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しおりを挟むなんとか、泣き止んだあとメリッサは、話し始めた。
「あのね・・・私、賢者になるって言ったでしょ?」
「え?えぇ・・・そうですね。それが今回、旅に出た目的?ですからね」
「ちゃんとね、理由があるんだよ。私ね・・・見付けられると思ったの」
「?何をですか?」
「・・・・・勇者を」
「それは・・・・?」
「私ね、ずっと後になってからとっても後悔したの。忘れてたなんて、ウソ。彼が居なくなって、心にぽっかり穴が空いた感じになったの。だって、私の所には滅多に人が来なかった。そりゃ、魔女仲間とかには会ったりもするけど、彼みたいに頻繁には会いに来てくれないから、彼が来てくれるのが楽しみになってたの・・・で、ある日アルト言ったでしょ?『一緒に旅に付いてきて欲しい』って」
「言いましたね。貴女は『面倒だからイヤ』と断りましたけど」
「本当はね、一緒に行きたかったんだ。でも、怖くて行けなかった。私は魔女で『賢者』なんて呼ばれる存在じゃなかったから、他人にどう思われるのか怖かったの。また、蔑まれたら怖かったから。最後に会いに来てくれてから、随分と時間が経ったけどまた会いに来てくれるって思ってたの。でも、『魔王を討伐した』ってことは聞いていたから、もしかして会いに来なくなるかもとも思ってた。で、やっぱりいつまで経っても会いに来てくれなかったから、もう役目は終わったんだって思った」
「じゃあ、メリッサは僕に会いたかったの?」
「そうだよ・・・ずっと会いたかった。でも意気地なしな私は結局、自分から会いに行けなくて、気付いたら彼が生きていられる時間はとうに経っていた。そうして後悔し続けてたの・・・そしたらアルトがある日来たの。『弟子にしてくれ』って言われた時はびっくりした」
「フフッ!確かにあの時のメリッサは、目が飛び出るかと思いました」
「飛び出ないもん!!と、とにかく・・・アルトが来てくれて、ぽっかり空いた胸の内が埋まっていったんだよ。でもね、そしたらやっぱり彼に会いに行けなかった事が心残りになったの。それで、考えたんだ『真理に今よりも近づけたら、彼を見つけられるかも』って、だから賢者ってなんだろ?って思って賢者になれる全ての事を試そうと思ったんだ。それにアルトがいたら外に出ても怖くないだろうって思って」
「それで、『賢者になる』ですか・・・・まぁ既に賢者だったのですが、この旅に出なかったら僕はたぶん一生、メリッサに自分が生まれ変わりだった事も、貴女を愛してる事も伝えなかったでしょうね」
「そうだね!だから、私の『賢者になる』って言葉と行動は無駄じゃなかった!だからね、アルト・・・これからも私の側に居てね。私もね、アルトが大好きなの」
そう言って、僕達はだいぶ遠回りをしたけれど、お互いの心を知ってこれからも側に居る事を誓った。
* * *
「師匠!!なんでこんな所に、脱ぎ捨てるんですか?!ちゃんと洗濯籠に入れて下さいって何度も言ってますよね?!」
「・・・・ごめんなさい・・・ワザとじゃないの!!その・・・なんて言うか・・・勝手に・・・」
「勝手に・・・なんですか?勝手に洗濯物が、籠から出たりはしませんよね?師匠」
「うゔー・・・もう!!アルト!師匠じゃない!メリッサって呼んで!!それから、洗濯物はごめんなさい!!!」
「はいはい、分かりましたよメリッサ」
そう言って逆ギレしたメリッサの、額にキスを落とす。
「ひゃっ・・・!」と言って顔を真っ赤にしたメリッサは、脱兎のごとく逃げて行った。
あの告白から数か月が経ち、僕達は今まで慣れ親しんだ家に戻ってきた。
そして僕達には変化が。
僕は『師匠』から彼女を『メリッサ』と名前で呼ぶようになったし、さっきみたいに愛情表現するようにした。
なんせ300年分の片思いが報われたのだ。
これからは、めいっぱい甘やかして、愛して、他に見向きもさせない。
何故なら、あの旅で彼女は自信を付けたので、今では二人でちょこちょこ出かける様になった。
冒険者ギルドのSランクなんて、そうそう居るものでもないので、国からの依頼も舞い込んでくる。
それに彼女の知識を見込んで、学院で教鞭を取って欲しいなんて話も来ている。
冗談じゃない。
メリッサはポヤポヤしたおバカな天然娘だが、見目引く容姿だ。
それに釣られた男どもに取られてたまるか!
これからの僕は、彼女へ愛を注ぐのと、虫を叩きのめすのに忙しくなりそうだ・・・・。
それでも、彼女と一緒に居られる事が何よりもの喜びだけどね。
おわり
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