星導の魔術士

かもしか

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第一章 魔術学校編

第19話 vsリンシア

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 突如始まったレントとリンシアの模擬戦。
 その目的はお互いの実力を把握するためである。
 これから大会でチームとして動く以上、お互いの力は知るべきであるしそれによって作戦も考えられる。
 兎にも角にも、必要な事ではあるのだ。

「行く」

 リンシアは口数こそ少ないが、知り合いにさらに少ない者を知っているのでまだマシに思えた。

『│水泡爆棺《リキッドボム》』

 リンシアのかざした手からは何も出てこない。
 どういう魔術なのかとレントは伺っていると、突如レントの右手に水の玉ができ始めた。

「うわっ!」

 レントはそれを剥がそうと手を振るが、一向に離れようとしない。

「それは食らったらもう離れない」
「おいおい」

 ミラが離れて様子を見ていて声を上げていた。
 思ってたより本気の戦いになりそうだ。

「仕方ないね」

 レントはそう口ずさむと魔術を展開し始めた。
 ただ、右手にくっついている水のせいかどうにも魔術を出しづらい。

「それは一定時間後に爆発するもの。それと、それが付いてる間は魔術展開速度が半分近くになる」
「うわぁ、やられたなぁ……」

 ただでさえ遅い影魔術が、これでさらに半分になるとか考えたくもない。
 そうこうしてる間に時間は経ち、爆発する時間までそんなになかった。

 ───ドカンッ

 レントに付いていた水が爆発をした。
 こんな至近距離で爆発したのではヤバいのでは、とレントは思っていたがそこまで痛みは無かった。

「それの本体は魔術展開速度の遅延。爆発はおまけ」
「どうりで」

 爆発と言えば火魔術の専売特許みたいなもんだ。
 他の属性でも使えるとはいえあれほどの威力は無いのだろう。
 とはいえ、ゼロ距離で爆発を食らって無事というわけでもない。

 右手を見やれば皮膚に断裂が走っている。
 少なくとも痛いと思えるほどには傷ができていたのだ。

「指定座標に突然出てくる水の塊か……厄介だね」
「まだやる?」
「当然!」

 レントは右手が痛くはあるが、魔術を使うのにくになるほどでは無い。
 そこでひとつとっておきの魔術を披露することにした。

『影の支配《シャドーステージ》』
「!?」

 たちまち辺りの地面が影に染まるとリンシアは警戒を強めた。
 なにせ、今からやるのはアイリに習っていた二重魔術ツインマジックだ。
 このためにはこの『影の支配』を使わないといけないのだ。

『│雷影魔術《らいえいまじゅつ》飛電影夜星ひでんえいやしょう

 その詠唱とともに、黒くなった地面が雷を帯び始める。
 この魔術はアイリから習った二重魔術にライゴウの雷魔術を参考にしたものだ。
 人族が使える魔術は基本的には1つといつのは有名な話だ。
 だが、そんな人でも潜在的にはもうひとつの属性が眠っていることは、公にはなってないが最近の調べによりわかっている。
 それの目覚め方を知らないだけなのだ。

「僕の2つ目の属性は雷だったって事だね」
「レントもよくやるね」

 ミラが感心していた。
 ミラやリンシアの2つ目の属性はなんだろう?

