堕ちた英勇の子

正海広竜

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第九話

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 アイギナ達を加えたエドワード達はある所へ向かった。

「何処に行くのかしら?」

「この学院に入った時に偶々見つけた所です」

 アイギナが訊ねて来たので、エドワードが簡単に説明した。

 偶々、森の実習の時にオスカーとエドワードが見つけた所だ。色々と手を加えて、秘密基地みたいな所となった。エドワード達が向かっているのは、その内の一つだ。

 その場所の事を知っているのはアイギナ達以外のエドワードの幼馴染達と義妹達だけだ。

「そうなの。そんな所があるなんて、知らなかったわ」

「まぁ、パッと見ではそうなっているとは思えない所にありますからね」

「それは楽しみだわ。それにしても」

 アイギナはエドワードの周りを見た。

 エドワードの周りにはクリュネ達が居た。

 クリュネ達はエドワードに甘えている様に見えるが、実際はアイギナとエドワードが近付きすぎない様にくっついていた。

「仲が良いのね。貴方達」

 そんなクリュネ達を見て微笑ましいモノを見たかのように目を緩ませる。

「すいません。人見知りが激しくて皇女様に対して失礼だと思うのですが・・・・・・」

 済まなそうに頭を下げるエドワード。

「ヘレネは分かるけど、クリュネとストラーって人当たりが良いと思ったけど?」

「……そうだな」

 シモンファルトが不思議そうに首を傾げるが、ランドルフは意味ありげに笑う。

 ランドルフの妹がクリュネ達と同じ学校で同じクラスなので、クリュネ達がエドワードの事をどう思っているのか知っているからだ。

 ちなみに、その妹はオスカーに好意を持っていた。

「……まぁ、気持ちは分かるけどね」

 苦笑いするオスカー。

「ふふふ、お兄ちゃん大好きっという感じね」

「そうだな」

 ルイーズとアンリの二人はクリュネ達の行動を見て微笑んでいた。

 エドワードからしたら不敬に問われないか気が気でなかったが、アイギナが特に何も思っていない様なので安堵した。

 そうして歩いていると、大きな樹が見えた。

 樹齢数百年は経っていそうな大木で幹ですら人が五人くらい横に並ぶ位に太く、沢山ある大木の中でもこの樹だけは一際高かった。

 それに比例して枝もかなり太かった。

「これはこの学院が設立した時からあるオークの木のようだけど、これがどうかしたの?」

「まぁ、見ていてください」

 エドワードは笑いながらオスカー達に合図を送った。

 それを見たオスカー達は樹の根元に向かう。

 根元には洞があったが、木が生えており進むのを妨害させていた。

「この場所は悪くないけど、幾度に木をどけるのが面倒だよね」

「同感っ」

「うむ」

 オスカーは呟きながら木を折っていく。その呟きにシモンファルト達も同意した。

 そうして、木を折って進むと木製の扉が見えた。

 オスカーはその取っ手に手を掛けながら呟いた。

「中途半端はいけない」

 そう呟きながら扉を開いた。

 開かれた扉からは黄金色に輝く空間が見えた。

「じゃあ、御先に」

 オスカーがそう言ってアイギナ達に一礼してその扉を潜った。

 シモンファルトとランドルフも同様にアイギナに一礼してその扉を潜っていった。

「あれは?」

「潜れば分かりますよ」

 そう言ってエドワードが扉を潜る様に促した。

「姫様。まずは我々が」

 ルイーズとアンリの二人がそう言うなり、扉を潜った。

 少しすると、アンリが戻って来て。

「問題ありませんわ」

「そう。じゃあ」

 安全を確認されたアイギナはアンリと一緒に扉を潜った。

 眩い空間の中を通り抜けると。

「……此処はっ」

 アイギナの目には広い草原が目に入った。

 青い空に開かれた野原。

 先程までは森の中であったのに、どうして野原に出ているのか不思議であった。

 遠くには何かの動物が草を食べているのが見えた。

「何なの、此処は?」

「此処はあの木の中に扉の中にある異空間ですよ」

 アイギナの疑問に義妹達と共に扉を潜ったエドワードが答えた。

「異空間なの?」

「はい。何かしらの魔法道具だと思います。特に害がないので俺達の秘密基地みたいな感じで使っています」

「……そう」

 これほどの異空間を作り出す魔法道具などそうそうお目に掛かれないのでアイギナは興味深そうに見ていた。

「少し行った所に小屋があります。其処で詳しく話します」

「お願いね」

 エドワードはアイギナの案内をした。

 無論、クリュネ達はエドワードから張り付く様にくっついていた。
エドワードの案内で進むアイギナ達。

 アイギナの友達兼護衛役をしているルイーズは警戒していたが、アンリの方はのほほんとしていた。

 そうして歩いていると、立派な作りの小屋が見えてきた。

 小屋と言う割には大きく、明かりを取り入れる窓などが付けられていた。

「あの小屋?」

「ええ、元々あった小屋を俺達が改造してああなりました。この空間は雨が降らないので」

 主に改造したのはエドワードとランドルフで、オスカーやシモンファルトはその手伝い。

 アルティアに至っては手伝いもしないのに、何だかんだ言って五人の中で一番使用頻度が高い。

「そうなの」

 アイギナは面白そうに小屋を見ていた。

 すると、其処に一頭の馬が駆け寄って来た。

 黄金色の毛で体格も立派で大高は二メートル近くあった。

「大きい馬ね。誰の馬なの?」

「・・・・・・自分のです」

 エドワードは失礼が無いように馬を宥めつつ答える。

「エドの。名前は?」

「ドヴェルクと言います」

「そう」

 アイギナはドヴェルクに触れようと手を伸ばしたが、ドヴェルクは身を捩りアイギナの手から離れた。

 そして、ドヴェルクは鼻を鳴らすと、離れて行った。

 その様を見てエドワードは頭を下げた。

「申し訳ありません。あいつ、人見知りで中々人に懐かないんです」

 普段からドヴェルクはエドワード以外の誰かに身体を触られるのも乗られるのも嫌がる。

 アルティナに至っては見つけるなり威嚇してくる。

 威嚇されたアルティナも喧嘩を売られていると感じたのか、よくドヴェルクの背に乗ろうと頑張っているが、未だに成功していない。

「別に良いわ。馬は元来、臆病な生き物なんだから」

 アイギナは気にした様子はないのを見てエドワードは安堵の息を漏らした。

 ルイーズもアンリも特に気にした様子はなかった。

「では、どうぞ」

 エドワードが小屋の扉を開けてアイギナ達を入れた。

 室内は思ったよりも広く、それでいて色々な物が置かれていた。

 食事用のテーブルやイス。置物や玩具。果てはダンベルなどの身体を鍛える器具などが置かれていた。

「狭い所ですが。御寛恕を」

「別に気にしていないわ。むしろ、秘密基地というのはこんな感じなのかしらね」

 アイギナは小屋の中を面白そうに見て回っていた。

 その間とばかりにオスカー達やルイーズたちがお昼の準備をしていた。 

 クリュネ達にはその間の世話役をさせた。

 この間、誰も一言も話していないがアイコンタクトを取り決めていた。

 学年は違えど、エドワード達は幼馴染なのである程度のやり取りは目を見ただけで出来た。 
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