婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます!

如月みつき

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「ええと……アルバイト募集、と。」

セルフィーナは下町の商店街を歩きながら、一軒の服飾店の張り紙を見つめる。  
縫製の経験が多少ある人を募集していると書かれていた。

「とはいえ、私なんか……まだまだ初心者だし……でも、少しはできるようになったかも。」

自分の腕前に自信はないが、行動しなければ先に進めない。  
セルフィーナは意を決して店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ……あら、見ない顔ね。」

中で出迎えたのは優しげな女性。  
彼女の名前はミリアというらしい。オーナーの代理で店を見ているとのことだ。

「ここでアルバイトを募集していると聞いて……私、まだ未熟なんですけど、裁縫を勉強していて……」

ありのままを正直に打ち明ける。  
すると、ミリアはセルフィーナの手をそっと取り、優しく微笑んだ。

「いいわよ。経験は浅くても、やる気があれば大歓迎。うちは小さなお店だから、助けてもらえると嬉しいわ。」

拍子抜けするほどの快諾に、セルフィーナは目を丸くする。  
すぐに面接らしい面接も始まり、基本的なやり取りを終えると、その場で採用が決まった。

「ありがとうございます、ミリアさん。私、本当に頑張ります。」

ミリアは首を振りながら言う。

「そんなに気負わなくて大丈夫。最初は簡単な下準備や掃除から手伝ってもらうわね。」

こうして、服飾店でのアルバイトが決まったセルフィーナは、翌日から慌ただしい日々を送ることになる。

「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」

朝早く店に入ると、まずは店頭の掃除。そして、生地の整理や、小物の在庫チェックなど雑用が山ほどある。

「ええと、この布はどこに置いたら……?」

戸惑いながら聞くと、ミリアが優しく指示を出してくれる。

「それは窓際のラックに。日光で色落ちしにくい生地だから、そこに置くの。」

一つひとつ学びながら、セルフィーナは懸命に動き回る。  
午後になると、小さな縫製作業も任される。

「この裾上げ、私がやっていいんですか?」

恐る恐る尋ねると、ミリアは笑顔でうなずく。

「ええ、もちろん。裾の長さはお客様が指定してるから、寸法通りにきちんと縫ってね。大丈夫、私も後でチェックするから。」

励まされながら針を進める。  
慣れない環境で手は震えるが、実際の仕事の手応えを感じると集中力が増す。

「意外と……私でもできるかも。」

少しずつだが、一人前に近づいている気がした。  
もちろん、まだまだ改善点は多い。  
たまに失敗してはミリアに助けられてばかり。

「ありがとう、ミリアさん。私、本当にあなたがいてくれて助かってます。」

仕事終わりにお礼を言うと、ミリアはさらりと返す。

「何を言ってるの。私も忙しいから手が回らなかったところをセルフィーナちゃんがカバーしてくれてるのよ。これからもよろしくね。」

そう言われて胸が温かくなる。  
下町に来てから、こんな風に認められる機会などなかったからこそ、嬉しさがひとしおだった。

「こちらこそ……よろしくお願いします。」

こうして、セルフィーナは服飾店で働きながら、実地で技術を磨いていくことになった。  
新たな環境で得るものは多い。  
それは、彼女がかつて知らなかった“働く喜び”でもあった。
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