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第二十八話【生き生きしてる】前

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駐車場へとバイクを止め、冬真が力也をつれ向かったのは一件のビルの地下だった。ドアを開け中に入れば、一見普通のバーのように見えた。
 ここは冬真の友人の経営するダイナミクス専用のバー兼カフェで、普通の店ではしづらいPlayじみた食事もできる場所だ。

「冬真さん!いらっしゃいませ!」

 パタパタと走ってきた長髪の青年は、冬真と知り合いのようだった。人懐こい笑みを浮かべた青年はSubだった。

「予定より早かったか?」
「大丈夫ですよ。オーナー!冬真さん来てくれましたよ」

 そう声をかければ、カウンターの中から、一人の男がでてきた。男は冬真と力也を見るとニコッと笑った。Domだと力也は気づいた。

「いらっしゃい、待ってたぜ」
「力也、コイツ俺の高校時代のダチ」
「こんばんは、よろしく」
「よろしく。冬真、彼が例の?」
「ああ、敬語使えよ?コイツのほうが年上だから」
「細かいな」

 話のネタにでもされているのだろう、そう笑いながら頷きあうDom二人の様子に微妙に嫌な予感を覚えつつ、力也は交互にその顔を見た。

「で、コースは言ってたの頼んでくれるんだよな?」
「ああ」
「コース?」
「これですよ。冬真が注文したの」

 そういって見せられた内容を見た力也はコースの下に書かれた値段に固まった。おつまみ見たいな物ばかりなのに、量が多い所為か高い。

「心配すんな、今日は俺が払うから」
「そういうわけにはいかないってこれじゃ…」
「力也、お前まだお仕置きの最中ってこと忘れてねぇ?」

 忘れていたわけじゃないけど、結果的にお仕置きの最中に反抗したかのようになってしまい、力也は押し黙った。

「お仕置き?」
「そ。力也、上半身だけでいいからStrip」(脱げ)

 意外なことを言われ、思わず冬真の顔をじっとみた力也だったが、反抗することもなく上着を脱ぎ、シャツを取り去り、ロープに縛られた上半身を晒した。

「お兄さんなにやっちゃったんですか?」
「コイツ俺に手放されるんじゃないかって、不安になったらしくて」
「あー、それはねぇな。お兄さん、コイツの執着心やべぇから、絶対手放したりしないんで」
「な?ダチもそういうんだから信じていいって」
「わかってる」

 こんな物をずっとつけられていたのだから、もう充分自覚した。自分は冬真にとても強い執着心を持たれていると…。
 冬真は独占欲が目に見えて強いわけではなく、また束縛も求めない為勘違いされやすいがその実そうではなく、気に入ったもののそのままを手放さないタイプだった。
 そのままを崩さず、そのままにあった理想を決めたら、どんな手を使ってもそれに近づけようとする。冬真にとって、力也はすでに自分のテリトリーにいるもので、そのままいればよく、変わってしまうほうが困るものだった。

「ごめん、冬真」
「俺の気持ち疑わなければ、話したくない話は隠していいから」
「ありがとう」
「ただし、今回のお仕置きは続行するけど」
「え…」

 そういうと、冬真は友人のDomのほうをチラリと見た。視線があった友人はニヤッと接客業に不釣り合いな笑みを浮かべると、カウンターの中からなにかを取り出し冬真へと渡した。

「席、あそこだから。ごゆっくり」
「力也、いこう」

 指定された席は店の入り口近くに位置していたボックス席だった。そこはカウンターからも近く、人の目にも触れそうな場所だった。席についてみると、そこには背丈の低い椅子が一つしかなく、床には分厚いクッションが置かれていた。

「力也、Kneel【【お座り】

 クッションを指さされ、力也はその上へと座った。そうすると、冬真を少しだけ見上げるような感じになる。入り口と通路は背中側になり、誰が入ってきたかもわからない。

「両手だして」

 そういった冬真の手には、先ほど渡されたのだろう、革の手錠があった。今から食事するのに、両手を封じるのかと不思議に思いながらも、力也は両手を差し出した。
 差し出した手は両手を組んだ形にしてしっかりととめられた。これで、自分で服を着ることもかなわなくなり、力也はロープに彩られたままの背中を見せに入ってきたお客に見せることになった。

「冬真?今から食事するんだよな?」
「ああ、力也腹減ってんだろ?」
「減ってるけど…」
「量多めに頼んどいたから安心しろよ」

 ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべる冬真に、力也はこれは聞いても無理だと、悟った。

(犬食いすればいい感じかな)
「こちら、今日の料理です。このコースのコンセプト通り二人でシェアして食べてください」

 先ほどのSubの青年が、そういって料理を運んできた。
 両手をふさがれてしまったのだから、床に餌皿でも置かれるのだろうと思っていたら、席に運ばれてきた料理は全て冬真のテーブルへと置かれた。
 分けてもらうにしても、力也の前にはなにもない。どういうことだろうと、テーブルの上の料理をみた瞬間、その形に力也は嫌な予感を覚えた。

(まさか…)
「力也、もっとこっちこい」

 呼ばれて少し、近づけば、予想通り冬真はスティック状に切った野菜を咥えて力也へと差し出してきた。そう、運ばれてきた料理は全てが加えやすいスティック状か、それでなければ一口大に切られていた。

(確かにシェアっていえばシェアだけど!)

 力也がためらっていると楽しそうに、スティックの先を唇へとおしつけてくる。しかたなく、口を開けば口の中へと野菜のスティックが押し込まれる。両端からポリポリと食べていけば、にっこにこの冬真の顔が段々近づいてくる。

(ポッキーゲームじゃないんだから!)

 あまりにも下心が見え見えで、途中で折ってしまいたくなるがそうもいかず、最後まで食べていけば予想通り冬真の唇と力也の唇が触れた。
キスが来るだろうと身構えれば、そんな力也の想いを見こうしたように、冬真は軽いキスだけをして離れた。

「…冬真?」
「次はこれ」

 戸惑う力也にかまうことなく、また野菜スティックを咥え差し出してくる。早く咥えろというように差し出され、咥えて食べていく。今度こそ、深いキスが来るかと思えば、またすぐ口づけして離された。

「どんどん行くからな」

 三度目になるとさすがに理解できる。これは完全にわざとだと、寸止めされて戸惑う力也の顔を楽しんでいる。

「冬真~」
「うん?なに?」

 わかっている癖にわざとわからないかのように聞き返す冬真を睨めば、笑って交わされた。一日中、緊縛してじらされた挙句に、キスでもじらすのか。
 自ら、人目があるところでキスしてほしいとねだればいいのか。いや、冬真のことだから自分から来いということなのかもしれない。
 どちらが正解なのかと考えていれば、今度はポテトが差し出された。渋々加えれば、口元までくると押し込むように口に入れられ、軽く唇を舐められた。

「その物欲しそうな顔最高」
「いじわる!」
「お仕置きだし?まだこんなにあるんだから、時間かけてらんねぇだろ?」
「……それ本当に全部こうして食べさせる気?」
「もちろん。せっかくギャラリーもいるんだから、楽しませないとな」

 そういったとき、カランカランと店の一口のベルが鳴り、客が入ってきたのが分かる。力也からは見えないが、客は男性二人組のダイナミクスカップルだった。
 力也には話してはいないが、冬真の友人が経営するここは、ダイナミクス向けにできており、客のほとんどがそうだった。いま入ってきたのも、常連の一人で、加えて冬真と同じ学校の卒業生だ。

「いらっしゃいませ」
「こんばんは、今日のおすすめが見たくてきたんだけど…あれかな?」

 そういうと、二人の客は力也と冬真がいる席の前へと立った。顔も見えないDom相手に後ろに立たれ、力也の体がこわばる。冬真から施されたロープに彩られた背中をまじまじと見られているのを感じる。まるで品定めされているかのように、体の筋から、肌まで視姦されているかのように思い、次第に息が上がっていく。
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