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第2話 己を責める
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「ここで終わりなんて思わないでよね……!!」
ヒーラーが、立ち上がった。
煤で黒く染まった指を開いて呪文を口にする。
「垂らせ精霊 我が盟友に 生命の雫を。正しき肉へ 正しき骨へ」
折れていた肋骨が動き出し、繋ぎ直される。
潰れていた肺は空気を取り入れ始める。
焼けた肌が交換され、体中の異常が治っていく。
その間、痛みは無かった。
むしろ柔らかい毛布に包まれるような、心地良い感覚。
大丈夫。
あなたは起き上がれる。
「ギリギリ助かったぜ……」
「ドラゴンが向こうにいるうちに、早くワープを」
「ごめんみんな__!?」
バタリと彼女が倒れた。リセインが駆け寄り、魔術師と武闘家が診る。
「ヒーラーさん!?」
「治ってないのか!?」
「いや、傷は無いです。ただこれは」
彼女の身体には奇妙なアザが浮かんでいた。
細く黒い模様は、身体にヒビが入ったようにも見える。
それを見た武闘家が言う。
「なんてこった、こいつは魔裂け……短期間に粗悪な魔力を使いすぎるとできるもんだ」
「し、死なないよね!?」
「今はまだ。だが魔法を使い続ければいずれ魔力循環に支障をきたして死に至る」
使わなくても、生きているだけで微量の魔力は流れる。
長生きはできないだろう。
告げられた言葉は、旅の離脱を意味した。
「おれのせいで……。治す方法は……?」
「まだ確かなもんが見つかってなくてな。俺が聞いたやつだと、ごく限られた場所にしか生えない薬草が効くとか」
「それがこれだったんだ」
一人帰還の準備をしていた剣士が呟いた。
剣士は腰に下げていた袋を引きちぎり、リセインたちの前に投げる。
袋、というよりも炭のほうが正しいそれは、もはや何が入っていたのかわからなくなっていた。
癒術の対象は人間だ。
薬草までは治してはくれなかった。
「村のガキが『お母さんを助けて』っつってさ」
剣士は床に魔法陣を描く。
「話を聞けば、ダンジョンが最近出てきたせいでみーんな魔物の対処に追われてて」
普通はチョークで描くはずの魔法陣が赤い。
「そいつの親が一番魔法を使うもんだから、変なアザが出てきて」
「それは……」
「魔裂けだって」
「……」
リセインも、魔術師も、武闘家も沈黙するしかなかった。
「笑えるよ、ほんと」
描く手が荒くなる。
リセインは、その線がぬらぬらと光っていることに気がついた。
「剣士?」
「他人を助けたい馬鹿が、大事な人たちを殺しかけてようやく気がつくんだ。自分が身の程知らずだったってことに」
リセインは床にうずくまる幼馴染を覗き込み、息を呑んだ。
剣士は指を硬い地面に押し付け、流れた血で描いていたのだ。
「剣士! 止めろよ、手が!」
「もうすぐ終わるんだ邪魔しないでくれ!」
「……っ!」
ごめん、と言おうとした。
言葉が喉のあたりで詰まって、ただの息として吐かれる。
目の奥が痛い。
「剣士くん。その薬草はこの中にあったんですね?」
様子を見ていた魔術師が尋ねる。
「そうだよ。もう真っ黒コゲだけど」
「再生させましょう。正直できるかは五分五分ですが……」
どん
どんっ
ドンッ!
ドンッッ!!
ガラ……ガラガラガラッ!!
「無事出たらな! 撤退するぞリーダー! 嬢ちゃんは俺が背負う!」
「……ああ! 今終わった。帰ろう」
ドラゴンの体当たりにより石壁が崩れた。
それでもまだ入るには狭いらしく身をよじっている。
武闘家はヒーラーをかつぎ、魔術師は魔法陣のなかに入る。
剣士がワープストーンを手に発動呪文を呟く。
魔法陣が光り始め、ゆっくりと回り始める。
リセインは、ドラゴンが息を吸って首を膨らませるのを凝視する。知っている動きだった。
あいつ、炎を吐くつもりか!
