星導の魔術士

かもしか

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第一章 魔術学校編

第28話 選抜大会本戦

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「ついにこの日がやってまいりました! 星間魔術選抜大会本戦! この人ために猛者が集まっております! 実況は私、魔術学校第2学年で教師をしておりますナイヤと!」
「解説は天秤の『星導者アルファ』こと、ジャジィが担当するぜ」

 大会出場者が入場口に集まっていると、観客に向けて盛大な挨拶がされていた。
 レント達も入場口にて順番に並んでいる。

「さてさて、総勢162名54チームの予選を勝ち抜いて本戦へと駒を進めたのは8チームだ! あれ? 例年より少ないですね……。まぁそれだけチーム全体が強い人達ということでしょう! それでは解説とともに舞台に上がってもらいましょう」
「俺を楽しませて欲しいね」

 ナイヤとジャジィはそれなりにテンションが出来上がっていた。
 ここまで盛り上がらせようとしているのだ、選手も怖気付いてはいられない。
 呼ばれたら颯爽と堂々と出ていかなくては、と選手達はそれぞれが思っていた。

「それでは1チーム目! その巨体は山の如し、襲いかかる暴力を前にしてあらゆるものは破壊あるのみ! 巨人族3人のチーム『ギガント』!!!」

 その声と同時にバカでかい身長の3人が舞台に上がる。
 予選の時でもよく目立っていた3人だ。
 その巨体から繰り出される拳や重量はちょっとやそっとでは覆せないだろう。

「うおおおおお! でっけぇ!!!」

 どうやら観客も既にヒートアップしているようだ。

「続いて上がるのは我らが魔術学校第2学生『ジンライ』!!! ちょっとした情報ですが、彼らはこの猛者の中でさらに強く成長するために参加したとのことです」
「先生! ちょっと恥ずかしーぜ!?」

 コウがナイヤに向かって叫んでいる。
 その声に観客席は笑い声で溢れていた。

「彼らに続くは、我が星が誇る魔術士団『リブラスケイル』ゥ!! 彼らの立場において負けは許されません! 是が非でも勝ちに行くとの事です!」
「おう、お前ら。相手が子供や傭兵だからって手加減すんなよ」
「は、はい!」

 どうやらジャジィの部下のようだ。
『星導者』にもなると部隊の隊長を任され、その部下と共に魔物と戦うのだ。
 と、なるとレントはいるはずのマリアさんを探すことにした。レントはジャジィとマリアには以前会ったことがあり、命の恩人なのだ。
 見かけたら挨拶くらいはしておきたい。

「あれ? 居ないな……。まぁどこかで会うよな」

 レントは再び舞台へと目を戻した。

「彼らの後に出るのは少し申し訳ない! 妖精族のチームだぁぁぁ!」
「彼らは『ティターニア』とチーム名を名乗っている。その小柄な身体でどれほどのことが出来るのか楽しみだな」
 
 ナイヤが興奮気味で伝えきれてないところをジャジィが補足する。
 実況解説になるだけあってそれなりに相性はいいみたいだ。

「折り返しの5チーム目! 魔術学校からの刺客その2! 異端と言われる魔術士と至高と呼ばれる姉弟のチームだ! 今回はどんな戦いを見せてくれるのかぁ!? チーム『シャドウ』」
「お、レントが居るのか。一声かければよかったな」

 レントはジャジィと目が合うと軽く会釈をして舞台へと上がった。
 観客席には何千もの人が集まっており、その視線が全てレント達に向かってると思うとすごく緊張する。
 これからこの中で戦うのかと思うと戦慄さえしてしまう。

「レント」
「緊張してるのかい?」

 ミラとリンシアがレントの心配をしているが、彼らも少し震えているように感じた。

「そっちこそ」

 ……プッ。
 3人は同じようなものだと知り途端に笑いが飛び出た。

「僕達はこうじゃないとね」
「楽しいのが1番」
「そうだね」

 舞台へ上がると呼ばれた順に並んでいるようで、レント達もそれに倣うように並ぶ。

「さぁて次はこいつらだぁ! この街に歩いて半年以上かかる場所からの挑戦者だ! 彼らこそ龍神族! その身を龍に変えて天を羽ばたくその姿は神々しさすら感じます! 彼らはこの狭い舞台でどんな戦いをしてくれるのでしょうか! チーム『ドラグニティカ』!」
「ふんっ。解説を盛りおって……」
「まぁまぁ、長老いいじゃないすか。あんまり俺たちの事知ってる人も居ないんすよ?」

