1 / 17
蒼穹学園の王子様……?
男性恐怖症
しおりを挟む※本作品は話のタイトルごとにページが分かれているため、ページ数が少ないです。ご了承ください。
男性恐怖症
───────────────
父は、仕事も行かずに、お酒ばかりを母に要求していた。
「もっと酒を買ってこい!」
「も、もうやめて……お酒もお金も、無いのよ……」
「うるせぇ!とっとと酒を買ってこい!」
お酒が手元に無いとすぐに癇癪を起こし、母や私に手を上げた。
父が私を殴ろうとしたら、母は私を包むように抱きしめて、「ごめんね、ごめんね……」と呟く。
母の体は、日に日にアザだらけになっていった。
それは、私が5歳の時。
母の腕の中で泣くことしか出来ない自分の無力さに、幼いながらも怒りを覚えた。
母は私のために、そして生きていくために、いずれ父の手に渡るお酒を買うために、朝の6時から夜の8時まで仕事へ行く。
朝の6時はさて置き、夜の8時は割と普通の帰宅時間。
母は、あと2時間は働きたかったと思う。
でも、それでは私を預けている保育園の時間に間に合わないのだ。
仕事に行っていないから当たり前だけど、父は一日中家にいる。
だから、私を守るために、なけなしの貯金で保育園に入れた。
保育園は、唯一気が休まるところだった。
保育園から家に帰る間、その日の保育園での出来事を母に話す時間は、私にとっておやつの時間よりも楽しかった。
でも、至る所が錆びた見慣れたアパートが見えてくると、母と私の顔から、笑顔が失われる。
母の顔をチラッと見ると、今にも泣きそうな顔をしていた。
「……おかあさん」
その声を聞くと、私に顔を向け、ニコッと弱々しい笑顔を見せた。
その顔を見ると、私まで泣きそうになってくるのだ。
でも、母にこれ以上心配をかける訳にいかないから、泣き顔を隠すために目線をふいっと逸らす。
そして、階段を登り、薄汚れたドアノブを握って扉を開けた先に待っているのは、いつものあの声。
耳を、脳を、体を裂くような、おぞましい声。
「酒はあるんだろうなぁ!?」
「え、ええ………ここに」
「寄越せっ」
そう言いながら母の手から強引にお酒を奪って、口に流し込む。
逃げるように、私と母は手を繋いで別の部屋へ行く。
そしてコンビニで買った120円のパンを2人で分けて食べる。
お酒を買わなかったら、もっとたくさんご飯を食べることが出来る。
でもそれだと父に殴られて。
家を出たら、父に会わなくてもいいし、お酒も買わなくて済む。
でもそれだとホームレスになる。
母は、まだ幼い私のために、寒さを凌げる場所はあった方が良いと考えたのだろう。
だから、父からの要求を飲み、痛みにも耐え、重労働にも弱音を吐かず、あのアパートの一室で夜を越す。
そんな日々を送っていたある日。
いつものように帰宅し、扉を押しても、あの声が聞こえてこなかった。
それは、私が6歳になって1ヶ月が経った頃。
母も私も、その理由に勘づいていた。
1歩、2歩、3歩……小さな歩幅で7歩進んだ時。
目に映りこんだのは、畳の床に横たわる父の姿だった。
あれ程のお酒を毎日飲んでいたのだから、いつ亡くなってもおかしく無かった。
母と私は、へなへなとその場に座り込んだ。
そんな2人の胸には、悲しいや淋しいという気持ちは無く、ただただ……
安心。
それだけだった。
父の両親は既に他界しているし、母の両親は父のことを嫌っているから葬儀は行われなかった。
思えば、昔は優しかった父が変わってしまったは、不慮の事故で両親を亡くした時からだ。
それほど、両親のことを愛していたのだろう。
父が亡くなった時、母は、大企業のそれなりに良い職に就けていた。
だから、元のアパートからは遠く離れた所へ引越しをして、小学校にも入れてくれた。
入学式の日、担任の先生から花を貰って嬉しくて仕方がなかった私が、母の所へ行き、笑顔で
「はい、おかあさんっ。綺麗なお花、あげる!」
と言って渡すと、母は安心したのか、涙を流した。
でもその顔は、父がいた時のような苦しい涙ではなく、笑顔で流した、綺麗な涙だった。
「わぁ、綺麗なお花。ありがとう、お母さん、大事にするね」
そう言っている母の笑顔を見るなり私も涙が溢れてきて、2人して号泣しているから、周りからは色々な目線を向けられた。
でも、そんなの気にしない。
私は、凄く幸せだから。
でも、その幸せも長くは続かなかった。
入学して2ヶ月経った6月、母は過労で倒れてしまった。
検査をすると、もう手の施しようのない、重い病にも犯されていることが分かった。
今まで症状が出ていなかったのがおかしい程の。
「ごめんね……明日、参観日なのに……」
「ううん、おかあさんは休んでて。私、おかあさんが居なくても、頑張るよっ。だから、安心して」
そう言ってみせると、「うんっ」と笑って、また涙を流していた。
私は、近くに住んでいる叔母のところに預けられることになった。
その次の日の参観日当日、慣れない家を出て学校に向かった。
私はいっぱい発表して、授業が終わった後には、先生に褒められた。
先生は、母が倒れて参観日に来れなくなったことを知っている。
だから、気を使ってくれたのかもしれない。
そして母は、入院生活が始まって半年後、亡くなってしまった。
「お母さん……少し、休まないといけないみたい。あなたが大きく育ったら、好きな人が出来て、子供が生まれて……もしかしたら、孫や曾孫まで会えるかもしれないわね」
「?おかあさん……?」
何か、いつもとは違う。
そんな気だけがしていた。
「まだあなたには難しかったかしら………そうね、お母さんが言いたいことはね。あなたに幸せになって欲しいということよ。いつだって自分のことを信じて、大切なものを守るのよ」
「守る?」
「そう、守る。守りきったら、きっとあなたは、世界で1番の笑顔で笑うんだろうなぁ……ああ、見てみたか、った……」
「おかあさん、おかあさんっ」
気づけば私は、理由が分からないまま泣いていて。
「またね……」
そして、私の名を呼ぶ。
母は、最期の時まで、笑顔で涙を流していた。
でも、私に笑顔は無く、母はただ目を閉じているだけかもしれないにも関わらず、声を上げて大号泣した。
本能的に分かってしまったのだ。
