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番外編【ダイナミクスコミュニケーション略してダイコン】後
しおりを挟むふと気づけば、そこは見慣れたベッドと、天井だった。熱いほどしっかりと抱きしめる冬真の腕の中で目覚めた力也は、とりあえず身動きしたくて体を少し動かした。
「力也?」
動いたことで、目が覚めたのか冬真は力也の顔を見ると、にこっと笑い頭を撫でた。
「どうした?」
「うん、なんか変な夢見た」
「夢?」
「ああ、冬真と一緒にダイコンの授業受ける夢」
ぼんやりとしていたはずの冬真は、その話しに興味を持ったかのように力也の顔を面白そうに見つめた。
「力也と俺が同級生?」
「ううん、俺は先輩だった」
「先輩か」
面白そうに繰り返すと、気づかぬ間にがっしりと抱きしめていた腕の力を弱めながらも背中を抱きしめポンポンと軽く叩く。
「力也先輩?」
「そうそう」
「俺力也先輩とダイコンでペア組めた?」
「ああ、俺が寄ってってすぐペアになった」
どうやら随分、現実的な夢をみたようだ。王華学校に入学した当時の不安な気持ちを思いだしつつ、冬真は相づちを打った。
あの頃の冬真は中学で初めてサブドロップをおこさせてしまい、振られてから精神的に不安定になりその所為でグレアもうまく操れず、抑制剤も飲んでいた。決心して王華学校に入り、ダイコンのPlay練習では緊張していた。
(あの頃に俺と力也が出会っていたらか・・・・・・)
「それじゃ、俺喜んでただろ」
「驚いてたけど凄い喜んでた」
自分のDom性を操ることに自信を持てずにいたあの頃に、自ら寄ってきてくれた力也はきっと救世主のようにみえただろう。
「で、リボンにキスしてペアになってくださいって言われた」
王華学校ではペアになるときはそうして申し込むのが恒例となっていた。一年であっても、上級生の練習風景を見たときに覚え皆そうしていた。
「ダンスでも誘われるかと思った」
「あれ誰が最初にやり出したんだろうな。皆やってたから」
おそらく、力也がライブの時に助っ人として連れてきたフリーのSub達も同じように誘われたのだろう。
「ってことはもしかして、DS合コンの時、リボンつけてけば王華学校の卒業生を見つけられるって事?」
「そう言われればそうだな。安全なDomを見つける手段としては使えるかもな」
目をつけられたらけして逃げられない相手ばかりだが、大事にしてくれるという意味ならば絶対安全だろう。パートナー探しと言いつつ、手軽に遊べる相手を探しているだけだったり、会ったその日にストレス解消のようなPlayをされ傷つくSub達も多く、SubにとってDS合コンは危険をはらんでいる。
「ってか王華学校の卒業生DomだけのDS合コンもあるんだけどな」
「そう言えば、保護施設の掲示板に身元保証、安全でSubを絶対大事にするDom相手の合コンのチラシがあった気がする」
「完璧、王華学校の卒業生だな」
力也の母のように入院状態になっていれば無理だが、保護施設に逃げてきたSub達の中には新しいDomを求めている場合がある。新しいDomを得て施設を卒業したいと考えているSub達向けの合コンがそれだ。
「なるほどな」
無論、卒業生だけというだけではなく面会などいくつかの工程を終えた上で選ばれた上での話しだろうが。
「で、俺はちゃんとリードできてた?」
「途中、なでなでタイム入ったりしたけどできてた」
「アハハ、抑えられなかったか。大体15分じゃ短いんだよな」
「あっという間だったからな」
Play練習の時は二時間とられていたが、Subが少ないためPlay時間が短く堪能する時間はなかった。もっと長くふれあいたいとあの頃は誰もが思っていた筈だ。
「他の生徒の相手とかしてないだろうな?」
そう言えばあの後は他のDomと組む事になっていた筈だ。途中まで流されていたが、その時になったら自分は抵抗したかもしれない。練習とはいえ、冬真がいいと言い出す可能性は十分あった。
「する前に起きた。なんか冬真がいきなりパートナーの申し込みしてきたところで起きた」
他の生徒の相手をする力也を思い浮かべたのか少し不満そうにしていた冬真だったが、その言葉に一瞬驚くと声を上げて笑い出した。
「即落ちかよ。俺チョロ!」
容易に想像できる状況に、笑うことしかできず笑い続ければ力也もそれに釣られたかのように笑い声を上げた。
「なんか他の人達も驚いた顔してた気がする」
「そりゃ、そうだろ。一回Play練習しただけでプロポーズって、どれだけ飢えてんだよってなるよな」
一歩間違えれば勘違い系一直線の流れだとは思うが、Subに飢えていた自分なら間違いなくそれだけで舞い上がるだろう。
「で、力也はなんて返事してくれたんだ?」
返事はわかりきっているが、聞きたい言葉だから聞かずにはいられずにいられない。期待と確信を持って尋ねれば力也はどこかキョトンとした顔をした。
「だから返事する前に起きちゃったんだって」
聞きたい言葉とは違う言葉が返ってきたことに、ガクッと気が抜けた。期待していただけに少しショックに感じる。
「と、冬真?」
拗ねたように背中を向けた冬真に、慌てたように力也は名前を呼んだ。先ほどまで楽しそうに話していたのに、なにがダメだったのだろうか。
「浮かれて勘違いした奴にする返事とかないよな」
「冬真? いじけてる?」
「先輩じゃ、もう先に他の奴に予約されてそうだし」
「夢の話しだって」
「一回練習しただけで、盛り上がって馬鹿みたいだよな」
グチグチ言い出したその背中を突くが、なかなか振り返ることはなく力也はどうしたものかと困ったようにため息をついた。
「もう、夢の話しだって言ってるのに。そもそも俺の方から冬真に寄っていったんだから断るわけないだろ」
その言葉に冬真はくるりと体を元に戻し、力也に期待を込めた目を向けた。
「じゃあ、なんて返事してくれるつもりだったんだ?」
「そりゃ・・・・・・言われなくともとか? あ、でも夢では初対面だったみたいだから、よろしくお願いしますかな? どっちにしても断るとかないから安心して」
やっと返ってきた望み通りの言葉に、力也をぎゅっと再び抱きしめた。グリグリと頭を押しつけ、抱きしめた手でなで回す。
「安心した?」
「したけど、もっと聞きたい」
「もっとって・・・・・・練習だったし、他の生徒の相手もして欲しいって先生が言ってたけど俺は冬真だけがよかった。出されるコマンドは嫌な物ないし、練習なら割り切れたはずなんだけど、その場になれば断ってたと思う。俺のご主人様は冬真だけだから」
あっさり自分の望み以上の言葉を返してくれた力也に、抱きしめる手を強めそのまま頭や首筋へキスを送る。くすぐったそうに笑う声に一度落ち着いた筈の熱が再び蘇ってくる。
「冬真?」
「ごめん、もう朝になるけどもう一回いい?」
「体力には自信あるし、いいよ。ってか冬真の方がバテそう」
「言ったな」
抱きしめたまま、あっという間に押し倒しギラギラとDom特有の強い瞳を向けてきた冬真に力也は笑い返した。
口を塞がれると同時に、愛情を込めた暖かいグレアが体を覆い尽くす。それだけで幸せを感じ、全てを委ねたいという想いが湧き上がる。
出会った時が違ったとしても、この暖かさを知ってしまったらきっと離れられない。
かならず、自分は冬真を選ぶだろう。そう思いながらその身を委ねた。
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