婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます！

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「クラヴィス様が来てくれたとき、少しドキッとしたわ。昔の私なら泣き叫んだかもしれないけど、今は違うのね。」

仕事終わりの店の片隅、リアンと二人になってセルフィーナはしみじみと話す。  
店の灯りを落とした後、テーブルの上にはほのかなランプが揺れている。

「そりゃ、昔のままじゃねえからな。おまえ、ほんと変わったよ。」

リアンの声には誇らしげな響きがある。  
セルフィーナは膝の上に手を置き、彼を見つめる。

「もし、私が変わってなかったら、あなたともこうして一緒にいなかったかも。こうして頼ることもできずに、ただ孤独を感じてたに違いないわ。」

リアンは少し目線をそらし、気まずそうに鼻をすすり上げる。

「……あんま褒めても何も出ねえぞ。俺も別に大したことしちゃいねえし。」

その態度が可愛く思えて、セルフィーナは小さく笑う。  
命よりも大事だと思える相手を見つけた――あのときの言葉が蘇る。

「でも、あなたがいてくれるだけで心強い。私は一度すべてを失ったけど、今は店と……あなたがいるから、もう怖くないの。」

素直に本音を語ると、リアンは照れながらも微笑んだ。

「俺はそんなんじゃねえけど、少なくともおまえが困ってたら放っておけないくらいには好きだよ。」

その言葉に、セルフィーナの顔が一瞬赤くなる。  
ケンカばかりしながらも、今はちゃんとお互いを思い合っていると確信できる。

「ねえ……私たち、この先も一緒にいるのかな。」

ふと出た質問に、リアンは少し考えるような仕草を見せる。

「分からねえけど……俺はもう、おまえから離れるつもりはないよ。店が落ち着いて、余裕ができたら……もっといろんなことを考えたい。」

曖昧な言い方だけど、それがリアンなりの真剣な答えなのだと分かる。  
セルフィーナは安堵と嬉しさを抱きながら、そっとリアンの手に自分の手を重ねた。

「私も……あなたのそばにいたい。昔のように孤独で震える日々はもう嫌だし、あなたといればケンカしても乗り越えられる気がする。」

過去を乗り越えた今、未来への期待がふくらむ。  
互いの不器用さや影を理解し合いながら、それでも手を取り合っていくのだ。

「おまえが幸せなら……それでいいんだよ。」

リアンが小さく呟く。  
その言葉はかつてのクラヴィスの支配的な愛とは違い、自由で温かい。  
セルフィーナは胸の奥に広がる幸福を感じながら、微笑みを返した。