婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます!

如月みつき

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「お客様、いらっしゃいませ。どのようなドレスをお探しですか?」

服飾店でのアルバイトに慣れ始めたセルフィーナは、接客にも少しずつ携わるようになった。  
最初は緊張して何もできなかったが、ミリアやほかのスタッフの見よう見まねで学んでいる。

「こういう淡い色合いはいかがでしょう。最近はシンプルなラインも人気ですよ。」

貴族時代の経験でドレスの美しさには一家言ある。  
それを押し付けがましくなく、さりげなく提案できるようになりたい。

「すごいわ、セルフィーナ。接客の才能があるかも。」

後ろで見守っていたミリアが笑顔でそう言う。  
セルフィーナは照れながら頬を染めた。

「まだまだですよ。でも……お客様が嬉しそうに試着してくれると、私も嬉しくなるんです。」

今までは人を喜ばせるためではなく、自分が目立つために着飾っていた。  
その違いを思い知らされる日々だ。

「よし、じゃあ次は縫製室でちょっと手伝ってくれる?」

ミリアに呼ばれ、店の奥へ。  
そこには裁断台やミシン、大小さまざまな道具が所狭しと並んでいる。

「これは……お客様の注文品ですか?」

色とりどりの生地が束ねられており、その一部を見ているだけで心が踊る。

「そう。形は決まってるんだけど、仕上げを急いでいてね。セルフィーナにも少し縫いを頼みたいの。」

大丈夫? と問いかける目に、セルフィーナは力強くうなずいた。

「もちろん、やらせてください。まだ未熟ですけど、全力で頑張ります。」

ミシンを踏む足元が少し心配だったが、何度か実習を繰り返すうちに手順を覚えた。  
ときどき手縫いを挟みながら、黙々と作業を進める。

「これが独り立ちするってことなんだ……」

以前の自分なら考えられなかった、地道な努力。  
だけど、ここには達成感がある。  
ちょっとした縫い目が綺麗に仕上がったときの喜びは、自分を成長させてくれる。

「大変だけど……嫌じゃない。」

仕事は厳しい。立ち仕事で足はパンパン、指先には針の跡。  
それでも、店の人たちと一緒に何かを作っている実感がうれしい。

「私、ちゃんと働けてるんだ……」

ふと、父の怒りを買った日のことを思い出す。  
あのときは絶望の淵だったけれど、この道が自分にとって間違いではないのかもしれないと感じ始めていた。

「よし……あともう少しで仕上げね。」

周囲が暗くなるころ、ようやく一段落する。  
疲労はあるが、そのぶん得られる充実感は大きい。

「ほんと、助かったわ。おかげで納期に間に合いそう。」

ミリアがセルフィーナの肩をポンと叩いてくれる。  
そのやさしい笑顔に、思わず涙がにじむ。

「いえ、私のほうこそ……学ばせてもらってます。」

こうして、セルフィーナは毎日少しずつ仕事を覚え、努力を重ねていく。  
時折、指先の傷を見ては痛みを感じるが、それすら今の自分の頑張りの証だと思える。  
そうやって独り立ちの道を着実に歩んでいた。
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