緒に登校する事になったのだ。

「むぅ~」

「何をむくれているんだ? ほら、早く学院にいくぞ」

「分かったわよ」

 アルティナは何か釈然としない顔をしていたが、エドワードに言われて気持ちを切り替えてエドワードの左側に立った。

 これは左側が見えないエドワードの事を慮っての事だ。

「ったく、何で、こいつはこんなにライバルが多いのかしら、他にもこいつを狙っている人は居るしし…………」

 エドワードには聞こえない様に小声でブツブツと呟くアルティナ。

 何を言っているのか分からないが、何かを言っていることだけ分かるのでエドワードは嘆息する。

『モテモテだな。兄弟。いやぁ~、お前は将来どんなハーレムを築くんだろうな~。ひひひ』

 揶揄いながら笑うテッド。

 何処を向いても五月蠅いのしかいないと思いながら、エドワード達は学院へと入って行った。
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