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雪の夜、ふたりの距離(2)
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夕暮れ色に染まった和室に、カタリとノートパソコンの蓋を閉じる音が静かに響く。
因幡歩人はふう、と息を吐き、モニターに映っていた原稿の最後の一文を思い返した。画面の明かりが消えたあとの空気には、かすかに熱を帯びた電子機器の匂いと、執筆に集中していた名残の緊張が残っている。
肩にのしかかるのは、やり切った充実と、ほんの少しの疲労感だった。
「……そろそろ、限界か」
独りごちた声に、ふわりと畳を踏む気配が重なった。
振り返る前に、黒川才斗の気配が背後に寄る。眼鏡越しの金と黒の瞳が、薄明かりの中で揺れていた。
「さっきから、肩、動いてないですよ。先生」
「そうか? 気づいたら夢中になってた」
「……じゃあ、強制的に休憩させます。ほら、背もたれにちゃんと預けて」
原稿をそっと床に置くと、黒川は無言で因幡の背後へ回った。
次の瞬間、和装の肩越しに温かな手が伸び、指がゆっくりと筋をなぞる。
「ん……っ、く……ふ、ふふ。黒川がマッサージとはね。手つきが、やけに色っぽい」
「色っぽくないです!これは労働、編集者の義務です!」
「じゃあ……労災、申請しとけ」
冗談めかして笑う因幡に、黒川は軽く肩を叩いた。
だが、その手つきは優しく、なぞる指の腹が、深部まで熱を伝えるように押し広げていく。
「……悪くないな。案外、うまいじゃないか」
「整体の受付、バイトしてましたから。……肩、ひどいですよ、石みたい」
揉み解されるうちに、因幡の身体からふっと力が抜ける。
黒川の指が、首筋から背中へ、和装の襟の隙間に忍び込むように触れるたび──そこだけがひどく敏感に、熱を帯びていった。
「なあ、黒川」
「……なんですか」
「今の声……ずいぶん甘かったな」
「はっ……?そ、そんなつもりじゃ──っ」
動きかけた手を、因幡の長い指が捕まえる。
ぐっと力を込めて引けば、黒川の身体が前のめりになり、頬が和装の肩にふれる。
「お前……煽ってどうするんだ。無意識で男を煽るって、タチが悪い」
因幡は、ふと黒川の顔を覗き込んだ。
睫毛の奥にある揺れる瞳を、もう少しだけ、ちゃんと見たくなって──指先がそっと眼鏡のつるに触れる。
「っ……因幡せんせ?」
返事の代わりに、静かに眼鏡を外す。眼鏡の奥に隠れていた素顔があらわになると、黒川の表情がほんの少し戸惑いを帯びた。
「……こっちの顔のほうが、やっぱり俺は好きだな」
「そ、それ、ズルくないですか……」
赤くなった黒川の耳元に、因幡の息がかかるほどの距離で囁く。
「ここまで熱くしておいて、逃げる気か?」
「……っ」
因幡の下半身が熱を帯び、和装の布越しに明らかな膨らみが黒川に押し当てられる。
黒川が息を呑んだ瞬間、因幡の手が腰を抱えた。
「……察しがいいな。お前、やっぱり優秀だ」
「ちょ、まっ──」
「どうしてくれる。こんな状態になって……もう、お前の手じゃないと、収まらない」
掠れる声。微かに震える吐息。
因幡の唇が黒川の頬に触れ、首筋へと滑り落ちる。
濡れた舌先が、柔らかく、皮膚をなぞった。
「せ、先生……っ、これ、本気で……?」
「……俺は、ずっと本気だ」
その言葉とともに、黒川の和装の襟元が、因幡の手で緩められる。
驚きと戸惑いに目を見開く黒川の唇に、因幡がそっと口づけた。
「……黒川、黙って目を閉じろ」
その低い声に、黒川は戸惑いながらも従った。
次の瞬間、唇が塞がれる。ねっとりと絡みつく舌。唾液が喉奥へ流れ込むたび、頭の奥が痺れるような快感に染まっていく。
だが、同時に背筋を這うぞくりとした感覚──冷たい何かの視線。誰かに、見られている。
「……あの、先生……誰か……部屋に……」
黒川が震え声で告げると、因幡は、ふっと笑った。
「気づいたか。……ここに、霊がいる」
「……っ、な、なんでそんな平然として……!」
身体を離そうとする黒川の腰を、因幡の手がしっかりと押さえ込む。
「官能霊媒で浄化する」
「な、なにそれ……っふざけ──」
言葉が終わる前に、また唇を奪われる。
因幡の舌が執拗に口内を犯し、黒川の抵抗をじわじわと融かしていく。
「俺が、お前を欲しがるのも……この霊の影響かもしれんな」
「な……や、やめ、やめて……っ見られてる、のに……!」
黒川の白い肌に因幡の指が這う。
ぞくり、と震える感覚。羞恥と快感が入り混じって、黒川の身体が勝手に熱を帯びていく。
「……お前が、感じるところを見せろ。霊のためじゃない、俺のためだ」
黒川の視線がふと下に落ち──因幡の和装の隙間から、明らかな膨張が覗いた。
目を背けようとして、因幡に顎を掴まれる。
「口でしてくれ。……逃げるなよ」
「……っ! せ、先生……ほんとに……っ、見られてる、のに……っああっ……!」
因幡のそれを恐る恐る手で包み込み、震える指で帯を解く。
解放された熱の塊に唇を近づけるだけで、鼻腔に濃厚な熱が満ちて、喉がひくりと鳴った。
「んっ……っ、く……ぅ……っ、ぅあ……っ」
口に含むと、因幡の指が黒川の後頭部にそっと添えられる。
舌先が絡むたび、唇をすするたび、頭の奥にまで因幡の熱が押し込まれていくようで──理性が遠のいていく。
「うまいな……もっとして。……霊なんか、どうでもよくなるくらい、夢中にさせてくれ」
「っ、んぅ……ぅ、やっ………は……っ!」
「効いてる証拠だ。……そのまま、もっとやって見せろ」
「っ、んん……くっ、……ひ、っ……や、ぁ…っ、……っ!」
黒川の目に、涙が滲んだ。
その涙すらも、霊にとっては官能の一部。
見えない何かが部屋の隅で蠢くたびに、因幡は黒川の後頭部を優しく撫で、低く囁く。
唾液が垂れ、目尻に涙が滲む。羞恥に顔を赤く染めながらも、黒川の口内は律儀に因幡を受け入れていた。
---
「……まだ、霊の波が強い。中まで満たさなきゃ、鎮まらない」
「っ、い、意味わかんねぇこと……言うなよ……っ!」
黒川は頬を真っ赤に染めて、シーツをぎゅっと掴んでいる。
下半身はすでに因幡の手でほどかれ、晒された太腿がぷるぷると震えていた。
因幡は、その震えた脚の内側に唇を押し当て、わざと音を立てて吸い上げる。
「ん、ちゅっ……くちゅ、ん……。……ふふ、ここ、弱いのか」
「やっ……あっ……音たてんなバカっ……!!霊に……聞こえるだろ……っ!」
「聞かせてんだよ。……恥ずかしい音ほど、奴らには有効だ」
黒川の首筋に唇を這わせながら、因幡は静かに体勢を変える。
うつ伏せにさせられ、背中を撫でられながら、黒川は小さく呻いた。
「なぁ、ま、まじで……やんのかよ、ここで、いま……っ!霊いるって、言ってんだぞ……っ」
「だからやるんだ。……感じるたびに、霊は揺れる。だからこそ、お前の声が必要なんだよ、黒川」
因幡は後ろをなぞる指先に唾液を垂らし、ぐちゅ、とわざとらしい音を立ててなじませる。
音が、生々しく部屋に響いた。
「っ……あ゛……っ、し、静かにやれよ……っ!音が……、やべえってば……っ!」
「聞こえた方がいい。恥ずかしいだろ? でも、そこが媒介になる」
そう言って、因幡はゆっくりと熱を押し当てた。
「っひっ……ま、まじで……ちょ……っ、あっ、ぅあああ……っ!」
入り口をじっくりと押し開きながら、因幡はまた、わざと音を立てる。
くちゅ、ぐちゅ、ぬちゅ、と水音がいやらしく空気を掻き乱した。
「っ、く、うぅ……や、だっ……だれか、聞いてたら……っ、しぬ、しぬ……っ」
羞恥に耐えかねたように、黒川は顔をシーツにうずめる。
その後ろで、因幡は律動を強めながら、黒川の耳元で囁いた。
「声、もっと出せ。……その声が、霊への攻撃になる」
「ぅ……っやだ、やだ……もう、っ、やめて……っ!音、音がっ、音がやばいのに……っ、あ゛ぁっ……!」
打ち付けられるたびに、ぬちゅっ、ぱちゅっ、と音が鳴る。
それが黒川の羞恥心を焼くように責め立てた。
「……可愛い声だ。……霊じゃなくても、俺が欲しくなるくらいには、な」
「ば……っ、あっ……っ、言うなぁっ……因幡っ……バカ、ほんとバカっ……っ!」
霊の気配はもう、部屋の隅で脈動していた。
黒川の紅潮した身体が、官能の霊媒としての力を完全に引き出していた。
---
ぬちゅ……ぐちゅっ……と水音がいやらしく響くたび、黒川は喉を詰まらせたような息を漏らす。
「あ……く、う……っ、や、やだ……っ、これ以上、音……立てんなって……っ」
因幡の腰が押し寄せてくるたびに、黒川の背中がのけぞる。
敏感な奥を押し上げられ、理性が溶けかけた顔を必死に伏せてシーツに埋める。
「……恥ずかしい?でも、お前が感じるほど、霊は鎮まる」
囁く因幡の声は低く、熱を帯びていた。
それが黒川の羞恥にさらに拍車をかける。
「し……るか、ばっ……か、んだよ……っ、ふっ……ぅ、や、やだ……やだぁ……っ」
唇から漏れる声が、もう堪え切れない喘ぎに変わっていく。
苦しいほどの快感に、黒川の喉は勝手に震えてしまう。
「あ、く、うぅっ……っ、いやっ……聞こえてんだろ、あの霊……っ、ばか、ばかっ……!」
その叫びに、因幡はくすりと笑うと、耳元に唇を寄せ――囁いた。
「――“押し込まれた舌先に、奥まで蕩ける熱が絡んで、体中が甘く泡立つ”」
「な……なに、それっ……っあ、やだっ、やめっ……っ! なに言ってんだっ……!」
「浄化の句だ。……これで、終わる」
そう言った次の瞬間、因幡の奥まで突き上げる律動が強くなる。
黒川は震える息で叫び声を押し殺すが、限界はすぐそこだった。
「っんんんっ……ぅぁあああっ……!! やっ、だめ……くる、っ……あっ、ぅ、うああっ……!」
二人が同時に絶頂に達した瞬間――
部屋の空気が、ふっと軽くなった。
霊の気配は完全に消えた。
が――因幡の声が、すぐに再び黒川の耳をくすぐる。
「……霊の気配は消えた。でも、“余波”が、まだ部屋に残ってる」
「は、っ……? ちょ、おまっ……はぁ……、もう、十分だろ……っ、ばかっ……!!」
「まだ揺れてる。お前の身体が……」
「ちげぇよ……それは、……お前のせいだろ、ばかっ……う、うそだ、やめろっ、くんな……っ!」
黒川は必死に逃れようとするが、因幡の手は容赦なく彼を抱え込む。
まだ熱の名残る中に指が滑り込み、またぐちゅ、と濡れた音が立つ。
「ひっ……ぅ、ま、まだ、やる気かよっ……っ、ばっ……!」
「“霊が去ったあとも、快楽の波にのまれて、彼の躰はまた疼き出す”――次の浄化の句だ」
「ふざけんなぁっっ!! や、だ……あっ、い、因幡っ……くっ、あっ……!」
羞恥と快感の板挟み。
黒川は喘ぎ、逃げ、抗いながらも――
次第に身体の芯が再び熱を帯び、いやらしい音を室内に響かせていく。
---
ぐちゅ、ぐちゅ……っ。濡れた音がふたたび室内に響き出した頃には、黒川の意識は朦朧としていた。
「あ……っ、あ、んっ……く、ぅ……っ」
呂律の回らない喘ぎが喉から漏れる。言葉にならない。思考も組み立てられない。
快感が脊髄を貫き、身体の芯がとろけていく。
「ふ、く……ぅ、あ……も……っ、ああぁ……」
羞恥の言葉も、抗議の台詞も、もう口にできなかった。
ただ、切ない吐息と、潤んだ瞳で因幡を見上げるしかない。
「もう、言葉も出せないか……可愛いな、黒川」
因幡はゆっくりと、黒川の中を貫きながら囁いた。
わざと角度を変え、奥の一点を擦り上げる。
「んぅあっ……っっ、は、ああっ、あっ……や、……っ……!」
背中が跳ねた。
震える脚を必死に閉じようとするが、それも因幡に押し広げられる。
「もう、浄化は……とっくに済んでる。霊の気配なんて、とうの昔に消えてた」
「…………っ、」
黒川の瞳が見開かれる。
しかし、全身を貫く快感の波に、怒りの言葉も浮かばない。
「ふ、ぅ……そ……、の、ためだけに……っ、くっ……ん、な、なに……っ、して……っ……」
「そう。お前の反応が良すぎて、……俺の趣味が、抑えきれなかった」
耳元で囁くその声に、黒川の全身がビクリと跳ねる。
「いやらしい音……濡れた声……お前の、こんな顔……」
「んっ……っ、ふ、ぁっ、う、うぅっ……っっ!」
因幡の動きが次第に激しさを増し、黒川はベッドのシーツを掴んだまま、
何度も腰を揺さぶられて果てる寸前、涙を滲ませて、口をぱくぱくと開閉する。
でも、出てくるのは――
「あ……っ、はぁ、く……ぁあっ、あっ……」
もはや言葉ではなかった。
理性も、羞恥も、全てが因幡に奪われ、ただの“声”に成り果てる。
「なぁ黒川、浄化の句なんて嘘だったって……怒ってるか?」
「ふ、ぁ……っ、ぅ、く……あ……っ……ぁああ……っっ」
返事はない。
ただ、快感に震える身体が、もうひとつの“答え”だった。
因幡歩人はふう、と息を吐き、モニターに映っていた原稿の最後の一文を思い返した。画面の明かりが消えたあとの空気には、かすかに熱を帯びた電子機器の匂いと、執筆に集中していた名残の緊張が残っている。
肩にのしかかるのは、やり切った充実と、ほんの少しの疲労感だった。
「……そろそろ、限界か」
独りごちた声に、ふわりと畳を踏む気配が重なった。
振り返る前に、黒川才斗の気配が背後に寄る。眼鏡越しの金と黒の瞳が、薄明かりの中で揺れていた。
「さっきから、肩、動いてないですよ。先生」
「そうか? 気づいたら夢中になってた」
「……じゃあ、強制的に休憩させます。ほら、背もたれにちゃんと預けて」
原稿をそっと床に置くと、黒川は無言で因幡の背後へ回った。
次の瞬間、和装の肩越しに温かな手が伸び、指がゆっくりと筋をなぞる。
「ん……っ、く……ふ、ふふ。黒川がマッサージとはね。手つきが、やけに色っぽい」
「色っぽくないです!これは労働、編集者の義務です!」
「じゃあ……労災、申請しとけ」
冗談めかして笑う因幡に、黒川は軽く肩を叩いた。
だが、その手つきは優しく、なぞる指の腹が、深部まで熱を伝えるように押し広げていく。
「……悪くないな。案外、うまいじゃないか」
「整体の受付、バイトしてましたから。……肩、ひどいですよ、石みたい」
揉み解されるうちに、因幡の身体からふっと力が抜ける。
黒川の指が、首筋から背中へ、和装の襟の隙間に忍び込むように触れるたび──そこだけがひどく敏感に、熱を帯びていった。
「なあ、黒川」
「……なんですか」
「今の声……ずいぶん甘かったな」
「はっ……?そ、そんなつもりじゃ──っ」
動きかけた手を、因幡の長い指が捕まえる。
ぐっと力を込めて引けば、黒川の身体が前のめりになり、頬が和装の肩にふれる。
「お前……煽ってどうするんだ。無意識で男を煽るって、タチが悪い」
因幡は、ふと黒川の顔を覗き込んだ。
睫毛の奥にある揺れる瞳を、もう少しだけ、ちゃんと見たくなって──指先がそっと眼鏡のつるに触れる。
「っ……因幡せんせ?」
返事の代わりに、静かに眼鏡を外す。眼鏡の奥に隠れていた素顔があらわになると、黒川の表情がほんの少し戸惑いを帯びた。
「……こっちの顔のほうが、やっぱり俺は好きだな」
「そ、それ、ズルくないですか……」
赤くなった黒川の耳元に、因幡の息がかかるほどの距離で囁く。
「ここまで熱くしておいて、逃げる気か?」
「……っ」
因幡の下半身が熱を帯び、和装の布越しに明らかな膨らみが黒川に押し当てられる。
黒川が息を呑んだ瞬間、因幡の手が腰を抱えた。
「……察しがいいな。お前、やっぱり優秀だ」
「ちょ、まっ──」
「どうしてくれる。こんな状態になって……もう、お前の手じゃないと、収まらない」
