ある夏、迷い込んできた子猫を守り通したら恋人どうしになりました~マイ・ビューティフル・カフェーテラス~

松本尚生

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4、新米マスターの非日常

猫を探してやって来た男

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「落としものをね、探してるんですよ」

「はあ」

 またおかしなお客さんだ。

 ランチ営業が退け、あとは閉店までゆっくりコーヒーを落としていけばいい。大した客数でもないのだが、まだまだランチ時は目まぐるしい。

 気温もピークを越して、近所の商店主たちが暇つぶしがてら涼みにやってくるのも減った。ようやくのんびりひと息つける時間がやってきた。

 そこへ、肩でドアを押すように入ってきたひとりの男。

 見るからに反社会的な雰囲気をまとった強面だ。

 二度三度来られても困るので、他の客がいない今日は普通にコーヒーを淹れてやり、帰り際に再来店をご遠慮申し上げる旨をお伝えしよう。そう貴広は考えた。そこへ、前後のつながりのない意味不明な発言だ。

「……『落としもの』、ですか」

「ええ」

 強面はたった今貴広がカウンターに上げたコーヒーのカップを持ちあげ、香りを楽しんでからひと口味わって、満足げにうなずいた。

「どこへ、落とされたんですか? お心当たりがおありです?」

 口を挟まない方がいい。下手にしゃべらせない方がいい。貴広はそう思いながらも、男に尋ねてしまっていた。

「正確には、『落とした』とは、言いかねるかもしれませんね。『失せもの』と言った方が正しい」

「はあ」

 男の口許にふっと笑みが浮かぶ。人好きのするその笑顔に、貴広の脳内ではあらゆる警報が鳴り響く。

 悪人面してない反社勢力は、ガチで悪いヤツが多い。国境貿易ではそんな切った張ったも経験してきた。まさか日本国内でそんなやり取りをしなきゃならん日が来るとは。

(どうやって帰ってもらおう……)

 貴広が思案していると、男はさらに口を開いた。

「友人に頼まれたものを渡そうとしたら、猫に取られちゃって。よくない猫でしてね。姿形は可愛いのだけれど、ま、所詮畜生ですからね」

「…………」

 男はカップから目を上げ、貴広を真っ直ぐ見据えて言った。

「こちらのお店の裏の小路には、猫がよく現れるでしょう?」

 貴広は流しの蛇口を開き、ポットに水を足しながら言った。

「猫ですか……? ウチはこの通り飲食店ですからね、ペットの類いは厳禁でして。この界隈の猫事情までは、分からないなあ」

 貴広は困ってそう笑った。

 強面はにこりと笑って立ち上がり、会計を済ませて出ていった。

 いい、男だった。

 突拍子もない話に毒気を抜かれ、出禁を言い渡すタイミングを失った。貴広は黙って男を見送ってしまった。

(面倒だな)

 あの言い回しが当てこすっていたのは、何だろう。

 猫。失せもの。何かを探している。

 最近貴広のところにやってきたのは――。

 悪魔の爪が貴広の心臓を掴む。
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