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七十周年特別企画製品
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「それで、スライドはこれからなんだけど、簡単に製品イメージだけ説明しておくわ」そう言うと、七十周年特別企画製品のスライドを進めた。
「お願いします」私が顔を上げると同時にノックの音がした。
「はい、どうぞ」ゆっくり開いたドアの向こうには北口社長がいた。
「丁度良かった、その話をしに来たんだ」
「ありがとうございます。私もこれから説明をするところでした。社長の方からご説明されますか?」
「あぁ。二人とも昨日説明したから、簡単には知ってると思うが、来年は七十周年記念の大事な節目の年になる。関東さんに七十周年特別企画製品を既にお願いしてある。そこでだ、春奈、お前もやってみろ」
「え?」何のことかさっぱり分からなかった。
「いえ、社長、春奈さんは私のサポートで業務を覚えながらの予定なんですが」
「そんなことは分かってる。色々と教えてもらいながら、春奈は春奈で作ってみろ」
「は、はい。分かりました」意味が分からなかったが、入社したばかりの私に拒否権等ないと思い、咄嗟に首を縦に振った。
「二人でそれぞれに七十周年特別企画製品を作ってくれ。良いと思ったほうに決済を下す。必ず商品化を約束する」
「い、いえ、でも社長、今回の案件はつい先月社長から直々に私にご依頼いただいた案件なので」
「関東、お前もくどいな。そんなことは分かってる。七月第一週に中間報告会を行う。そして、十月の第一週に最終報告会を行う。それから半年は実機試作と製造準備を並行して行う。以上」そう言って、黙って部屋を出て行った。
その後一言も喋らず、関東さんも部屋を後にした。
黒川君と二人、沈黙の時間が流れる。
「こ、これは」
「ま、まぁ、黒川君は林さんに色々教えてもらって、私は私で関東さんに色々教えて貰いながら頑張るよ。頑張ろうね」
「はい、春奈さん応援してます」
「ありがとう。私も君を応援してるよ」今日の最終は品質保証部の豊田さんと品質管理部の宮木さんからそれぞれに説明をいただいたが、あまり頭に入ってこなかった。
今日も定時となり、立見常務から帰っていいよと声を掛けられた。
帰宅前に黒川君が林さんに挨拶に行っていたので、ホッと安心した。
私は私で関東さんに挨拶をしなきゃなのだが、どこにも見当たらない。
「立見さん、すみません。関東さんはどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
「あぁ、関東さんなら水谷部長と第二会議室にいるんじゃないかな?覗いてみてくれる?」
「分かりました、ありがとうございます。また来週から宜しくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。来週からは特に私も声をかけないから、帰宅時は関東さんに声を掛けてね」
「はい、ご親切にありがとうございます」
「黒川君にも伝えといてもらえる?」
「分かりました。伝えておきます」下駄箱にはまだ黒川君の外履きがある。
時刻が六時十五分を回る頃、黒川君が現れた。
「黒川君、お疲れ様」
「春奈さん、お疲れ様です。待っててくれたんですか?」
「待ってただなんて恥ずかしいからやめてよ。立見さんがさ、来週からは帰る時に林さんに挨拶してから帰ってねって。私はもう声かけないからねって」
「それを伝えるのに待っててくれたんですね」
「だから、待ってないって!」つい彼の一言には期待して、笑ってしまう。
不思議な力を持ってる。
「黒川君、今日良かったらご飯でもこの後行かない?」
「え、いんですか?行きたいです!ありがとうございます!」
「良かった。私の知ってるお店でもいい?」
「はい、ありがとうございます」そう言うと、それぞれ車に乗り、目的の日本料理屋に着いた。
「いらっしゃいませー」
「六時半で予約してた北口です。すみません、遅れちゃって」
「北口様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」通された席からは児島湾が見え、夕陽の重なりが心を躍らせる。
「綺麗ですねー」
「綺麗ね」
「あ、あの、予約してたんですか?」
「予約?ううん、元々友達と行く予定だったんだけど、ついさっきキャンセルされちゃってさ」なんて嘘をついた。
「そうだったんですね、代わりに誘っていただけるなんて、幸せです」私も幸せな気分になる。
「メニューを何になさいますか?」
「この本日のオススメコースってなんですかね?」
「ありがとうございます。本日はママカリと桜鯛のコースがご提供出来ます」
「美味しそうですね。私オススメコースにします」
「ありがとうございます。お客様は何になさいますか?」
「すみません、ママカリってなんですか?」僕の質問に春奈さんは小さく口を抑えた。
「ママカリは岡山県の郷土料理によく使われるんですよ。隣のお家から飯(まま)を借りる程に美味しいってよく言われます」
「へー、僕も同じのにします」
「ありがとうございます」お店の人は一礼をして、奥へと戻っていった。
「あれ、黒川君って地元どこなの?」
「僕は福井県です。とは言っても父親が転勤族だったので、何とも言えないですけどね」
「そうなんだぁ、知らなかった」
「春奈さんは就職してから東京に?」
「ううん、私は大学進学と同時に東京に行ったの。まぁ、元々北口デニムに入るつもりは無かったんだけどね。なんか、色々あって入社しちゃった」その先は今聞いても答えてくれない。そんな気がした。
「そうなんですね、人生色々ありますもんね」君はどんな人生を生きていたのか、少し気になる。
私が何で出会ったばっかりの君にこんなに夢中になりかけているのか、私にも分からない。
