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5、夜の果て
持ってちゃいけないもの
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カラ……ンと鐘が鳴る。
「おぅ、来たな」
良平はチラと店内を一瞥し、客がいないのを確認した。
「うん」
肩にかけたカバンを重そうに揺らし、良平はカウンターの前を横切る。
貴広は呼びとめた。
「良平」
「何?」
「お前、何か、『持ってちゃいけないもの』を持ってないか?」
「『持ってちゃいけない』……って……」
良平は肩からカバンを下ろし、カウンター前のスツールに置いた。そのまま黙って下を向いている。
「良平?」
「……今は持ってない」
「『今』は? 心当たりがあるんだな」
良平は怯えたように身じろぎした。あまり追い詰めると猫はどこかへ逃げ去ってしまうだろう。貴広は深呼吸した。
(『猫』……)
やはり、あの男の当てこすりは良平を指していたのだろうか。
「良平……」
問いただそうとする貴広を、良平は遮った。
「店でしていい話じゃない。あとで全部話すから。店を閉めたあと、上で全部。ね?」
心細げに睫毛が揺れる。貴広はその柔らかな頬に触れたい衝動に駆られる。
「……分かった」
そう答えた声は、渇いてかすれていた。
「じゃ、荷物、置いてくるね」
良平は兎のように階段を上がった。
「おぅ、来たな」
良平はチラと店内を一瞥し、客がいないのを確認した。
「うん」
肩にかけたカバンを重そうに揺らし、良平はカウンターの前を横切る。
貴広は呼びとめた。
「良平」
「何?」
「お前、何か、『持ってちゃいけないもの』を持ってないか?」
「『持ってちゃいけない』……って……」
良平は肩からカバンを下ろし、カウンター前のスツールに置いた。そのまま黙って下を向いている。
「良平?」
「……今は持ってない」
「『今』は? 心当たりがあるんだな」
良平は怯えたように身じろぎした。あまり追い詰めると猫はどこかへ逃げ去ってしまうだろう。貴広は深呼吸した。
(『猫』……)
やはり、あの男の当てこすりは良平を指していたのだろうか。
「良平……」
問いただそうとする貴広を、良平は遮った。
「店でしていい話じゃない。あとで全部話すから。店を閉めたあと、上で全部。ね?」
心細げに睫毛が揺れる。貴広はその柔らかな頬に触れたい衝動に駆られる。
「……分かった」
そう答えた声は、渇いてかすれていた。
「じゃ、荷物、置いてくるね」
良平は兎のように階段を上がった。
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