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しおりを挟む甘やかすだけには反対だけど、相手によってダメ出ししていい範囲とか加減とかあるだろ。ちらっと会っただけの俺でも、礼華と朱雨のギター組と、綺悧に歴然とした違いがあることは見てわかる。
だし、目の前の綺悧の反応をきちんと見ていてやるべきだったのは宵闇だ。
「いやそんな…」
宵闇は俺が腹を立ててるのに気付いて、おどおどする。あーもう、こんな宵闇を綺悧には見せられねぇよ。
「どこにダメ出ししたんだ。録ったヤツ聴かせろ。どこまで進んだ」
「俺はダメ出しまではしてないけど…」
「じゃあ、何であんなに綺悧が落ち込んでんだ」
「俺は、もう一回、しか言ってない」
「は?」
「別に細かいとこ攻撃したりはしてない」
「あー!? バカだろお前は! 何年あいつのディレクションやってんだよこのバカ!」
何が原因かわからんまま、延々ともう一回、しか言われなかったら、そりゃ落ち込むわ。
「おいバカ宵闇、進行具合」
「ああ…Hateのラスサビ前までは来た」
「RiskとWheelは」
「手つかず」
おいおい、もう3日目だよ。1曲に3日かかってどうすんだよ。ギター組は折り合い付けたじゃねぇかよ。しかも、綺悧が歌えなくなってる最悪の状況だ。
明日になってもダメなら、順番入れ替えて先にギターのオーヴァーダビングを開始するしかない。スタジオのスケジュールが大丈夫なら、だけど。
「おいバカ、録った歌出せ」
俺にバカ呼ばわりされても、宵闇は口ごたえしない。ほんとバカだ。
コンソールルームに連れて行き、PCの前に座らせる。宵闇は大人しく画面を操作して、収録したトラックを再生する。
宵闇もこれ、ヘコんでるな。大きなため息ついた。責任は感じているみたいだ。今までのレコーディングが「間違えてなければOK」のレベルだったから、ヴォーカルに対するダメ出しとアドバイスの仕方を知らないんだろう。
再生されたトラックは、まあまあ使えなくははない。確かに、もう一回録ったらもう少しいいものが録れるんじゃないか、と思わせるものはある。元々音程は正確な方だし、大きなアラはない。
今の状況を考えると、この中でのベストテイクを選び出して繋いでいくのが正解だろう。ここまでを録り直すことは、時間的に100%不可能だ。
「綺悧んとこ行ってくる。お前は来るな」
「頼む」
宵闇まで目が死んでるわ。ダメだこりゃ。
俺は再びロビーにとって返す。綺悧は同じ位置でペットボトルを持ってぼんやりしていた。
「どう、休めたか?」
肩を叩きながら、隣に座る。綺悧はちらっと横目で俺を見て頷く。
「録ったヤツ聴いてきたよ。いいじゃん」
「えっ?」
ビックリした様子で、目を見開いて俺の顔をまっすぐ見た。よし。
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