人喰いの剣と無能少年の代償

荒川千鶴

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第3話 焚べよ命

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 超火力の炎が、小さな人間がいた場所を通り過ぎる。
 全てを灰にするブレスの後に残ったのは。

「戻れるんなら、命だってくれてやる」

 火を纏う聖剣使いだ。
 聖剣が刺さっていた右手から火が噴き出し、体を覆う。
 その火はリセインを傷つけることなく、むしろ回復させていた。

「……!」

 異様な姿のリセインを恐れず、トロールは再び棍棒を振りかざす。
 足は震えなかった。手はしっかりと聖剣を握っていた。

 ザギィィン!!

 股ぐらから脳天まで切り裂いて、真っ二つにする。
 トロールは切られたことが一瞬わからなかったらしく。

「ギャ? ギャアアアーーーッ!?」

 間の抜けた断末魔を上げながら消えていった。
 息をつかずにリセインは近くにいたコボルトを狙う。
 肩から反対の腕に向かって、丁度コアを切れるように。

「ピギィィィッッ!」

 するすると、思った通りに聖剣が通る。
 思った以上の力が出ているかもしれない。
 これが聖剣。これが力。

「ははは」

 乾いた笑いがこぼれる。
 楽しさもあるが、それ以上に感じたことがあった。

「もっと早く戦えたら、みんなを守れたかなぁ」

 入り口を防ぐドラゴンを仕留めたいところだったが、周りの魔物に妨害されたら良くない。
 潰そう。

―――
――


 おれは、聖剣が祀られた神殿で泣いているのを発見された。
 聖剣が生んだのかもしれないし、誰かが捨てたのかもしれない。
 祭司たちは剣の子にしたようだが。

 聖剣を持つものとしてリセインと名付けられたおれは、その出自に相応しくない身体能力だった。
 足が遅いわ、腕はへなちょこだわ、剣技もまともにこなせないわ。

 調べたところ、おれには魔力が全くないことがわかった。
 かなり驚かれた。人間には必ず魔力が備わっていて、それで強化したり魔法を使っているらしい。ないのは死人ぐらいだと。
 だからか、と諦めた大人たちの目は酷く覚えている。

 そんなときに出会ったのが剣士だった。あいつは省かれていたおれに話しかけ、遊ぶようになった。

 剣士になる前からそれにちなんだ名前なのは不思議だったが、どうやらこの世界では名付ける際に能力の鑑定をするらしい。
 その適職をもとに名前を考えるそうだ。

 剣士は優秀だった。向いてるだけあって、すぐに覚えてしまう。
 一時期は「聖剣を剣士に与えては」なんて話も出た。
 それはすぐに掻き消えた。
 力がある剣士でも、聖剣を持ち上げることさえできなかったのだ。

 ただ唯一、おれが出来ること。
 他人には重いらしい聖剣を振り回せること。
 聖剣の子であるという証明。


 聖剣を手放してはいけない。

 聖剣こそがおれの存在価値なのだから。

 これがなかったら、誰も、おれを。


――
―――

「剣だけあったって、意味ないのにな」

 あらかた魔物を倒したリセインは、自嘲しながら剣の切っ先をドラゴンに向けた。

「ギャオォォォーーーァ!!」

 ブレスが吐かれるも無傷。
 尻尾のなぎ払いも難なくかわす。
 噛みつきだってリーチが短くて無駄だ。
 たとえ傷がつけられても纏わりつく炎が舐めれば消えるのだから、消化試合である。

 ドラゴンの首を切り落とす。
 まだ動く。
 切り刻む。
 露出したコアを貫く。

 ドシンと重低音を響かせて魔物が倒れ伏した。

「あれ。魔物を倒したのはいいけど、出口ってどこだ……?」

 ここはダンジョン。罠と迷路が張り巡らされた場所。
 リセインは迷子になってしまった。

 出会いがしらに塵に帰る魔物。
 発動しようが突破される罠。

 ゲームにおけるチートのような、小気味いいが味気ない手触り。
 ふと気づく。

「炎、細くなってないか?」
『我が使役するは魔力。その炎はお前が吸収させたものよ』

 剣に問いかけたつもりは無かったものの、返事が返ってきたので続ける。

「じゃあ、吸った分を使い切ったら……?」
『二度は言うまい。思う存分、過ぎた力を味わうがいい』
「もう一回、もう一回言ってくださりませんか聖剣様」
『媚びるでないわ!』

「……と。逆に来ちゃったみたいだな」

 リセインは大扉の前までたどり着いた。
 ダンジョンに必ずあるもの、通称ボス部屋。
 ダンジョンボスを倒せば魔物は湧いてこなくなり、ダンジョンの入り口まで戻れる装置が起動する。
 魔物にとって何の得があるのかわからないが、そういう仕組みになっていた。

 リセインは悩む。
 もうすぐ魔力が尽きるかもしれない。ボス戦の最中にそうなったら最悪だ。引き返すべきか?
 ダンジョンの中で魔力が尽きるのだって最悪だろう。
 ドラゴンにはなかなか会えないし、トロールたちに囲まれたら死ぬ。
 罠だってゴリ押せない。

「短期決戦で行くしかないか!」

 意を決して扉に触れる。
 開けようとせずとも、触れることが挑むという意思表示だった。

 重い音を立てて扉が開いていく。
 中は見えない。

「今から行くから、待ってろよ」

 踏み込む。
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