8 / 13
第八話 甘美な声
しおりを挟む
「今日も泊まっていい?」
子供のような笑顔で問いかける裕斗に、健人は「好きにしろよ」とはにかんだ。許されることならば明日も明後日も、ずっとこうしていたい。大学もアルバイトも面倒なことはすべて放り出し、裕斗と二人っきりで…。
空腹を満たすために駅前の商店街を並んで歩く二人の距離は、いつもより心なしか近かった。行き交う人を避けるたびに触れ合う互いの手がもどかしい。すれ違う恋人たちのように手を繋いで歩くことができたのなら、このもどかしさを振り払うことができるのだろうか。
「腹減ったな!何食おうか?」
裕斗は健人の肩に手を回しぐっと引き寄せる。「仲の良い友達」として周りの目から見ても許されるであろうぎりぎりの距離感が、健人にとっては嬉しくも切なくもあった。
いつもの商店街の古びた定食屋で、いつも通りのメニューを注文し、裕斗と向かい合って談笑しながら食事をする。もう何度となく繰り返してきたこの光景も、今はキラキラと輝いて見えた。
食事の後、裕斗は路地裏に置かれた灰皿の前でタバコに火をつけたる。ゆっくりと息を吐く唇にほのかに残ったタバコの煙が、ベランダでのあのくちづけを思い出させ、裕斗の唇から目を離せなかった。
裕斗は物欲しそうに唇を見つめる健人をそっと引き寄せ、再び唇が重ねる。裕斗の唇が健人の上唇をそっと包み込み、それを受け入れるように自らの唇が動いたとき、健人はハッと我に返った。
「おい!ここ外だぞ」
「して欲しいって顔に書いてあったから」
裕斗はまた子供のような笑顔を浮かべていた。健人はどうもこの笑顔に弱い。この顔を向けられると何でも許してしまいそうになるのだ。そして案の定、裕斗のくちづけをまた受け入れてしまう。さっきよりも深く熱のこもったくちづけに身体の芯が火照るのを感じた。
「これ以上は…家に帰ってからにしてくれ」
顔を真っ赤に染めて恥じらう健人の手を掴み、裕斗は家に向かって走り出す。肩を組んで歩いた行きとは違い、人目も気にせずに手を繋いだまま商店街を走り抜けた。その勢いは衰えることなく健人の部屋へと押し込まれる。
「子供かよ」
「家だったら良いんだろ?」
裕斗は健人の顎を持ち上げ先ほどよりもさらに激しいくちづけをした。そのくちづけに健人はうまく呼吸を合わせられない。激しく深いくちづけに健人の頭は鈍り、その蕩けた表情が裕斗をさらに煽る。
今にも砕け落ちそうな健人の腰に手を当てベッドへと誘う。
「ごめん…キスだけだから。だからあともう少しだけ」
健人を気遣うように耳元で囁かれた「甘美な声」に、健人は抗うことができない。隠し切れない情熱と共に、二人の夜は更けていく。
子供のような笑顔で問いかける裕斗に、健人は「好きにしろよ」とはにかんだ。許されることならば明日も明後日も、ずっとこうしていたい。大学もアルバイトも面倒なことはすべて放り出し、裕斗と二人っきりで…。
空腹を満たすために駅前の商店街を並んで歩く二人の距離は、いつもより心なしか近かった。行き交う人を避けるたびに触れ合う互いの手がもどかしい。すれ違う恋人たちのように手を繋いで歩くことができたのなら、このもどかしさを振り払うことができるのだろうか。
「腹減ったな!何食おうか?」
裕斗は健人の肩に手を回しぐっと引き寄せる。「仲の良い友達」として周りの目から見ても許されるであろうぎりぎりの距離感が、健人にとっては嬉しくも切なくもあった。
いつもの商店街の古びた定食屋で、いつも通りのメニューを注文し、裕斗と向かい合って談笑しながら食事をする。もう何度となく繰り返してきたこの光景も、今はキラキラと輝いて見えた。
食事の後、裕斗は路地裏に置かれた灰皿の前でタバコに火をつけたる。ゆっくりと息を吐く唇にほのかに残ったタバコの煙が、ベランダでのあのくちづけを思い出させ、裕斗の唇から目を離せなかった。
裕斗は物欲しそうに唇を見つめる健人をそっと引き寄せ、再び唇が重ねる。裕斗の唇が健人の上唇をそっと包み込み、それを受け入れるように自らの唇が動いたとき、健人はハッと我に返った。
「おい!ここ外だぞ」
「して欲しいって顔に書いてあったから」
裕斗はまた子供のような笑顔を浮かべていた。健人はどうもこの笑顔に弱い。この顔を向けられると何でも許してしまいそうになるのだ。そして案の定、裕斗のくちづけをまた受け入れてしまう。さっきよりも深く熱のこもったくちづけに身体の芯が火照るのを感じた。
「これ以上は…家に帰ってからにしてくれ」
顔を真っ赤に染めて恥じらう健人の手を掴み、裕斗は家に向かって走り出す。肩を組んで歩いた行きとは違い、人目も気にせずに手を繋いだまま商店街を走り抜けた。その勢いは衰えることなく健人の部屋へと押し込まれる。
「子供かよ」
「家だったら良いんだろ?」
裕斗は健人の顎を持ち上げ先ほどよりもさらに激しいくちづけをした。そのくちづけに健人はうまく呼吸を合わせられない。激しく深いくちづけに健人の頭は鈍り、その蕩けた表情が裕斗をさらに煽る。
今にも砕け落ちそうな健人の腰に手を当てベッドへと誘う。
「ごめん…キスだけだから。だからあともう少しだけ」
健人を気遣うように耳元で囁かれた「甘美な声」に、健人は抗うことができない。隠し切れない情熱と共に、二人の夜は更けていく。
51
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる