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しおりを挟む「安心した。まぁ、礼華はそれで良いとしてだ」
そう、礼華はそこに気合いを入れていけば、とりあえず今のレベルはクリアだ。それ以上のこと…ツインギターの片割れとして、っていうところまではまだまだ長そうだけど。
「朱雨はどうするつもりだ?」
リードギターの朱雨の難点といえば、ピッキングだ。音源ではそこそこ加工して誤魔化してあるけど、加工してても底が知れてしまう。ダウンストロークとアップストロークの音に差があり過ぎるんだよ。挙句に、「そこはアップダウンだろ」ってとこを全部ダウンで弾こうとするから、間に合ってない。間に合わないから、アップで弾くべき音を飛ばす。そうすると、スカスカなフレーズが出来上がる。
あ、俺も一応ギター弾けるんで。ご披露するような腕前じゃないけどな。
あと、ギターソロの煮詰め方が甘い。ベルノワールの割と重い楽曲に対して、ソロがぬるくてイマイチしまらない。
よく考えたら、よくもこの布陣で海外進出目指そうとか思ったな、ベルノワール。ドラムが生演奏になったからってどうにかなるレベルじゃねぇだろ。
「朱雨も基礎練からだよな。今日連絡して、レコーディング入るまでに徹底的にやっとくように言った」
「時間ねぇけど、やらないよりゃいいよな」
こっちも、宵闇はわかってんな。こいつ今までは音そっちのけで、女子人気集めることだけに懸けてやがったな。
そこんとこの意識が変わっただけでも、俺が入った意味があるってもんだ。
「ソロもそのままコピーするなって言いつけといた」
「あいつ、どこまでやれんのかな。俺はまだ音源しか聴いたことねぇけど」
「どうだろうな。俺もわからん」
何年一緒にやってんだ、お前らは。
そこにラーメンと餃子、俺のビールが運ばれて来た。
美味そうなラーメンを見たら、急に腹が鳴る。そりゃそうか。昼飯食ってから、何も食ってないわ。
「よっしゃ、食うぞ!」
ビールを一口呑んで、割り箸を割る。麺もスープも美味いんだけど、ここの極厚チャーシューが最高なんだよ。
真っ先にチャーシューを箸で掴んで、齧り付く。分厚いんだけど抵抗なく噛み切れて、繊維が歯に挟まったりしねぇんだよな。ちょうどよく入った脂身のとろける感じも良い。
「最初からチャーシュー食うんだ」
宵闇の笑いを含んだ声に、目だけをヤツに向ける。
「んあ?」
「スープからだろ、普通」
「はあ? チャーシュー美味いんだから、俺はチャーシューから食うよ」
「ケーキのイチゴは」
「最初に食う」
前髪から透けて見える宵闇の顔は、間違いなく笑顔だ。変な奴。
ヤツはスープをレンゲですくって飲んでから、麺をすすり始めた。それから、テーブルの上の辛味噌を大量にドンブリに放り込む。
「いや、お前こそ何だよそれ。スープの味も何もないだろ」
あれは後半で少し入れて食うもんだ。
「いや? ちゃんとわかるけど」
そう言いながら、餃子の取り皿にも辛味噌を落とす。
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