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しおりを挟むでも、ミックスしたこの音は、最高なんて言えない。何となく小綺麗にまとめられて、無難なJ-ROCKみたいだ。バランスにも何の工夫もなく、ただ簡単に左右のスピーカーに振り分けられてるだけ。
綺悧のヴォーカルが入る。綺悧が3日以上苦しんだ歌だ。それが、あまりメリハリが効いてない、どっちかって言うと平坦な仕上がりになってしまっている。
何で、こうなった。何でだ。誰だこのミックスやったの。全然曲を理解してないじゃねぇか。
めちゃめちゃ腹が立って来る。
確かに、前作の倍…とまでは言わないが、かなり上回るものにはなってる。そもそも、収録した素材がかなり良くなってるからな。でも、それはあくまでも前作と比べてだ。今までベルノワールを聴いてたリスナーは「良くなったね」って言ってくれると思う。それは間違いない。でも、初めて聴くベルノワールがこれの人には、そこまでのインパクトは与えられない。
「おい、宵闇。このミックスやってんの誰だ」
宵闇も、少し渋い顔をしてる。こいつも、もっといい物を期待してたに違いない。
「大橋ケイゴって人だよ。ずっとやってもらってる」
「どんなヤツだ」
「会ったことはない」
「は? 話したことはあるんだろうな」
「いや」
俺は思わずテーブルをぶっ叩く。
「ないってどういうことだ。お前の要望とか、コンセプトとか、そういう話は」
「したことがない」
「バカだろ。ほんっとにお前バカだろ!」
うーわ、また言っちまったじゃねぇか、バカ。言っちまうよ、バカなんだから。このバカ。
ミックスが3日で出来るって聞いた時に、ちょっと嫌な予感はしてた。くっそ、当たり以上に大当たりだよ。
ただの流れ作業で片付けられてる、これ。
「…ミックスに渡した後はこういうもんだと」
「思ってたってのか!? バカ、こんなもんじゃねぇよ。ちゃんと欲しい音を伝えて、途中経過もやり取りして仕上げるんだよ。丸投げとかバカのやることだ。それもやらねぇでまともな音源が作れるか!」
宵闇は戸惑った表情で、小声で言う。
「ごめん。俺は、このやり方しか知らなかった」
「…ああ……」
そうだ、誰もこいつにそれを教えなかったんだ。多分、事務所もレコード会社もこいつらにそんな経費をかけたくないんだ。安いギャラでさっさと上げてくれるミキサーをあてがわれて、宵闇たちが文句を言わないのをいいことに、そのまま何年もこの流れでやって来ちまったんだよな。
「悪ぃ。でかい声出しちまった」
音のことだから、つい頭に血が上った。宵闇が唇を噛むのを見て、少し平常心を取り戻す。出来ちまったものについて、こいつにアレコレ文句言ったところで始まらねぇ。
考えるべきは、これからのことだ。
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