そのことに仲間たちは気がつかない。
『お前に何が出来る』
『お前に命を捨てる覚悟があるのか』
『たった一人、孤独に死ぬ覚悟が』
死にたくない。
苦しい思いだってしたくない。
けれど。
「何やってんだ馬鹿!!」
「戻ってくださいリセインくん!」
「っ! ブレスか!!」
いま行かなきゃ、いつ役に立つんだ。
聖剣を構えると同時に放たれるブレス。
何もかもを焼き尽くす炎が、うずを巻いて聖剣に吸収されていく。
背後は見られないが、光が一瞬強くなって消えたのを感じた。
声も、もうしない。
一人だ。
ブレスを耐える腕に、力が入らなくなる。
もういいか。死ぬなら棍棒よりも火のほうがマシだろ。
知らないけど。
『これで、女だか母親だかを助けたと思っているのか?』
声は止まない。
うるさいな。魔術師が薬草を戻せたら大丈夫でしょ。
量が少ないとしても、街に行けば優秀な__
『魔裂けは草程度では治らん』
__は?
『目に見えるほど裂けてしまっては、半年と経たず命を落とす。今の人間では何もできまい』
冗談だろ。おれの幻聴だよな? 死ぬ前に気分悪くさせなくたっていいじゃん。冗談だって言ってくれ。何なんだよお前!
『我 剣の神霊なり 影を通じて語る者 主どもの魂を喰らう者』
『力を望むのであれば 汝の命を焚べよ』
な、なに……? 今までの声は聖剣のやつ?
なんで今さらになっ。
ドガァンッ!!!
吹っ飛ぶ身体。投げ出される剣。
同じ轍を踏んだと気づいたのは、ぐるぐる回る視界にトロールやらコボルトやらが居たことで。
そうだよな。戦いの最中に考えごとしてちゃ、いけないよな。
べチャリッ
壁にぶつかって、ゴミのようにずり落ちる。
遅れて聖剣が飛んできて右手に刺さった。
今回は痛みがない。痛すぎて神経がどうにかなったのか、ヒーラーの治癒が効いているのか。
「どっちでもいい……。痛くないなら、動ける」
怖いとか、嫌われたくないとか、言ってる場合じゃない。
おれが死んだら。
「あいつ、エグい自傷するからよぉ!! 死んでも生きなきゃいけねーんだわ!!!」
めちゃくちゃな思考のまま、おれはぶっ刺さった聖剣を力任せに引き抜いた。
次の瞬間、ドラゴンの猛火がおれを包み込んだ。
ヒーラーが、立ち上がった。
煤で黒く染まった指を開いて呪文を口にする。
「垂らせ精霊 我が盟友に 生命の雫を。正しき肉へ 正しき骨へ」
折れていた肋骨が動き出し、繋ぎ直される。
潰れていた肺は空気を取り入れ始める。
焼けた肌が交換され、体中の異常が治っていく。
その間、痛みは無かった。
むしろ柔らかい毛布に包まれるような、心地良い感覚。
大丈夫。
あなたは起き上がれる。
「ギリギリ助かったぜ……」
「ドラゴンが向こうにいるうちに、早くワープを」
「ごめんみんな__!?」
バタリと彼女が倒れた。リセインが駆け寄り、魔術師と武闘家が診る。
「ヒーラーさん!?」
「治ってないのか!?」
「いや、傷は無いです。ただこれは」
彼女の身体には奇妙なアザが浮かんでいた。
細く黒い模様は、身体にヒビが入ったようにも見える。
それを見た武闘家が言う。
「なんてこった、こいつは魔裂け……短期間に粗悪な魔力を使いすぎるとできるもんだ」
「し、死なないよね!?」
「今はまだ。だが魔法を使い続ければいずれ魔力循環に支障をきたして死に至る」
使わなくても、生きているだけで微量の魔力は流れる。
長生きはできないだろう。
告げられた言葉は、旅の離脱を意味した。
「おれのせいで……。治す方法は……?」
「まだ確かなもんが見つかってなくてな。俺が聞いたやつだと、ごく限られた場所にしか生えない薬草が効くとか」
「それがこれだったんだ」
一人帰還の準備をしていた剣士が呟いた。
剣士は腰に下げていた袋を引きちぎり、リセインたちの前に投げる。
袋、というよりも炭のほうが正しいそれは、もはや何が入っていたのかわからなくなっていた。
癒術の対象は人間だ。
薬草までは治してはくれなかった。
「村のガキが『お母さんを助けて』っつってさ」
剣士は床に魔法陣を描く。
「話を聞けば、ダンジョンが最近出てきたせいでみーんな魔物の対処に追われてて」
普通はチョークで描くはずの魔法陣が赤い。
「そいつの親が一番魔法を使うもんだから、変なアザが出てきて」
「それは……」
「魔裂けだって」
「……」
リセインも、魔術師も、武闘家も沈黙するしかなかった。
「笑えるよ、ほんと」
描く手が荒くなる。
リセインは、その線がぬらぬらと光っていることに気がついた。
「剣士?」
「他人を助けたい馬鹿が、大事な人たちを殺しかけてようやく気がつくんだ。自分が身の程知らずだったってことに」
リセインは床にうずくまる幼馴染を覗き込み、息を呑んだ。
剣士は指を硬い地面に押し付け、流れた血で描いていたのだ。
「剣士! 止めろよ、手が!」
「もうすぐ終わるんだ邪魔しないでくれ!」
「……っ!」
ごめん、と言おうとした。
言葉が喉のあたりで詰まって、ただの息として吐かれる。
目の奥が痛い。
「剣士くん。その薬草はこの中にあったんですね?」
様子を見ていた魔術師が尋ねる。
「そうだよ。もう真っ黒コゲだけど」
「再生させましょう。正直できるかは五分五分ですが……」
どん
どんっ
ドンッ!