「それもそうじゃの」と長老と呼ばれた龍神族は舞台に上がるとそれに続くように2人も並ぶ。

「あれが龍神族?」
「おじいさんがいるぞ!」
「立派なお髭ね」

 その長老と呼ばれたおじいさんはレントの方くらいの身長だろうか。その口元からは足先にまで続く髭が伸ばされていた。
 いかにも長老って感じだ。

「お主がレントか?」
「えっ? あっ、はい」
「ふむ、よぅわからん気配をしておるものじゃ」

 長老さんに話しかけられたレントは元の緊張もさることながら、いきなりだったこともありテンパってしまった。

「では続いての選手は彼らだ! 傭兵ギルドきっての腕を持つとされる男三人衆! そのむさくるしさは全チームで1番でしょう! チーム『マッソウ』」
「筋肉こそ力だよ愚弟達もよ」
「わかってるぜ兄者よ」
「今日の筋肉も調子がいいぜ」

 まさに筋肉ダルマといって差し支えないだろう。筋肉の塊とも思えるその人たちはいかにもパワー系の見た目をしている上にテカっている。
 太陽光の反射でああもなるものだろうか。

「少し眩しいね……近いからかな?」
「暑苦しい」

 ミラとリンシアは各々の感想を言っている。
 レントも概ねその認識だ。

「最後は彼らだ! その狂気に駆られるのは相手か、もしくは自分自身なのか!? いろいろ正体不明なチームの参戦だ! その名の通り大会に破滅を呼び起こしてしまのか!? チーム『アポカリプス』!」
「怪しいことこの上ないな」

 ジャジィの身も蓋もない解説は置いておいて、これで全部のチームが集まったようだ。

 巨人族
 先輩チーム
 魔術士団
 妖精族
 レント達
 龍神族
 筋肉
 正体不明

 多種多様な種族と装備を身につけ、今か今かと戦闘を楽しみにしているものばかりだ。
 特に筋肉達のチームと正体不明チームがその筆頭だ。

「早くこの筋肉を喜ばせてくれたまえ!」
「ヒィーーーハハハハハァ!」

「!?」とレントがその声に反応した。
 どこかで聞き覚えのある声だった。

「この声って……」
「ガゼル……だろうね」

 ミラがそう答えてくれた。
 そう、昨日レントは彼の情報を手に入れるために傭兵ギルドに向かったのだ。
 ガゼルが出てきたならより濃厚かもしれない、とレントは気を引きしめた。

「選手紹介はこの辺にしておきましょう! それでは対戦組み合わせの発表だ!」
「発表は俺から言わせて貰うぞ。舞台上の看板を見てくれ、そこに書いてあるとおりだ。観客達は見えねぇだろうからこちらで口頭で言わせていただく」

 レントはそう言われ目の前の看板に張り出された紙を凝視した。
 とりあえず正体不明の奴らと初っ端から当たるのは避けたいところだ。

「第1回戦 ギガントvsマッソウ」

「俺たちの相手はあのデカブツか!」
「筋肉が鳴るぜ……」

「小さいけど力はありそうだ」
「守りは任せろ」

 それぞれが既に戦いそうな空気を醸し出していた。

「待て待て、まだ発表中だ。後にしろ。第2回戦はティターニアvsシャドウ!」

「レントさん。最初からですね」
「あぁ、いい勝負にしよう」

 予選で出会った妖精族プラティと約束を交わして看板に目を戻す。

「第3回戦はアポカリプスvsドラグニティカ! この組み合わせ狙ってんのか?」
「いえいえジャジィさん。無作為に選んだものに狙うもクソもないですよ」 
「それもそうか」

「ヒャァーーハハッ! 俺の相手は爺、お前か!」
「ふんっ、礼儀のなってない小僧だ」
「こればかりは俺も何も言えねっすよ長老……」

 アポカリプス……あいつらは『裏ギルド』の組員だ。それ相応の力もあるし……なにより厄介事を企ててるようだし気をつけて欲しいものだ。

「第4回戦は残りだな。りぶらすけいるvsジンライだ」

「うおおお! 初っ端から魔術士団かよぉ!? 嬉しいやら困ったことになったやら反応にこまるぜ……」
「お手柔らかに頼みます」

 コウの代わりに挨拶を交わしたのはいつもコウと一緒にいる親友らしい。
 名前は……なんだったか。

「彼はクライス先輩だよ。コウ先輩と同じく雷魔術が得意な先輩さ」
「へぇ、それならもう1人も雷を使いそうだな」

 属性を纏めるということは1つの弱点で全滅になる可能性もあるが、その代わりに同調して火力が上がる。それを利用したのだろう。
 雷魔術は速さには長けているが火力は強くもなければ弱くもないのだ。

「とはいえ、この星最強と言われる魔術士との戦いかぁ、羨ましいとも言えるし自分じゃなくて良かったとも思えるね」
「戦うにはまだ早い」

 格上の相手だ。間違いなく情報を仕入れたから戦いたいところだとレントは考えていると実況の先導により舞台からみんな降りていく。

「あっ、ちょまって」

 レントも慌てて降りていった。


 さて、賑やかに始まった選抜大会本戦。
 喧騒の渦の最中の観客達に訪れるのは冷めやらぬ興奮か
 はたまた、




 ────恐怖に染まるのか



 それは大会が始まってから分かることである。
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