掠れる声。微かに震える吐息。
因幡の唇が黒川の頬に触れ、首筋へと滑り落ちる。
濡れた舌先が、柔らかく、皮膚をなぞった。
「せ、先生……っ、これ、本気で……?」
「……俺は、ずっと本気だ」
その言葉とともに、黒川の和装の襟元が、因幡の手で緩められる。
驚きと戸惑いに目を見開く黒川の唇に、因幡がそっと口づけた。
「……黒川、黙って目を閉じろ」
その低い声に、黒川は戸惑いながらも従った。
次の瞬間、唇が塞がれる。ねっとりと絡みつく舌。唾液が喉奥へ流れ込むたび、頭の奥が痺れるような快感に染まっていく。
だが、同時に背筋を這うぞくりとした感覚──冷たい何かの視線。誰かに、見られている。
「……あの、先生……誰か……部屋に……」
黒川が震え声で告げると、因幡は、ふっと笑った。
「気づいたか。……ここに、霊がいる」
「……っ、な、なんでそんな平然として……!」
身体を離そうとする黒川の腰を、因幡の手がしっかりと押さえ込む。
「官能霊媒で浄化する」
「な、なにそれ……っふざけ──」
言葉が終わる前に、また唇を奪われる。
因幡の舌が執拗に口内を犯し、黒川の抵抗をじわじわと融かしていく。
「俺が、お前を欲しがるのも……この霊の影響かもしれんな」
「な……や、やめ、やめて……っ見られてる、のに……!」
黒川の白い肌に因幡の指が這う。
ぞくり、と震える感覚。羞恥と快感が入り混じって、黒川の身体が勝手に熱を帯びていく。
「……お前が、感じるところを見せろ。霊のためじゃない、俺のためだ」
黒川の視線がふと下に落ち──因幡の和装の隙間から、明らかな膨張が覗いた。
目を背けようとして、因幡に顎を掴まれる。
「口でしてくれ。……逃げるなよ」
「……っ! せ、先生……ほんとに……っ、見られてる、のに……っああっ……!」
因幡のそれを恐る恐る手で包み込み、震える指で帯を解く。
解放された熱の塊に唇を近づけるだけで、鼻腔に濃厚な熱が満ちて、喉がひくりと鳴った。
「んっ……っ、く……ぅ……っ、ぅあ……っ」
口に含むと、因幡の指が黒川の後頭部にそっと添えられる。
舌先が絡むたび、唇をすするたび、頭の奥にまで因幡の熱が押し込まれていくようで──理性が遠のいていく。
「うまいな……もっとして。……霊なんか、どうでもよくなるくらい、夢中にさせてくれ」
「っ、んぅ……ぅ、やっ………は……っ!」
「効いてる証拠だ。……そのまま、もっとやって見せろ」
「っ、んん……くっ、……ひ、っ……や、ぁ…っ、……っ!」
黒川の目に、涙が滲んだ。
その涙すらも、霊にとっては官能の一部。
見えない何かが部屋の隅で蠢くたびに、因幡は黒川の後頭部を優しく撫で、低く囁く。
唾液が垂れ、目尻に涙が滲む。羞恥に顔を赤く染めながらも、黒川の口内は律儀に因幡を受け入れていた。
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「……まだ、霊の波が強い。中まで満たさなきゃ、鎮まらない」
「っ、い、意味わかんねぇこと……言うなよ……っ!」
黒川は頬を真っ赤に染めて、シーツをぎゅっと掴んでいる。
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因幡は、その震えた脚の内側に唇を押し当て、わざと音を立てて吸い上げる。
「ん、ちゅっ……くちゅ、ん……。……ふふ、ここ、弱いのか」
「やっ……あっ……音たてんなバカっ……!!霊に……聞こえるだろ……っ!」
「聞かせてんだよ。……恥ずかしい音ほど、奴らには有効だ」
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「っ……あ゛……っ、し、静かにやれよ……っ!音が……、やべえってば……っ!」
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そう言って、因幡はゆっくりと熱を押し当てた。