母は、帰らぬ人になってしまったと。
──────────
私は、2年生になった。
1年生の間に、参観日は各学期に2回ずつの、計6回行われた。
そして、毎回親が来ない私のことを不思議に思った生徒や保護者の中で、ある噂が広まった。
『親に捨てられたんじゃない?』
『親が亡くなったんじゃない?』
小学校2年生の子供は、親がいないと貧乏という解釈になるらしい。
私は、その噂が大きくなっていくにつれ、貧乏人だ、と虐められるようになった。
「貧乏人が来たぞ、逃げろー!」
朝、私が登校してくると、汚れると言って近づこうとしない。
「家じゃ何も食えねぇんだろ?じゃ、
これやるよっ」
給食中にそう言って私のお皿に入れてくるのは、その男の子が嫌いだというキノコ。
そんな虐めが続いていた。
嫌だったけれど、殴られていたあの頃よりはマシだと思いながら、耐えていた。
ある日、いつもみたくノートが無くなっていた……というか、隠されていた。
次の授業で使うのに……。
どこにあるのかと探していると、ある男の子が私のノートを見つけたらしく、私の元へ届けてくれた。
みんなは私のこと、避けるのに……
不思議に思い、誰だろうと顔を見た。
その子は、とても顔立ちが整っていた。
長いまつ毛に大きな瞳、黒髪はサラサラで、愛らしい桃色の頬。
これほど綺麗な子なら、1クラスしか無いから既に顔を知っていてもおかしくないのに、今までどうして見なかったんだろう?
私の疑問を読み取ったかのように、その子は教えてくれた。
「俺は3年で君の1個年上。君の前に、このクラスのやつに虐められてた。俺もよくゴミ箱に捨てられてて、今日もクセで見に行ったら君のがあったから、持ってきた」
この子も、虐められていたの?
そう思うと、今虐められている自分のことは忘れて、同情心が湧いた。
可哀想。
その一心で、私はその子を抱きしめた。
「なっ……何」
驚いている姿なんて眼中に無かった私は、その子を抱きしめた腕を緩めて、目を合わせて言った。
「ノートを見つけてくれて、ありがとうっ」
そう言った時の私の笑顔は、久しぶりに見せた明るい表情だったと思う。
「っ……次の授業に間に合うなら、良かったよ」
その出来事から、私とその子は仲良くなった。
あの子、明日も学校に来てくれるかな?
と思っていたら、次の日も、そしてその次の日も、その子は来てくれた。
学年が違うし、休憩時間はいじめっ子達にいじめられるから、それ以外の朝と放課後だけだけど、一緒に笑って過ごした。
でも、それはクラスのいじめっ子達にとって面白くなかったらしい。
虐めが、エスカレートしていった。
私とその子は、いじめっ子達から逃げるため、休憩時間は学校の裏に行って過ごしていた。
でも、透明人間ではない私たちが、バレずにいられるはずもなく。
ある日、いじめっ子達のリーダー的な存在の男の子は、片手に石を持ってやってきた。
まさか……っ。
見事に予想的中。
男の子は、私目掛けて石を投げた。
「きゃあっ」
ぎゅっと目をつぶった。
………あれ?
でも、痛みは襲ってこない。
恐る恐る目を開けると、そこには、私を庇って頭から血を流して倒れている男の子の姿が。
「い、や……きゃああああ!」
「お、俺は……っ」
石を投げた男の子が弁解しようと、私に1歩近づいた時。
私の体はビクンと跳ねた。
瞳には恐怖の色が浮かんでいて、それは、父の降り掛かってくる拳を目の前にした時の瞳と同じだった。
手をあげる父と虐めてくる男の子。
それが私、小戸森優羽(こともりゆう)が、男性恐怖症になった原因だと思う。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます
白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。
特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。
だがある日、突然の婚約破棄通告――。
「やはり君とは釣り合わない」
そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。
悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。
しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。
「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」
「よければ、俺が貰ってやろうか?」
冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!?
次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには
「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」
――溺愛モードが止まらない!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
貧乏神と呼ばれて虐げられていた私でしたが、お屋敷を追い出されたあとは幼馴染のお兄様に溺愛されています
柚木ゆず
恋愛
「シャーリィっ、なにもかもお前のせいだ! この貧乏神め!!」
私には生まれつき周りの金運を下げてしまう体質があるとされ、とても裕福だったフェルティール子爵家の総資産を3分の1にしてしまった元凶と言われ続けました。
その体質にお父様達が気付いた8歳の時から――10年前から私の日常は一変し、物置部屋が自室となって社交界にも出してもらえず……。ついには今日、一切の悪影響がなく家族の縁を切れるタイミングになるや、私はお屋敷から追い出されてしまいました。
ですが、そんな私に――
「大丈夫、何も心配はいらない。俺と一緒に暮らそう」
ワズリエア子爵家の、ノラン様。大好きな幼馴染のお兄様が、手を差し伸べてくださったのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる