堕ちた英勇の子

正海広竜

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第十二話

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「入学式の時は公務があって会えなかったけど、その制服似合っているわね。二人共」

「お褒めの言葉。恐縮です」

「き、恐縮です」

 エドワードはすんなりとアルティナは詰まりながらも挨拶に答えた。

 アルティナはカサンドラの事が苦手であった。

 アイギナの朗らかな雰囲気とは違い冷気さえ感じる冷たくも妖しい雰囲気。

 睨みつけている様にしか見えない目。

 ポーカーフェイスで何を考えているか分からせない。

 普段から明朗快活を地でいくアルティナ。

 考えを悟らせない様に冷徹に振舞うカサンドラ。

 性格が違うからか馬が合わない二人。

 エドワードはカサンドラとは幼馴染達とは別に親しくしているのでカサンドラの雰囲気を苦手と感じる事はなかった。

「入学式の時に使いの者から、手紙で『何かの部に入るのを決める時は、先に騎乗部の説明会を聞きに着なさい』と書かれていたので参りましたが」

「まだ、入るか決めていないんでしょう。じっくり考えたら良いわ。今日、呼んだのは、久しぶりに顔を見たいと思ったから呼んだようなものだし」

「左様で」

 この人らしいなと思いながら頷くエドワード。

「そう言えば、アイギナ様は学院でお見掛けしましたが、お元気そうでしたよ」

「そう、まぁ。アイギナなら今頃、媚を打って自分の派閥を作ろうと頑張っているでしょうね」

 アイギナの名を聞くなり、カサンドラは鼻で笑いながら茶を飲む。

 アイギナとカサンドラは腹違の姉妹だが、仲が悪かった。

 エドワードの母のラトレダが後宮の警備を統括している関係で、エドワードは偶に皇女達の母親である妃たちが催す茶会に参加していた。

 なので、それなりに親しくしているのであった。

 カサンドラの話を聞いて苦笑するエドワード。

 暫く会っていなかったが、昔のまんまだなと思い笑った。

「‥…女性の前で他の女性の話をするのは失礼よ。エド」

「これは失礼しました」

 何が気に入らないのか、カサンドラの声に苛立ちが混じっていた。

 エドワードは何が気に入らないのか分からず、とりあえず謝った。

「それとカサンドラ様」

「何かしら?」

「わたしはこの騎乗部にも入りたいです」

「あら、随分と早く決めたわね。でも、他の部にも入るのね」

「はい。友達に誘われましたので」

 アイギナの名を出さないのは、カサンドラとアイギナは仲が悪いので名を出したら妨害とかするかも知れないと思ったからだ。

「友達ね……オスカーかシモンファルトのどっちかしら?」

 カサンドラはエドワードの友達と聞いて、オスカー達の名を挙げた。

 これはエドワードの交友関係を知っているからこそ言える事であった。

「ああ~……シモンですね」

 元々、シモンファルトがアイギナを連れてきた事でアイギナが入っている部に入る事を決めたので、シモンファルトに誘われたというのもあながち間違いではなかった。

「そう……まぁいいわ。其処の所は好きにしなさい」

「ありがとうございます」

 カサンドラのが好きにしろと言うので、エドワードは頭を下げた。

 これで駄目だと言いでもしたら、面倒な事になったので助かったと思うエドワード。

 その後は久しぶりに会うからか雑談に興じる二人。

 その間、アルティナは終始無言であった。

 しばし、雑談に興じていたエドワード達であったが。カサンドラが思い出したように手を叩いた。

「いけない。騎乗部に関する説明を忘れていたわね。ごめんなさい」

「お気になさらずに。それで、騎乗部に関する説明とは何を話すのですか?」

「基本的に騎乗できる魔物であれば、学院が用意するわ。餌代、世話代なども全部込みで」

「ほぅ、それは気前がいいですな」

「ただし、あまり大型な種は駄目だからね。昔、大型の火竜を用意しろという人も居たけど、勿論却下されたから」

 カサンドラは話を聞いて同意とばかりに頷くエドワード。

「どんな魔物に乗りたいのかは入部した時に書いて提出して頂戴、後はこちらで用意して、提出した人に合っているかどうかを調べるから」

「自前で用意するのは大丈夫ですか?」

 其処が気になり訊ねるエドワード。

 騎乗部に入るのであれば、愛馬のドヴェルクにしようと思っていた。

「別に良いわよ。偶に自前で用意するのがいるから。ただし、さっき言ったみたいに大型の竜とかは無しよ」

「心得ております」

 流石に大型の竜に乗るなど有り得ないだろうと思うエドワード。

「そうそう、その内茶会を開くのだけど、参加する?」

「それはご勘弁を」

 ついでとばかりに勧めてくるカサンドラにエドワードは断りを入れた。

「つれないわね。まぁ、良いわ。これで説明は終わりだけど」

「では、失礼します。この後、妹達と一緒に買い物をする予定になっていますので」

 聞きたい事を聞けたエドワードは長居は無用とばかりに、ありもしない予定を言って一礼して教室から出て行った。

 呆気にとられるアルティナ達。

「ふぅ、じゃあ。仕方がないわね。ティナ」

「は、はい」

「貴方は暇? 暇でしょう。暇よね?」

 目が笑っていない笑顔を浮かべつカサンドラはアルティナに訊ねる。

 もし、用事があると言えばどうなるか分からない。

 そういう顔であった。

「え、えっと・・・・・・・はい。なにも、ありません」

「そう。じゃあ、ちょっと久しぶりにお話をしましょう。暇なのだし」

「は、はい・・・・・・」

 蛇に睨まれた蛙の様に固まるアルティナ。

 カサンドラは笑顔であった。

(え、エド~~~~~~~~~~~‼)

 アルティナは心の中で此処には居ないエドワードに恨みの声を上げた。



 教室を出たエドワードは校門まで早足で駆け抜けた。

「・・・・・・どうにか切り抜けた」

 誰も居ないので、思わず安堵の息をもらすエドワード。

 生贄アルティナを置いて来た事には何の罪悪感を感じなかった。

「すまない。ティナ。明日、お詫びするから」

 エドワードは心の中でアルティナに謝った。

 そうして、校門を潜ると。

「あ、出て来た」

「お兄ちゃん~」

 校門を出るとクリュネとストラーが出迎えた。

「どうした? 二人共。今日は早く帰れと言っただろう」

「ぶ~、お兄ちゃんをお迎えに来たのに~」

「可愛い妹達が迎えに来たのに、そんな事を言うの。信じられない~」

 頬を膨らませながらエドワードの対応に文句を付けるクリュネ達。

「ヘレネは?」

 エドワードは首を動かすが、ヘレネの姿が無いので訊ねた。

「ヘレネなら、うちに居るわよ」

「今日の授業の予習をしていると思う」

「真面目なあいつらしいな」

 一人だけ勉強しているヘレネの姿を頭に思い浮かばせて噴き出すエドワード。

「じゃあ、帰りにお土産に何か買って帰るか」

「「賛成」」

 エドワードはクリュネ達の手を掴みながら家の帰路についた。
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