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「っ、く、うぅ……や、だっ……だれか、聞いてたら……っ、しぬ、しぬ……っ」
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その後ろで、因幡は律動を強めながら、黒川の耳元で囁いた。
「声、もっと出せ。……その声が、霊への攻撃になる」
「ぅ……っやだ、やだ……もう、っ、やめて……っ!音、音がっ、音がやばいのに……っ、あ゛ぁっ……!」
打ち付けられるたびに、ぬちゅっ、ぱちゅっ、と音が鳴る。
それが黒川の羞恥心を焼くように責め立てた。
「……可愛い声だ。……霊じゃなくても、俺が欲しくなるくらいには、な」
「ば……っ、あっ……っ、言うなぁっ……因幡っ……バカ、ほんとバカっ……っ!」
霊の気配はもう、部屋の隅で脈動していた。
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ぬちゅ……ぐちゅっ……と水音がいやらしく響くたび、黒川は喉を詰まらせたような息を漏らす。
「あ……く、う……っ、や、やだ……っ、これ以上、音……立てんなって……っ」
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囁く因幡の声は低く、熱を帯びていた。
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「な……なに、それっ……っあ、やだっ、やめっ……っ! なに言ってんだっ……!」
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そう言った次の瞬間、因幡の奥まで突き上げる律動が強くなる。
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まだ熱の名残る中に指が滑り込み、またぐちゅ、と濡れた音が立つ。
「ひっ……ぅ、ま、まだ、やる気かよっ……っ、ばっ……!」
「“霊が去ったあとも、快楽の波にのまれて、彼の躰はまた疼き出す”――次の浄化の句だ」
「ふざけんなぁっっ!! や、だ……あっ、い、因幡っ……くっ、あっ……!」
羞恥と快感の板挟み。
黒川は喘ぎ、逃げ、抗いながらも――
次第に身体の芯が再び熱を帯び、いやらしい音を室内に響かせていく。
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ぐちゅ、ぐちゅ……っ。濡れた音がふたたび室内に響き出した頃には、黒川の意識は朦朧としていた。
「あ……っ、あ、んっ……く、ぅ……っ」
呂律の回らない喘ぎが喉から漏れる。言葉にならない。思考も組み立てられない。
快感が脊髄を貫き、身体の芯がとろけていく。
「ふ、く……ぅ、あ……も……っ、ああぁ……」
羞恥の言葉も、抗議の台詞も、もう口にできなかった。
ただ、切ない吐息と、潤んだ瞳で因幡を見上げるしかない。
「もう、言葉も出せないか……可愛いな、黒川」
因幡はゆっくりと、黒川の中を貫きながら囁いた。
わざと角度を変え、奥の一点を擦り上げる。
「んぅあっ……っっ、は、ああっ、あっ……や、……っ……!」
背中が跳ねた。
震える脚を必死に閉じようとするが、それも因幡に押し広げられる。
「もう、浄化は……とっくに済んでる。霊の気配なんて、とうの昔に消えてた」
「…………っ、」
黒川の瞳が見開かれる。
しかし、全身を貫く快感の波に、怒りの言葉も浮かばない。
「ふ、ぅ……そ……、の、ためだけに……っ、くっ……ん、な、なに……っ、して……っ……」
「そう。お前の反応が良すぎて、……俺の趣味が、抑えきれなかった」
