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第三章 エルフの森

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 ボアモルチの西の山
 アルカンタラとミルリーフはエルフの森に向け、山越えをしていた。

「ふぅ、すごい森ね……もはやジャングルだわ」
「はぁはぁはぁ……ああ、相変わらずキツい山だ……」肩で息をするアルカンタラ。

 二人は木々がうっそうと生い茂る、あたり一面、緑に覆われた山中を西へと進む。

 ミルリーフは初めての、アルカンタラにとっては100年ぶり2度目のエルフの森に行くためには避けて通れない山だ。


『ガザガサ……』
「はぁ、また来たか……」

 二人をめがけ、茂みからヘビが飛び出す。人な腕ほどの太さのある立派なヘビだ。もうこの山に来て何度目かの光景だ。
 アルカンタラはそのヘビを指差し、細いビームのようにヘビを撃ち抜く。

「いいわね、小さい衝撃波も出せるのね」ミルリーフが言う。
「ああ、ヘビが出るたびに森を吹き飛ばしてたら、山の形が変わっちまうよ」

 モンスターに慣れた2人にとって、多少大きいとはいえ、普通のヘビは飛びまわるハエと何ら変わらなかった。

「まてよ? おいミルリーフ! 今度からヘビはお前がおっぱらえ」
「ええ? いいけど……どうして?」
 ニヤリと笑うアルカンタラにミルリーフは首をかしげる。

「ただし、魔法は禁止だ。使っているのは剣だけだ」
 ミルリーフの腰に下げた剣を指さす。

「剣だけ……? なるほど、剣の修行ってわけね! 望むところよ」

 ミルリーフはポピーの父親から譲り受けた剣を抜く。
 幼い頃、勇者の家系のミルリーフは剣の稽古を受けていた。しかし、実戦で使うとなるとまだ心配な技術だ。

「さあ、どっからでもかかってきなさい!」

『ガザガサ……』
「ん! 来たわねぇ! そりゃ!」
 襲いかかるヘビを輪切りにする。

「お、いいぞ! その調子だ。フフ、これで歩くのがラクになったぜ……」
「……なんか私、利用されてるだけのような気が……」

 ミルリーフが先導し、山を歩く二人。

「懐かしいな、ソーサーやアゼリともこの道を歩いたんだな……」
 100年前、仲間たちと歩いたこの道を、今は子孫のミルリーフと歩いてる不思議さを感じるアルカンタラだった。

「それで……エルフの森はあとどれぐらいで着くのよ? アルカンタラは昔行ったことあるんでしょ?」
 ミルリーフはヘビを斬りながらアルカンタラに視線をやる。

「ああ、もう少しじゃねぇかな? スゲェ分かりづらい道でな、前に通った時は迷いに迷ったから、次に来る時のために目印を残しておいたんだ」

「へぇー、目印ね。それは分かりやすくていいわね。どんな目印なの?」

「ふふふ、それがな、びっくりするくらい綺麗な石を拾ってな、それを目印に置いたんだよ。一目見れば分かると思うんだけどなぁ? おかしいな?」
 アルカンタラは足元をチラチラと眺める。

「い、石……?」
 ミルリーフは顔をしかめる。

「ああ、綺麗な石だぞ! たしかアゼリがその辺の道端で見つけてな、それをソーサーがエルフの森の入り口に置いておこうって! 『ガハハ、そうすれば次くる時も分かるだろ?』ってな。賢いんだぜ! ソーサーは」
 アルカンタラは得意げな笑みを浮かべる。

「……ち、ちなみにソレはどれくらいの大きさの石なの……?」
 ミルリーフの脳裏に嫌な予感がよぎる。

「んー、こんくらいだな? 手のひらに乗るくらいの――」
「アンタねぇ! バッカじゃないの!? 100年前よ!? そんな石ころが今も残ってるわけないでしょうがッ!」
 アルカンタラの話の途中でミルリーフは怒鳴りつける。

「そ、そんな……俺たちの思い出の石なのに……」

「もう! なによ、アルカンタラもおじいちゃん達もみんなバカなんじゃないの……? アンタたち、そんなパーティーでよく魔王を倒せたわね……」
 ミルリーフは頭を抱える。『道は分かるから安心しろよ!』と強気だったアルカンタラを信じた自分が馬鹿だった……と。

『ガザガサ』

「ミ、ミルリーフ……ヘビが来た――来ましたよー……?」気まずそうにボソボソとアルカンタラが言う。
「もう! うっさいわね!」
 ミルリーフがイラつきながら茂みに向かって剣を振り回す。

「ぎゃあぁああ! やめてぇえ!」
 その時、剣を刺した茂みから声が響く。

「え!? な、なによ? ヘビが喋ったの!?」
 突然の叫び声にミルリーフは目を丸くする。
「いや、そんな訳ねぇだろ……!?」

 謎の声に、二人は恐る恐る茂みを覗き込む。
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