婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます!

如月みつき

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「セルフィーナ、このデザイン素敵! お客さんに提案したら喜んでくれそうよ。」

エリザの声が店内に響く。  
開店から少し時間が経ち、今ではセルフィーナ・デザインは下町で知る人ぞ知る人気店となっていた。

「そう? ちょっと革新的かなと思ったけど、挑戦してみようか。」

新しい形の服を考案し、試作品を作ってはエリザやミリアと一緒に改良を加える日々。  
忙しいがやりがいに満ちている。

「リアン、そこにある生地ちょっと運んでくれる?」

店の奥で縫製をしていたセルフィーナが声をかけると、リアンは面倒くさそうな顔をしつつも、ちゃんと手伝ってくれる。  
相変わらず不器用だが、彼の支えがあるだけで重労働も苦ではない。

「こりゃまた大量だな。怪我すんなよ。」

ぶっきらぼうに言うリアンに、セルフィーナは微笑む。

「分かってるわ。ありがとう。」

心強い仲間と共に過ぎる毎日は、あっという間だ。  
やがて作業がひと段落した後、セルフィーナはリアンと二人で店の外に出て、夕暮れを眺める。

「この店がこんなに繁盛するなんて、最初は想像もできなかったけど……今はもう私の全てだわ。」

リアンがそっと肩を寄せる。  
その温もりに包まれながら、セルフィーナはふと未来を思い描く。

「私……あなたと、いつか正式に一緒になれるといいな。なんて思ってるの。いけないかしら。」

予想通りリアンは顔を赤らめ、目をそらす。

「別に、いけなくはねえけど……ちょっと照れるな、そういうのは。」

その反応にセルフィーナはくすりと笑う。  
二人の未来を想像すると、どうしようもないくらい幸せが込み上げてくる。

「ごめんね、私ばっかり急いで。でも……この店をもっと大きくしたいし、あなたともずっと一緒にいたいの。」

リアンは「勝手にしろよ」と照れ隠しに吐き捨てるが、その瞳は優しく緩んでいる。

「ま、俺も店がこれだけ繁盛してりゃ助けがいがあるしな。おまえの夢、最後まで付き合ってやるよ。」

その言葉が何よりの安心感を与えてくれる。  
セルフィーナは遠くの夕焼けを見ながら、自分の胸に手を当てる。

「私、悪役令嬢なんて呼ばれていたけど……もうそんな過去は関係ない。自分の足でしっかり立って、自分が作った服で誰かを笑顔にできる。それが私の幸せ。」

隣にいるリアンは穏やかな顔で頷く。  
過去の痛みや失敗さえも、今を輝かせる糧になっている。  
もしあのまま何も変わらず貴族生活を続けていたら、この景色を知ることはなかっただろう。

「あなたといることが、私の本当の幸せ。」

静かな夕暮れの風に乗せて、セルフィーナはそう告げる。  
リアンは少しだけ照れながらも、ゆっくりと頷いてみせた。

「そっか……なら、俺も悪くないな。」

こうして、元“悪役令嬢”は自分の足で人生を切り開き、新たな道を歩む。  
最後に手に入れた真実の幸せは、決して絢爛豪華ではないが、心の底から満たされる喜びだった。  
明日もまた、彼女は誰かのために服を縫い、笑顔を織り上げていくだろう。

「さあ……帰ろう。明日も忙しくなるわよ。」

そう言い合いながら、リアンとともに店の扉を閉めるセルフィーナ。  
夕暮れの光が、その背中を優しく照らしていた。
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