藍は墓泣く

のんカフェイン

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倒れた大黒柱

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「え、これ黒川君が?」

「フォーマットは立見常務からいただきました」

「ははは。そこは、はい、自分で作りました。でいいよ」

「中々、社会の言葉は難しいですね」

「まぁ、冗談だよ。でも、時間までにちゃんとまとめてくれたね。ありがとう。それで春奈さん、黒川君がまとめてくれた通りで、こうやって見ると、中々厄介な質問も来てたね」

「はい、イメージ操作に近い物も感じました」

「正直、そうだよね。ただ、厄介な中にも使える質問もあったように思うからね、そこのQ&Aを紐解いていこう」

「はい、宜しくお願いします」

「まずは新規性がないとのことだったけど、これは放っておいていい質問だと思う。充分に新規性はあるから、置いておこう。

次に本当に出来るのかって言う質問だけど、これは明日以降のスモール試作に移るから、そこで検証していこう。

次に黒以外は出さないのか?手抜きではないのか。はどうかな?」

「今の時代、もう皆選択し続けることに疲れてると思うんです。デニムの会社だけでどれだけありますか?そう思うと悪戯に増やす必要は無いと思います」


「確かにそうだね。1日を終えて、今日のご飯を買いに行く時にたくさんの選択肢があるとそれだけで少し疲れちゃうかも。買うものがこれって決まってる時は少し心が楽というか」


「それは私も分かります」

「私は関東さんの方がいいって言うのもあるね。ただ、今回の質疑応答で関東さんの息がかかってる人とそうじゃない人と分かりやすかったね」

「そうですね。後は拍手の仕方なんかも結構露骨でしたね」

「確かにそうだったね」いったい自分たちは何と戦っているんだろうと言う悲しい気持ちになる。



何にせよ、残りの三ヶ月、コスト面を中心に正確な数字を出していくことに注力することにした。

「よし、ある程度きりがついたところで、今日はもう帰ろうか」

「そうですね。黒川君もありがとう」

「ありがとうございました。春奈さん、今日は発表お疲れ様でした」

「黒川君も推薦ありがとうございました」終始和やかなムードで、中間発表の整理が終わった。翌日からはスライドと数字の睨めっこの日々が続いた。





「黒川君、お疲れ様」

「春奈さん、お疲れ様です」

「明日の仕事終わりって空いてる?」

「空いてます。明日、ミニ打ち上げをしましょう」

「あら、覚えてくれてたんだね」

「もちろんです。いつものお店に行きましょう。そう言えば、いつも同じメニューなのに、毎回違うメニューが出てくるのは面白いですよね」

「確かにそうね。オススメのメニューって、よく考えたら不思議よね。明日は何が出てくるかな?」

「今からもう楽しみですね」この約束だけであと1日何があっても頑張れる。そんな気がしている。

「じゃあ、また明日」

「はい、お疲れ様でした」





だんだんと日が沈むのが遅くなり、明るい時間から帰ることも増えていった。

まだ外が明るいとまた何かできてしまう。そんな気持ちになる。

好きな音楽をかけて、数多ののファッションコーディネートを指先一つでたくさん調べ倒した。


気づけば月が昇り、空には満天の星が輝く。ふと空を見上げる時間は、限りなく贅沢に思える。幸せな気持ちのまま、私は今日も眠りについた。


「おはようございます」


すっかり半袖の人も増えて、夏真っ盛りの七月。




中間発表を終えて、気持ちがどこか晴れやかな気分だ。


原料の仕入れ先から、染色方法等一つ一つの工程を丁寧に見直していた。


集中していると時間があっという間に過ぎていく。スライドを一区切りして、コーヒーブレイクの時間とした。


ゆっくりとコーヒーを飲んでいると、社長室から大きな物音がした。

一目散に立見常務が社長室に入って行った。





「社長!大丈夫ですか?」その一言で、私だけではなく、事務所にいた社員全員が社長室に目を凝らした。

慌てて社長室に私も向かうと、椅子が倒れてうずくまっている北口社長の姿があった。


顔面が真っ青で今まで見たことのない表情だった。


「救急車!救急車を呼んでくれ」その叫びに冷静な豊田さんが救急車を呼んだ。


ぞろぞろと社長室に様子を伺う人もいた。



「他の人はいい、座っておいてくれ」緊急の対応時こそ、人間力の差が大きく出る。

まだ入社して二年だというのに、立見常務の人間力と行動力、判断力は間違いなく会社でナンバーワンだ。



しばらくして、救急隊員が会社に到着した。

大きな男を四人係でたんかに乗せた。朝の朝礼時には何の変化もなかったように思う。


「春奈さんは救急車に同乗しておいて欲しい。会社のことは大丈夫だから」



「よろしくお願いします」救急隊員と共に、近くの総合病院に向かった。



救急車入り口専用の駐車場に入り、父親はたんかに乗ったまま、病院内へと入って行った。



「お父さん、死なないでよ」恥ずかしさなど微塵もなかった。



気づけば大きな声でそう叫んでいた。








私の仕事も恋も全て全て奪ったあの一本の電話。







「悪い、春奈。帰ってきてくれないか」いつもどこかでいつもいつも恨んでいた。




優しい言葉をかけられても、結局次の日には恨んでいた。




懐かしい思い出話をされても、扉を閉めた瞬間に恨んでいた。恨んでいた。恨んでいる。そのはずなのに、なぜか私はこの男に生きていてほしい。強くそう願っていた。無事でいてほしい。



元気な姿が戻った日には心から謝ろう。そう思った。



「お前は家業を継がなくていい。その代わり、誰よりも幸せになるんだぞ」この言葉が私は大好きだった。




あの日の電話までは。




色々なことが頭の中を巡る。



父親の真っ青な顔が頭から離れない。これからの会社のことも、これからの自分のことも考えなきゃいけないことがたくさんあるのに、父親のことが頭から離れない。





気づけば祈り続けて、二時間が経っていた。




「娘さん、ですよね。お父さん、大丈夫ですよ」



「え?」



「過労で倒れたようです。ただ、体型は今後直していかないと、それこそ大きな病気になるので、そこだけは気にかけてあげてください。



今は治療室でぐっすりお休みになられてます。お大事になさってください」




「ありがとうございました」自然に涙が溢れてきた。良かった、本当に良かった。
「治療室は入れますか?」




「はい、今は点滴だけ繋いでいるので、それだけ気をつけて下さい」




「分かりました」部屋に入ると、私の心配も知らないで、いびきをかいて眠っている父親の姿があった。
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