君が同じ料理を頼んでくれたことに、嬉しく思った。
恋人じゃなくていい、そんなんじゃなくていいから、長く君といたい。
「お願いします」私が顔を上げると同時にノックの音がした。
「はい、どうぞ」ゆっくり開いたドアの向こうには北口社長がいた。
「丁度良かった、その話をしに来たんだ」
「ありがとうございます。私もこれから説明をするところでした。社長の方からご説明されますか?」
「あぁ。二人とも昨日説明したから、簡単には知ってると思うが、来年は七十周年記念の大事な節目の年になる。関東さんに七十周年特別企画製品を既にお願いしてある。そこでだ、春奈、お前もやってみろ」
「え?」何のことかさっぱり分からなかった。
「いえ、社長、春奈さんは私のサポートで業務を覚えながらの予定なんですが」
「そんなことは分かってる。色々と教えてもらいながら、春奈は春奈で作ってみろ」
「は、はい。分かりました」意味が分からなかったが、入社したばかりの私に拒否権等ないと思い、咄嗟に首を縦に振った。
「二人でそれぞれに七十周年特別企画製品を作ってくれ。良いと思ったほうに決済を下す。必ず商品化を約束する」
「い、いえ、でも社長、今回の案件はつい先月社長から直々に私にご依頼いただいた案件なので」
「関東、お前もくどいな。そんなことは分かってる。七月第一週に中間報告会を行う。そして、十月の第一週に最終報告会を行う。それから半年は実機試作と製造準備を並行して行う。以上」そう言って、黙って部屋を出て行った。
その後一言も喋らず、関東さんも部屋を後にした。
黒川君と二人、沈黙の時間が流れる。
「こ、これは」
「ま、まぁ、黒川君は林さんに色々教えてもらって、私は私で関東さんに色々教えて貰いながら頑張るよ。頑張ろうね」
「はい、春奈さん応援してます」
「ありがとう。私も君を応援してるよ」今日の最終は品質保証部の豊田さんと品質管理部の宮木さんからそれぞれに説明をいただいたが、あまり頭に入ってこなかった。
今日も定時となり、立見常務から帰っていいよと声を掛けられた。
帰宅前に黒川君が林さんに挨拶に行っていたので、ホッと安心した。
私は私で関東さんに挨拶をしなきゃなのだが、どこにも見当たらない。
「立見さん、すみません。関東さんはどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
「あぁ、関東さんなら水谷部長と第二会議室にいるんじゃないかな?覗いてみてくれる?」
「分かりました、ありがとうございます。また来週から宜しくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。来週からは特に私も声をかけないから、帰宅時は関東さんに声を掛けてね」
「はい、ご親切にありがとうございます」
「黒川君にも伝えといてもらえる?」
「分かりました。伝えておきます」下駄箱にはまだ黒川君の外履きがある。
時刻が六時十五分を回る頃、黒川君が現れた。
「黒川君、お疲れ様」
「春奈さん、お疲れ様です。待っててくれたんですか?」
「待ってただなんて恥ずかしいからやめてよ。立見さんがさ、来週からは帰る時に林さんに挨拶してから帰ってねって。私はもう声かけないからねって」
「それを伝えるのに待っててくれたんですね」
「だから、待ってないって!」つい彼の一言には期待して、笑ってしまう。
不思議な力を持ってる。
「黒川君、今日良かったらご飯でもこの後行かない?」
「え、いんですか?行きたいです!ありがとうございます!」
「良かった。私の知ってるお店でもいい?」
「はい、ありがとうございます」そう言うと、それぞれ車に乗り、目的の日本料理屋に着いた。
「いらっしゃいませー」
「六時半で予約してた北口です。すみません、遅れちゃって」
「北口様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」通された席からは児島湾が見え、夕陽の重なりが心を躍らせる。
「綺麗ですねー」
「綺麗ね」
「あ、あの、予約してたんですか?」
「予約?ううん、元々友達と行く予定だったんだけど、ついさっきキャンセルされちゃってさ」なんて嘘をついた。
「そうだったんですね、代わりに誘っていただけるなんて、幸せです」私も幸せな気分になる。
「メニューを何になさいますか?」
「この本日のオススメコースってなんですかね?」
「ありがとうございます。本日はママカリと桜鯛のコースがご提供出来ます」
「美味しそうですね。私オススメコースにします」
「ありがとうございます。お客様は何になさいますか?」
「すみません、ママカリってなんですか?」僕の質問に春奈さんは小さく口を抑えた。
「ママカリは岡山県の郷土料理によく使われるんですよ。隣のお家から飯(まま)を借りる程に美味しいってよく言われます」
「へー、僕も同じのにします」
「ありがとうございます」お店の人は一礼をして、奥へと戻っていった。
「あれ、黒川君って地元どこなの?」
「僕は福井県です。とは言っても父親が転勤族だったので、何とも言えないですけどね」
「そうなんだぁ、知らなかった」
「春奈さんは就職してから東京に?」
「ううん、私は大学進学と同時に東京に行ったの。まぁ、元々北口デニムに入るつもりは無かったんだけどね。なんか、色々あって入社しちゃった」その先は今聞いても答えてくれない。そんな気がした。
「そうなんですね、人生色々ありますもんね」君はどんな人生を生きていたのか、少し気になる。
私が何で出会ったばっかりの君にこんなに夢中になりかけているのか、私にも分からない。
君が同じ料理を頼んでくれたことに、嬉しく思った。
恋人じゃなくていい、そんなんじゃなくていいから、長く君といたい。
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