Hate or Fate?

たきかわ由里

文字の大きさ
231 / 233

36-38

しおりを挟む

 席に戻って、宵闇に言う。
「やっぱ客増えてんな。今からもう一回やらせてもらおうか」
「やる? サキさんに頼んで来ようか?」
 宵闇もふざけてくすくす笑う。
 実現しねぇのはわかってる。次にこういうチャンスがあったら、満員の客、根こそぎうちの客にしてやる。
 ステージでサウンドチェックをしていたローディーが下がる。そろそろだな。その気配を察したんだろう、客席からも歓声とメンバーコールが上がり始める。
 前の席の背もたれにもたれて腕に顎を乗せ、ドラムセットを眺めてみる。今日のセットはタカミさんのセットを借りる形だから、雪緒さんのセットじゃないけど、シンバルがかなり増やしてあるのがわかる。相当派手な音聴かせてくれそうだな。ワクワクする。
 宵闇は腕と脚を組んで、後ろにもたれてのんびり休んでる。
 ここ、ちょうどいいよな。影になってるし、人目に立ちにくい位置だ。前も座ってねぇし。
 ついでに、ギターとベースの足元も何となく見ておく。ギターは2本だな。上手はマルチエフェクターの他にもあれこれ繋いであるから、そういう音がかなり好きだと見た。上手の袖はここから見えないけど、下手の袖にはギターとベースのサブ機が見える。
「なぁ、宵闇ぃ」
 声をかけると、俺の横に体を乗り出して来てくれた。
「ん?」
「お前、もうちょいエフェクター使いこなせるようになるといいよな」
「ああ、それなぁ。俺も研究したいと思ってんだけど」
 俺が言うまでもなく、そりゃわかってるよな。
「俺はベースのエフェクターまではわかんねぇしさ、誰かに聞いたら?」
「誰か?」
 やっぱりな。考えたこともなかったんだろう。人に習うとか聞くとかさ。一人で頑張りすぎだよ、お前。
「ほら、サンドリオンのベースは仲良くねぇの?」
「雪緒とは連絡取ってるけど、他のメンバーとは付き合いないなぁ」
 割とドラマー同士ってちょっとくらいジャンル違ってもすぐ打ち解けるし、横繋がり多いんだけど、他の楽器は違うんかねぇ。ドラマー呑み会とか割とあるんだけど。あったとしても、宵闇の性格的なもんもあるか。そういうの向かねぇっぽいもんな。
「レイジさんは。レイジさんなら、キャリアも歳も離れてっから、お前でも聞きやすいだろ」
「あー…そうか。そうだよなぁ」
 せっかく長い付き合いなのに、今まで聞けずにいたのか。レイジさんも、人のプレイにズケズケ言うタイプには見えねぇしな。
「レイジさん、5弦とかも使うし。仲良くしてもらってんのに、聞かねぇのはもったいねぇよ」
 セルスクェアのライブで見たことあるけど、レイジさんの5弦ベースと長崎さんの7弦ギターの組み合わせはすげぇ良かった。音域も広くなるし、音質もタイトでカッコいい。将来的に、あれは視野に入れときたいな。
「そうだな。プログラミングもやるし」
 ほうほう。いい感じに宵闇と共通点あんじゃん。
「ソロはヴォーカルもやって、コキーユサンジャックはギターなんだよ」
「ひえ。めちゃめちゃマルチプレイヤーじゃねぇか」
 出来ないパートは何だ。ドラムだけか。いや、ここまで来るとドラムも叩けそうだよな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

三十六日間の忘れ物

香澄 翔
ライト文芸
三月六日。その日、僕は事故にあった――らしい。 そして三十六日間の記憶をなくしてしまった。 なくしてしまった記憶に、でも日常の記憶なんて少しくらい失っても何もないと思っていた。 記憶を失ったまま幼なじみの美優に告白され、僕は彼女に「はい」と答えた。 楽しい恋人関係が始まったそのとき。 僕は失った記憶の中で出会った少女のことを思いだす―― そして僕はその子に恋をしていたと…… 友希が出会った少女は今どこにいるのか。どうして友希は事故にあったのか。そもそも起きた事故とは何だったのか。 この作品は少しだけ不思議な一人の少年の切ない恋の物語です。 イラストはいもねこ様よりいただきました。ありがとうございます! 第5回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。 応援してくださった皆様、そして選考してくださった編集部の方々、本当にありがとうございました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様の住まう街

あさの紅茶
キャラ文芸
花屋で働く望月葵《もちづきあおい》。 彼氏との久しぶりのデートでケンカをして、山奥に置き去りにされてしまった。 真っ暗で行き場をなくした葵の前に、神社が現れ…… 葵と神様の、ちょっと不思議で優しい出会いのお話です。ゆっくりと時間をかけて、いろんな神様に出会っていきます。そしてついに、葵の他にも神様が見える人と出会い―― ※日本神話の神様と似たようなお名前が出てきますが、まったく関係ありません。お名前お借りしたりもじったりしております。神様ありがとうございます。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

処理中です...