ドンッッ!!
ガラ……ガラガラガラッ!!
「無事出たらな! 撤退するぞリーダー! 嬢ちゃんは俺が背負う!」
「……ああ! 今終わった。帰ろう」
ドラゴンの体当たりにより石壁が崩れた。
それでもまだ入るには狭いらしく身をよじっている。
武闘家はヒーラーをかつぎ、魔術師は魔法陣のなかに入る。
剣士がワープストーンを手に発動呪文を呟く。
魔法陣が光り始め、ゆっくりと回り始める。
リセインは、ドラゴンが息を吸って首を膨らませるのを凝視する。知っている動きだった。
あいつ、炎を吐くつもりか!
そのことに仲間たちは気がつかない。
『お前に何が出来る』
『お前に命を捨てる覚悟があるのか』
『たった一人、孤独に死ぬ覚悟が』
死にたくない。
苦しい思いだってしたくない。
けれど。
「何やってんだ馬鹿!!」
「戻ってくださいリセインくん!」
「っ! ブレスか!!」
いま行かなきゃ、いつ役に立つんだ。
聖剣を構えると同時に放たれるブレス。
何もかもを焼き尽くす炎が、うずを巻いて聖剣に吸収されていく。
背後は見られないが、光が一瞬強くなって消えたのを感じた。
声も、もうしない。
一人だ。
ブレスを耐える腕に、力が入らなくなる。
もういいか。死ぬなら棍棒よりも火のほうがマシだろ。
知らないけど。
『これで、女だか母親だかを助けたと思っているのか?』
声は止まない。
うるさいな。魔術師が薬草を戻せたら大丈夫でしょ。
量が少ないとしても、街に行けば優秀な__
『魔裂けは草程度では治らん』
__は?
『目に見えるほど裂けてしまっては、半年と経たず命を落とす。今の人間では何もできまい』
冗談だろ。おれの幻聴だよな? 死ぬ前に気分悪くさせなくたっていいじゃん。冗談だって言ってくれ。何なんだよお前!
『我 剣の神霊なり 影を通じて語る者 主どもの魂を喰らう者』
『力を望むのであれば 汝の命を焚べよ』
な、なに……? 今までの声は聖剣のやつ?
なんで今さらになっ。
ドガァンッ!!!
吹っ飛ぶ身体。投げ出される剣。
同じ轍を踏んだと気づいたのは、ぐるぐる回る視界にトロールやらコボルトやらが居たことで。
そうだよな。戦いの最中に考えごとしてちゃ、いけないよな。
べチャリッ
壁にぶつかって、ゴミのようにずり落ちる。
遅れて聖剣が飛んできて右手に刺さった。
今回は痛みがない。痛すぎて神経がどうにかなったのか、ヒーラーの治癒が効いているのか。
「どっちでもいい……。痛くないなら、動ける」
怖いとか、嫌われたくないとか、言ってる場合じゃない。
おれが死んだら。
「あいつ、エグい自傷するからよぉ!! 死んでも生きなきゃいけねーんだわ!!!」
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次の瞬間、ドラゴンの猛火がおれを包み込んだ。
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