無敵の【着火】マン ~出来損ないと魔導伯爵家を追放された私なんだが、しかたがないので唯一の攻撃魔法【着火】で迷宮都市で成り上がる~

川獺右端

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幕間: ざまぁ①

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 メルリガン王国の首都、メルリガルドの中心に壮麗な王城がそびえ立っていた。
 デズモンド家の当主ファースと次代の嫡子となったビオランテは馬車から降りて王宮の中へ入って行く。

「父上、今日はリネット第二王女さま御主催の舞踏会なのですね」
「そうだ、リネット王女より直々に我が家にご招待状を頂いた。王女様はありがたくもデズモンド家をおそばに置きたいらしい」
「それは素晴らしいですね、日頃の父上のご活躍の賜物たまものと思います」
「魔導の武家らしく、重厚で頼りになる所を印象づけるがいい、ひょっとすれば、王家へ婿むことして入る事も考えられる」
「そ、それは実現すれば素晴らしい事ですな」
「そうだ、あの軟弱なマレンツには望め無い可能性であったが、ビオランテ、お前ならばきっと」

 ファースとビオランテは期待に胸を熱くしながら、きらびやかな廊下を歩いていく。
 重厚な戸が開くと音楽と話し声がわあっと二人を包み込んだ。

「盛会だな」
「さすがは王家です、華やかですばらしい規模の舞踏会ですね」

 従官がデズモンド家の来訪を不思議な節回しで会場へと伝える。
 綺羅星きらぼしのような貴族の令嬢や令息の顔が、一斉にデズモンド家の二人の方へ向いた。

 そして、あれっという顔を一斉に浮かべた。

 齢十五の小柄なリネット第二王女が光輝くような金髪を揺らし人をかき分けるようにして列の前に出てきた。

「これはこれはデズモンド魔導伯、わざわざ王都におし頂き……」

 そして、リネット王女は誰かを探すように視線をさまよわせたあと、あれっという顔をした。

「これはこれはリネット王女さま、ご尊顔そんがんはいたてまつりこのファース・デズモンド光栄のいたりでございます」
「なんとお美しい、わたくしはビオランテ・デズモンドと申します、お見知りおきを」

 楽隊の音楽が止まり、リネット王女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で沈黙した。

「あの?」
「はい、何でしょうか王女さま」
御嫡男ごちゃくなんのマレンツさまはいずこに?」
「は?」
「は?」

 三人とも押し黙った。

「な、なぜリネット王女さまが我が愚息ぐそくの名前を?」
「高名な方ですから、一目お会いしようとデズモンドさまにご招待状をお出ししたのですけれども……」
「「えっ?」」
「お加減が……、いえ、マレンツさまは社交にあまり興味が無いと有名でしたわね」
「そ、その……、マレンツは廃嫡はいちゃくいたしました、今はこのビオランテが次期当主となります、頼りになる魔導騎士なので、是非ぜひお引き立てを……」
「は?」
「わ、私は、魔術属性を三属性扱え、四階層までの魔術を発動できますぞっ」
「は? 何をおっしゃられているのですか? アセット魔法で三属性、四階層はたしかに素晴らしい素養そようですが……、そんな物のためにマレンツさまを廃嫡はいちゃく、ですか?」

 自慢の魔法階層をそんな物と言われて、デズモンド家の二人は脂汗あぶらあせをだらだら流した。
 彼らには、マレンツが魔法研究でそれほどの高名を打ち立てていたとは知るよしも無い事であった。
 これはマレンツ自身の、自分の功績を声高に誇りたくないというつつましやかな性格が原因でもあったので一概にファース魔導伯を責める訳にはいくまい。

「お、恐れながら、愚息マレンツは大学でやくたいもない小さい魔法とやらに傾倒けいとうし魔導騎士としての攻撃魔法の研鑽けんさんを忘れ、庶民どものご機嫌をとっていただけの詐欺師同然の浅ましい男ですぞっ!」
「まあ」
「そ、そうですぞ王女さま、魔導騎士にとって大事なのは戦場での攻撃魔法働きでございます、民の生活なぞ、武力の後でございますぞ」
「まあ」

 リネット王女は扇で口元を隠し、目付きをけわしくした。

「マレンツさまは今、どこにおられるのですか?」
「さ、さあ、着の身着のまま追放しましたので、どこに行ったのかは……」

 会場が一斉にざわついた。

「ちょっと待て、デズモンド伯はマレンツ卿の行ったデズモンド領の奇跡と言われた食糧大増産を知らないのか?」
「馬鹿な、近代魔導反射炉を開発して高品質の武器を生産した立役者を追放だと?」
「舞踏会などやっている場合か、早馬を出しマレンツ卿の足取りを追うぞ、家令かれい、いや副城代ふくじょうだいとして来ていただければ我が領も大発展するぞ!」

 リネット王女が振り返った。
 まずい、という表情が浮かぶ。

「ゴンザレスッ! 諜報部隊にマレンツさまの足取りを追わせなさいっ、良い機会だわ、彼を必ず王家に取り込むのよっ!」
「かしこまりましたリネット王女さま」

 ただならぬ雰囲気の執事しつじが深々と頭を下げた。
 身なりの良い貴族の青年たちが王女への挨拶もそこそこに会場を飛び出していく。

 デズモンド家の二人は目を白黒させていた。

「い、いったい、どういう事なのでしょうか……」
「ん? そうですね、今、王国では小さな魔法が流行っているのです。今日の集いは基本的にマレンツさまとお近づきになりたい皆様が集まっていましたのよ」

 王宮の大ホールを埋めつくさんばかりの貴族たちは皆退去たいきょし、がらんとした空間にダンス音楽が寂しく響いていた。

「それでは私も失礼いたしますわ。ごきげんよう」

 リネット王女はパタパタと扇を振りながら退室していった。

「父上……」
「なんなのだ……、あんな下らない魔法が……、流行っているだと? マレンツはいったい何をしたのだ……」
「なにか詐欺の匂いがします。おおかた沢山の方に大嘘を吹きまわりだましていたのでしょう。卑劣漢ひれつかんのマレンツがやりそうな事です」
「そ、そうだな、あいつは頭だけは回る奴だったから……」

 誰もいなくなった王城の大ホールからデズモンド親子は肩を落として退出した。

 デズモンド家がマレンツを追放した、と王国中に知れ渡ったのはその夜の事であった。
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