「さて、そろそろ再会しようか」
「うん」

 そう言ってミラは魔術を展開しようとする。
  

 ──その瞬間、リンシアに激痛が走った。

「ああぁぁぁぁぁぁ!」

 口数が少なく比較的静かな彼女の初めての叫び声だ。
 それほどだったのだろう。

「飛電影夜星は魔術を展開する時に感電による負荷をかける魔術だよ」
「……痛い」

 それはもう感電なんて痛いというレベルではないだろう。
 痛いで済むのは彼女の魔術耐性が高いからにほかならない。

 とはいえ、雷魔術を扱えるようになっても搦手になるとは影魔術の得意分野がどうにも大きく出ている。
 良くも悪くも自分のいちばん得意な魔術が優先になるようだ。

「僕も雷を使って攻撃とかしたかったなぁ」
「これもかなり脅威」

 それは間違いない。
 影の支配による物理無効、そして二重魔術による魔術阻害。
 上手くレントの穴が埋まった形となる。

 これを打破するには領域内で無理して魔術を使うか、領域外から魔術を使うしかない。
 リンシアはその場で使うのを諦めて領域外に出ようとした。

「させないよ」

 レントがそう言うと新たな魔術を展開した。

黒帝葬シャドー・バインド

 リンシアに拘束する魔術が襲う。
 しかし、リンシアはそれを読めていたようで魔術を放った。

「ぐぅ……」
『氷魔術氷々滑々ひょうひょうかつかつ
「氷魔術!?」

 リンシアは展開した魔術によって拘束から逃れることに成功した。
 しかし、その結果とは別でレントはそれはもう驚きを隠せない。
 人族に扱える属性魔術は火、水、雷、風、天、影の6種類だ。
 氷魔術なんてものは聞いたことがない。
 まだまだ世界は広いとレントは思わざるを得なかった。

「ん、氷魔術」
「その魔術は一体なんだ……?」

 戦ってる最中に教えて貰える訳もなく、レントはリンシアの攻撃を許すことになった。

氷散弾アイスバレット
「そして」
『氷散弾』『氷散弾』『氷散弾』

 4連発で飛んできた謎の魔術。
 無数の氷の塊がレントを襲う。
 その数はざっと見ても数百止まりではないだろう。

「ちょっ」

 そんな魔術避けようがなかった。
 レントは無様に真正面から食らうことになる。

 ────ズガガガガガガ

 体に当たる鈍い音に氷の砕ける爽やかな音が響き渡る中、その攻撃はようやく終わりを告げた。
 レントの服はボロボロになり、身体には無数の傷を作り、血さえ出てきている。

「うあぁ、いったぁ……」
「どう?」

 どうと言われても、こうもまともに食らったのも久しぶりだし4連発ということもあり素直にやばかった。
 その事を伝えると満足したのか、次の魔術を使い終わらせようとしていた。

「ぐっ……流石にこれで終わらせられない」
「私の方が速い」

 それは間違えようもない事実だ。
 影魔術はいかなる魔術において最遅なのだ。
 しかし、レントには以前にも見せた奥の手が存在している。

 ────『影の狂演シャドー・ダンス

 リンシアの氷魔術を食らう直前に何とか間に合った魔術。
 食らった魔術をそのままそっくり自分も使えるようになる魔術だ。
 ただし、3回という使用回数制限から物量では勝てないだろう。

『氷散弾』
『氷散弾』

 2人は全く同じ魔術を全く同じタイミングでお互いに放つ。
 これにはリンシアもそうだが、ミラも驚いている。
 しかし、そうであってもリンシアが見逃さてくれることは無かった。
 自分が使える氷散弾は3回に比べてリンシアはその魔力が尽きない限り使えるのだ。

 やはりと言うべきか当然の結果と言うべきか、次第にレントが押され始めた。

「人真似だけでは私は倒せない」
「わかってるよ、僕は時間が稼げれば良かったんだ。そのせいでこんな痛い思いしてるわけだけど……」

 なんとか抑え負けるまでに展開しなくてはならない。
 この場で1番適した魔術は何か。
 レントは高速で思考を巡らせた。
 その結果、1つの魔術へとたどり着くことに成功した。

星影の凶演プリズム・ダンス

 レントは『星痕』を輝かせて1つの魔術を行使した。
『影の狂演』を事実上強化した魔術だ。
『星痕』により使用回数制限を無制限化する事が出来るようになる。
 その際に使う魔力も回数に限らず一定の魔力でいいというほどのトンデモ魔術だ。


 ただし、とてつもない反動がある事を無視すればの話ではあるが……。


「!?」

 リンシアの氷散弾が押され始めて、遂にはリンシアに氷散弾を当てることに成功した。
 リンシアはほぼ無限に使えはするが、魔力という限界がある以上いずれは負ける時が来る。
 一方レントは、一定の魔力さえ消費すれば回数は言葉通り無限なのだ。

 ────ズガガガガガガガドンッ

 無数の氷の弾を受けたリンシアは、その衝撃で訓練場の壁に激突した。

「ここまでにしようか」

 ミラがリンシアの吹っ飛ばされた方向を見ながら静止をかけた。

 壁の方を見るとリンシアがゆっくり立ち上がるのを見て、魔術耐性がかなり高いのを思い知る。

「僕があれ食らったら多分立てないんだけど……」
「リンシアは人一倍魔術による耐久があるからね」
「残念」

 3人は訓練場の壁際に集まりこれからの行動を話し合うことにした。

「とりあえずこの3人で出場でいいかな?」
「まぁ、いいと思うよ」
「いい」

 レントもリンシアも、お互いの力の一片を見れたからか信頼が生まれていた。
 そこからはどの順番で戦うのか、大会までにどうやって過ごしていくのかを話し合い、今日は解散という事になった。

「ところでレントくん。あの魔術強すぎないかい?」
「反則」

 確かに食らった魔術を実際無限に扱えるようになる魔術だ。
 反則と言われても致し方ないとレントも思っている。

「あぁ、あれには反動がちょっとね」
「反動?」

 あれほどの魔術だ。なんの代償もなく使えることなんてない。
 もちろん『星影の凶演』にもそれなりの代償がある。

「あれ使うとこの先一生、それで使った魔術が使えなくなるんだ。今回で言うと氷魔術だね」
「そんなものをこんな時に使っていいのかい?」
「いいんだよ、そんな出会えるようなもんでも無さそうだし……っていえば、氷魔術って一体なんなんだ?」
「水と水の二重魔術」

 なるほど、とレントは関心を露わにして興奮を抑えられない。
 今まで同じ属性の二重魔術による発動の記述が無かった訳では無い。
 ただ、それで成功してるものがなかったのだ。
 かくいうレントも影と影の二重魔術を覚えようとして失敗した過去がある。

「同じ属性で二重魔術が成功している……コツってなんかあるの?」
「その属性を知ること」

 なんとも要領を得ない返答がきた。
 属性を知る?
 レントは自画自賛とも取れるがそれなりに影魔術を扱えると自負している。
 それでは足りないということか?

「その魔術の性質、癖、環境全てを知り、自分自身が魔術としてなり得ることが必要」

 そう言ってリンシアは身体に水魔術を纏わせたかと思えば、それと一体化を始めた。
 レントも影の支配を使えばそれに近い事が出来る。
 しかし、リンシアはそんな特殊条件無しにそれをやってのけたのだ。

「この状態だと物理攻撃と火魔術は効かない。その代わり雷魔術に覆せないほどの不利が生まれる」

 それと、と付け足すように話を続けた。

「あまりにも火力が高い火魔術はむしろ天敵。相手を見極めて使わないとダメ。特に今回の影魔術相手の時とか」
「影魔術?」
「そう。影魔術は基本的に魔術による攻撃、搦手が得意。そんな相手ではそこまで意味をなさない」

 どっちかと言うと防御寄りなんだろう。
 つまりはその領域になって初めて同じ属性での二重魔術が使えるということらしい。
 まだまだ研鑽が足りないようだ。

「しかし、これを記した本は今まで無かったけど……」
「当たり前。大抵の人は使える以上のことはしない。それを深く知ろうとはしない」

 結果、今まで使えないとされていたという事らしい。
 レントは訓練の方向性が決まったので、この模擬戦でかなり得たことになる。

「今度お礼させてくれないか」
「お礼? なにかした覚えは無いけど、そう言うならご飯」
「はは……ならそれで」


 そうして、夕食をお礼として奢る約束をしてその場を後にした。







「にゃにゃにゃ、そんなやり方があったんかにゃ。これは早く広めるべきだにゃ」

 ひとつの影がこの話を聞いていて、報告をする事になるのだがこれはまた別のお話である。
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