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しおりを挟む「綺悧」
綺悧がスタンドマイクの前に立ち、マイクに手をかけて「Tears for Fear」と呟く。すっと照明が暗くなり、綺悧にスポットが当たる。
「My dear corpse of tears…」
さっき楽屋で軽くやったのとは違い、情感たっぷりの綺悧の声。ああ、いいな、これ。
「…Gouge out my heart.My heart which still freezes…」
freezesの部分に綺麗にアルペジオが重なって、余韻を残して2カウント。同期が入ると同時に強い照明がステージを照らす。
おっ、そうそう、こういうの想像してたんだよ。見事に再現してくれて、スタッフさんに感謝だ。
っていうか、宵闇も俺と全く同じこと考えてたってことだな。ほんとにまあ。
ともあれ、これで一番の懸念事項はクリアされたから、何の障害もなさそうだな。ベストな状態でライブが見せられそうだ。
このままラストまでTears for Fearをプレイして、ちょうど時間くらいだな。
「ありがとうございました」
宵闇がキリッと頭を下げたのに、俺らも倣って頭を下げて「ありがとうございました」と言う。俺らが降りていくのと行き違いに、ローディーが入ってそれぞれの楽器の確認をする。
俺のローディーについてくれる小木くんとは、今日が初仕事だ。今年、サウンドアンドミュージックカレッジを出たばっかで、俺の後輩にあたる。
「夕さん、セッティング大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫。基礎できてんな」
いや、ほんと大したもんだ。きっちり図面通りにスネアとペダル配置してくれてあったし、ハイハットの開きも完璧。シンバルの高さと角度は自分で修正したけど、そこは微妙な塩梅だからな。
フルセットのセッティングになるとやること増えるし、チェックポイントも激増するから簡単にはいかねぇかもしれねぇけど、真面目に仕事するタイプだってのはわかった。
俺個人で雇ったんじゃなくて、事務所との契約だから、今まで煌丞のローディーやってたってのが可哀想だな。どう置いても関係ねぇんだから、何の勉強にも練習にもなりゃしねぇ。半年もキャリア無駄にしちまったな。こっからは俺のローディーだから、その分いろいろ教えてやろう。ドラムテクニシャン目指してるみてぇだし。
「ありがとうございます」
「開場までに、俺が調整したとこ見といてな。何となくでいいから」
セッティングはこのまま置いておいて、またオープニングアクトで俺らが使う。その為に、出順と逆にリハーサルは進行する。
「はい!」
「じゃ、本番もよろしくな」
肩を叩いて、楽屋に戻る。ちょっと汗かいたから、やっぱメイク直してもらわないとな。
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