ある夏、迷い込んできた子猫を守り通したら恋人どうしになりました~マイ・ビューティフル・カフェーテラス~

松本尚生

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6、甘い、甘いチーズケーキ

濡れた瞳

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「あんた、甘すぎるよ」

 貴広はすみれさんをタダで帰した。

 詫びも要らない、もちろん今日の代金も要らない。そして気が向いたらまた来てくれて構わない。今日のことはお互いにキレイに忘れて、なかったことにしよう。

 貴広がそう提案すると、すみれさんは何度も繰りかえし礼を言って帰っていった。

 良平は大いに不満らしい。

「あんなことされて、黙って忘れてやるなんて。飲食店だぞ。他のどんな商売よりも、評判ありきじゃないか」

 貴広はつい嬉しくて、ニコニコと頬が緩んでしまう。

「そうだよ良、よく知ってるね」

「『そうだよ』じゃねえわ!」

 良平はスタッフ用のアルミカップに注いだコーヒーをグビッと飲んだ。

「しかもあの犯行動機聞いたかよ。勝手に横恋慕したオッサンのためにだぞ? ああいうのは、許してやると、またどこかで似たようなことすんだよ。また被害に遭うぞ? いいのか?」

「良は優しいね」

 貴広がニコニコ顔を崩さないので、良平もさすがに毒気を抜かれ押し黙った。

「だってさ、良は許されたじゃないか」

「貴広さん?」

「良はあんなに危険な目に遭ったのに、ごいんきょのおかげで、こうして何ごともなく安全でいられる。まあ、実際のところは分からないけど」

 良平はアルミカップを握り締めた。

「でも、多分、良平はもう大丈夫。ならすみれさんだって、やっちゃったことは消せなくても、だからって不幸にならなくてもいいじゃない?」

 しでかしたことは消せなくても、不幸にはならなくていい。

 良平はぐすりと鼻を鳴らした。貴広は言った。

「俺、今サイコーに幸せ。だから、みんな幸せになったらいいって、そう思うんだよ」

 貴広の胸は晴れ晴れとして、これから来る秋の空のように爽やかだ。

「あはは……人間って、変わるもんだねえ。……良平?」

 アルミカップを流しに置き、良平は貴広の背に抱きついた。

 貴広はドキドキして戸口の方に目をやった。誰か入ってきたらどうしよう。

「良平君? おい良。離せよ。誰か来たら」

「あんた、甘すぎるよ」

 良平の涙に濡れた声が、貴広の耳たぶをくすぐった。良平は額を貴広の肩に乗せる。

「あんたがそんなんだから、俺……」

「良?」

「俺、あんたのことが好きなのかな」

 貴広は振り返る。良平の涙に濡れた赤い瞳をのぞき込む。泣き顔を見られて、良平は恥ずかしそうに目を伏せる。

 そして――。

 貴広は良平の両手を軽く握り、その頬にチュッとキスをした。
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