耳元で囁くその声に、黒川の全身がビクリと跳ねる。
「いやらしい音……濡れた声……お前の、こんな顔……」
「んっ……っ、ふ、ぁっ、う、うぅっ……っっ!」
因幡の動きが次第に激しさを増し、黒川はベッドのシーツを掴んだまま、
何度も腰を揺さぶられて果てる寸前、涙を滲ませて、口をぱくぱくと開閉する。
でも、出てくるのは――
「あ……っ、はぁ、く……ぁあっ、あっ……」
もはや言葉ではなかった。
理性も、羞恥も、全てが因幡に奪われ、ただの“声”に成り果てる。
「なぁ黒川、浄化の句なんて嘘だったって……怒ってるか?」
「ふ、ぁ……っ、ぅ、く……あ……っ……ぁああ……っっ」
返事はない。
ただ、快感に震える身体が、もうひとつの“答え”だった。
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🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
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【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
仮面の王子と優雅な従者
emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。
平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。
おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。
これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
【完結】ベイビーダーリン ~スパダリ俳優は、僕の前でだけ赤ちゃん返りする~
粗々木くうね
BL
「……おやすみ。僕の、かわいいレン」
人気俳優の朝比奈(あさひな)レンは、幼馴染で恋人の小鳥遊 椋(たかなし むく) の前でだけ赤ちゃんに戻る。
癒しと愛で満たす、ふたりだけの夜のルーティン。
※本作品に出てくる心の病気の表現は、想像上のものです。ご了承ください。
小鳥遊 椋(たかなし むく)
・5月25日生まれ 24歳
・短期大学卒業後、保育士に。天職と感じていたが、レンのために仕事を辞めた。現在はレンの所属する芸能事務所の託児所で働きながらレンを支える。
・身長168cm
・髪型:エアリーなミディアムショート+やわらかミルクティーブラウンカラー
・目元:たれ目+感情が顔に出やすい
・雰囲気:柔らかくて包み込むけど、芯があって相手をちゃんと見守れる
朝比奈レン(あさひな れん)
・11月2日生まれ 24歳
・シングルマザーの母親に育てられて、将来は母を楽させたいと思っていた。
母に迷惑かけたくなくて無意識のうちに大人びた子に。
・高校在籍時モデルとしてスカウトされ、母のためにも受けることに→芸能界デビュー
・俳優として転身し、どんな役も消化する「カメレオン俳優」に。注目の若手俳優。
・身長180cm
・猫や犬など動物好き
・髪型:黒髪の短髪
・目元:切れ長の目元
・雰囲気:硬派。口数は少ないが真面目で礼儀正しい。
・母の力になりたいと身の回りの家事はできる。
王子様と一緒。
紫紺
BL
田中明夫は作家を目指して10年、全く目が出ない男だ。
ある日、書店の前で金髪青い目の青年が突然話しかけてきた。最初は胡散臭く思っていたのだが……。
南の国の第2王子アスラン、その護衛トーゴー、田中が住むアパートの大家や住人の奨励会員などなど。
様々な人間模様と恋模様が織りなすBL多めのラブコメ開幕です!
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