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第三章 エルフの森

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 それからというもの、ミルリーフはエルフの女剣士とひたすら木刀での試合を続けた。
 はじめは圧倒的なパワーを誇るミルリーフが押す展開もあったが、何戦と戦ううちに徐々に剣術としての技術の差が浮き彫りになってきた。
 エルフの女剣士はミルリーフの単調な攻撃をしっかりと見切り、圧倒していた。

「ふふふ、甘いぞ、ミルリーフ!」
「ぐっ!」
 何度もミルリーフの体に叩きつけられる木刀。
 軽快なステップ、剣の扱い、フェイントの技術、どれをとってもエルフの女剣士の方が一枚上手だった。

「キサマの馬鹿力はよくわかった。しかし、力だけじゃ勝てんよ。まったく、その程度で暗黒水晶を壊して世界を救おうと思っているなんて、平和ボケもいいとこだな」
 地面に片膝をつくミルリーフを見下ろし女剣士は言う。

「う、うるさいわね」

「ふふ、まあセンスは悪くない。さすが勇者の子孫といったところか。聞いた話じゃ、本来は魔法使いで剣は最近使い始めたんだろ?」

「ええ、そうよ……小さい頃、一通りは習ったけどね」

「ふむ、ならもう一度ちゃんとした剣の師匠を見つけたほうがいいな。お上品な剣の塾ではなくて、実戦の剣術を教えてくれる師匠を」

 ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、自分への剣術についてのアドバイスにミルリーフは驚いた。何度も戦ううちに友情のようななにかが芽生えてきたのかもしれない。

「……ちなみにアンタの師匠はどんな人なのよ?」ミルリーフが尋ねる。

「ああ? 私の師匠か……変な親父の剣士だ。何年かに1度この辺の山にフラッと現れて私たちをボコボコにしていくんだ。エルフの剣士はだいたいその親父に剣術を叩きこまれてるな」

「それって師匠なの……?」

「まあボコボコにしながらも色々と技術を教えてくれるんだ。私たちはそうやって自然と剣の扱いが上手くなっていく。まあ男女含めて私が一番エルフの剣士だがな!」
 女剣士は得意げに自分を指差す。

「今度この森にその師匠が来たら紹介してやるよ。ちょくちょく来るからな」

「それはありがたいわね。最近はいつごろ来られたの?」

「んー? つい最近だよ。7.8年前とか?」

「……さ、最近?」
 人間の寿命の何倍も生きるエルフとの、時間に対する考え方の違いを感じるミルリーフだった。

「変な師匠ね……師匠か……私には誰かいるかしら? 魔法の扱いを教えてくれる人がたくさんいたけど、剣術か……」
 長らく魔法使いだったミルリーフには剣の師匠になりそうな人は思い浮かばなかった。

 それからも二人は何度も模擬試合を続けた。10回中8回はエルフの女剣士が勝つくらいで落ち着いた。

 そして2日後、アムハイナ王国から紫斑病についての返信を持った伝書鳩がエルフの森へ帰ってきた。
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