46 / 233
15-5
しおりを挟む
「ほんとさ、お前の音程の正確さは大したもんだよな。その歳でさ」
青ざめていた頬に、ふわっと血の気が戻って来る。そうなんだよな、頑張った分は褒められたいよな。人間、こういう簡単なことが割と大事だ。
「音域も広そうじゃん。ハイトーンもかなりの高さまで出てたし。どこまで出んの? B?C?」
「それはよくわかんないです…あ、わかんない」
そっか、ちゃんとボイトレしてないから、自分の能力がどの程度なのかも知らないんだな。もったいない。
「そうか。ベルノワールはいくつめのバンドなんだ?」
「初めて」
「マジか。それでメジャーまで来たとかすごくねぇ?」
とは言ったけど、ま、予想通り。綺悧は少しだけ笑みを浮かべた。俺は少しほっとする。綺悧が少しでも俺と打ち解けてくれたら、緊張も緩むだろう。
「俺は、ただラッキーなんだと思う」
「ラッキーも才能だろ。何でベルノワール入ったんだ?」
「俺、ディエス・イレのファンだったんです」
「でぃえす…?」
何だそれ。バンド名っぽいな。
「宵闇さんの、前のバンド。中学生の頃から宵闇さんに憧れてて」
「へぇ」
宵闇の前のバンドとか、一瞬たりとも興味持ったことなかったわ。でも、綺悧少年の心はがっちり掴んでたみたいだな。
「それで、何でベースやるんじゃなくてヴォーカルになったんだ?」
「たまたま、ベルノワール結成するのにヴォーカル探してる、って情報ゲットしたから。それと、中学の時は高い声出るだけで周りは上手いって言ってくれたし」
ああ、あるある。周りよりちょっと何か出来るだけで「お前すげぇな!」みたいな感じになるんだよな、それくらいの年頃は。
「応募したら、すぐにオーディションしてくれて。宵闇さんと話せただけでも舞い上がったなぁ」
ほんとに、心底宵闇のファンだったんだな。あいつの無意味にカリスマっぽい俺様オーラすげぇからな。俺は直撃されてないけど。
「バンドのことなんか何にもわかんない俺を、宵闇さんはここまで連れて来てくれたんだ。…すごい人だよね」
「ああ…」
うーん、そうか。すごいのか。さっきの情けない表情を思い出す。すごいのか、あいつ。俺には欠片も伝わってねぇけど。
綺悧はその頃のことを思い浮かべているのか、さっきまでの沈んだ表情はどこへやら。うっとりと幸せそうな顔をしてる。ある意味マジで宵闇すげぇな。こんな何年も近くにいる綺悧が、まだ騙されているとは。まさかチキンラーメンをちまちま鍋で煮てるとは思ってないんだろうな。
やっぱり、こんだけ綺麗に憧れの人物像を保ってるのに、それをぶち壊すのは得策じゃない。そんなすごい宵闇に認められたい、ってのが綺悧の行動原理だ。
「だから、宵闇さんに納得してもらえる歌を歌いたいんだ。…でも、今回の俺、ダメみたいだなぁ…」
あ、ヤバい。またしゅんとしちまう。
「俺が聴いた感じは全然ダメじゃないぜ?」
いや、俺が納得してるんじゃダメなんだよな。でも、俺が褒めてもそれはそれなりに喜んでくれるみたいだし。
「ほんとに?」
「ああ、今までの音源も聴いたけど、今回はちゃんと上回ってる」
青ざめていた頬に、ふわっと血の気が戻って来る。そうなんだよな、頑張った分は褒められたいよな。人間、こういう簡単なことが割と大事だ。
「音域も広そうじゃん。ハイトーンもかなりの高さまで出てたし。どこまで出んの? B?C?」
「それはよくわかんないです…あ、わかんない」
そっか、ちゃんとボイトレしてないから、自分の能力がどの程度なのかも知らないんだな。もったいない。
「そうか。ベルノワールはいくつめのバンドなんだ?」
「初めて」
「マジか。それでメジャーまで来たとかすごくねぇ?」
とは言ったけど、ま、予想通り。綺悧は少しだけ笑みを浮かべた。俺は少しほっとする。綺悧が少しでも俺と打ち解けてくれたら、緊張も緩むだろう。
「俺は、ただラッキーなんだと思う」
「ラッキーも才能だろ。何でベルノワール入ったんだ?」
「俺、ディエス・イレのファンだったんです」
「でぃえす…?」
何だそれ。バンド名っぽいな。
「宵闇さんの、前のバンド。中学生の頃から宵闇さんに憧れてて」
「へぇ」
宵闇の前のバンドとか、一瞬たりとも興味持ったことなかったわ。でも、綺悧少年の心はがっちり掴んでたみたいだな。
「それで、何でベースやるんじゃなくてヴォーカルになったんだ?」
「たまたま、ベルノワール結成するのにヴォーカル探してる、って情報ゲットしたから。それと、中学の時は高い声出るだけで周りは上手いって言ってくれたし」
ああ、あるある。周りよりちょっと何か出来るだけで「お前すげぇな!」みたいな感じになるんだよな、それくらいの年頃は。
「応募したら、すぐにオーディションしてくれて。宵闇さんと話せただけでも舞い上がったなぁ」
ほんとに、心底宵闇のファンだったんだな。あいつの無意味にカリスマっぽい俺様オーラすげぇからな。俺は直撃されてないけど。
「バンドのことなんか何にもわかんない俺を、宵闇さんはここまで連れて来てくれたんだ。…すごい人だよね」
「ああ…」
うーん、そうか。すごいのか。さっきの情けない表情を思い出す。すごいのか、あいつ。俺には欠片も伝わってねぇけど。
綺悧はその頃のことを思い浮かべているのか、さっきまでの沈んだ表情はどこへやら。うっとりと幸せそうな顔をしてる。ある意味マジで宵闇すげぇな。こんな何年も近くにいる綺悧が、まだ騙されているとは。まさかチキンラーメンをちまちま鍋で煮てるとは思ってないんだろうな。
やっぱり、こんだけ綺麗に憧れの人物像を保ってるのに、それをぶち壊すのは得策じゃない。そんなすごい宵闇に認められたい、ってのが綺悧の行動原理だ。
「だから、宵闇さんに納得してもらえる歌を歌いたいんだ。…でも、今回の俺、ダメみたいだなぁ…」
あ、ヤバい。またしゅんとしちまう。
「俺が聴いた感じは全然ダメじゃないぜ?」
いや、俺が納得してるんじゃダメなんだよな。でも、俺が褒めてもそれはそれなりに喜んでくれるみたいだし。
「ほんとに?」
「ああ、今までの音源も聴いたけど、今回はちゃんと上回ってる」
0
あなたにおすすめの小説
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
『月のトカゲを探す者』第一部(全三部)。
(表紙絵/山碕田鶴)
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
ソツのない彼氏とスキのない彼女
吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。
どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。
だけど…何故か気になってしまう。
気がつくと、彼女の姿を目で追っている。
***
社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。
爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。
そして、華やかな噂。
あまり得意なタイプではない。
どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる