婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます！

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「ところで、君の制作したお洋服を頂けないかい？」

クラヴィスが思わぬ言葉を口にする。  
セルフィーナは驚いたように目を見開いた。

「私の服……？ いいの？」

かつて貴族階級にいた彼が、下町の小さな店で作られた服を求めるとは想像していなかった。  
クラヴィスは真剣な表情で頷く。

「俺の子どもに着せたいんだ。君の手がけた服なら、きっとあの子も気に入ると思う。」

セルフィーナは嬉しさに胸をときめかせながら答える。

「よろこんで……もちろん贈らせていただくわ。大したものではないけれど、心を込めて作るから。」

昔の自分なら、豪華で高価な布をふんだんに使ったドレスしか思い浮かばなかったかもしれない。  
今は違う。子どもが動きやすく、肌に優しい服を作ることこそ、彼女の新たな得意分野だ。

「ありがとう。娘が喜ぶ顔が目に浮かぶよ。」

クラヴィスは穏やかに笑い、セルフィーナに向かって一礼する。  
この光景を見ていたリアンは、少し離れた場所からじっと二人を見つめているが、どこかほっとしているようでもあった。

「また改めて取りに来るから、そのときはよろしく頼む。」

最後にクラヴィスはそう言い残し、店を出ていく。  
あの背筋は、過去に彼女が憧れた姿のまま。  
けれど今、その背中に自分はついて行かない。  
そこにはもう、互いに違う人生があるからだ。

「私、ちゃんと前に進めたんだ……」

そう呟いて後ろを振り返ると、リアンが照れくさそうな顔をして立っていた。  
無言のまま肩をすくめる彼に、セルフィーナは微笑んで歩み寄る。

「ねえ、リアン。あなたに知ってほしかったの。私の過去がどうなって、今こうして生きてるかを。」

リアンは短く「ふうん」と鼻を鳴らすが、その眼差しは優しい。

「俺に隠すなよ。何でも話してくれりゃいいんだからさ。」

ぶっきらぼうな口調に慣れたセルフィーナは笑みを深める。  
クラヴィスとの和解も、リアンの存在があったからこそ踏み出せた気がした。

「本当に……ありがとう。これからも、私のそばにいてくれる？」

ぽつりと漏らした言葉に、リアンは顔を赤らめながら小さく頷く。  
その反応だけで、セルフィーナの胸はいっぱいになる。

「よろこんで……」

ささやくように答える彼の声は、何よりも頼もしく感じられた。  
新しい道を歩むセルフィーナにとって、これ以上ない“応援”がそこにある。