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TAKE集6
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(NG15シーン TAKE1)
家からの距離と図書館までの距離を考えた。
図書館はすぐそこである。
ここまで来てやっぱり止めて帰ろうというのも何だか癪だ。
歩き出そうとした紗枝の横を黒いハイエースが猛スピードで通り過ぎていった。
「……あれ?」
すぐに戻って来たハイエースの運転席から松田が顔を覗かせる。
「スピード出し過ぎちった」
「安全運転でお願いします」
(NG15シーン TAKE2)
家からの距離と図書館までの距離を考えた。
図書館はすぐそこである。
ここまで来てやっぱり止めて帰ろうというのも何だか癪だ。
歩き出そうとした紗枝の横に後ろから走ってきた黒いハイエースが急停車し、バッとドアが開いたかと思うと大きな手が勢い良く伸びてくる。
それを紗枝はサッと避けた。
腕が空振りしてしまった藤堂が驚きの表情を見せる。
「え」
「あ」
「………」
「……すみません、条件反射で……」
やり直しだね~と運転席の松田だけが呑気に笑っていた。
(NG16シーン TAKE1)
紗枝が動き出したことで母と男が示し合わせたように口を閉じた。
「助けてあげよっか?」
両手で母親の肩を優しく撫でながら言う。
視線だけは冬木へ向けていた。
冬木は眉を顰めてダークグレーの瞳を眇めている。
勿論、紗枝も本当に母やこの男を助けられるとは思っていないし、実の母親と言っても助けたいと願う気持ちは微塵もない。
あるのはただ自分の知りたい疑問だけ。
母から離れた紗枝は今度は煙草を燻らせている冬木の下へ向かう。
殊更ゆっくり歩いてその前に立つとスーツに包まれた左腕に抱き付くように絡んだ。深い仲に見えるよう、わざとらしく擦り寄って甘えてみせると、クッと冬木の笑う声がして頭に大きな掌が乗る。
それは左の耳朶に触れ、頬を包み込むように伝い、顎を持ち上げられる。
屈んで右の首筋に顔を埋めてくる冬木の吐息のくすぐったさに思わず肩を竦めてしまう。
「おかあさん、わたしの質問にきちんと答えてくれるなら助けてもらえるようこの人にお願いしてあげてもいいよ――……ぎゃっ?!」
顔を上げかけた冬木に紗枝が悲鳴を上げた。
見ると顔を赤くした紗枝が右耳を押さえている。
「なんで耳舐めたんですか!」
「舐めてねえ、噛んだだけだ」
「なお悪い!」
ぎゃいぎゃい騒ぐ紗枝に楽しげな冬木を見て新見は内心で思う。
あれは好きな子ほどからかいたくなる性質の悪いタイプだ、と。
「誘ったのはソッチだ」
「そういうストーリーだからです!」
(NG16シーン TAKE1)
二回、今度はその手首に振り下ろす。
三回、四回と肘へ向かって金槌を振った。
隣の男が真っ青な顔で声もなくこちらを凝視しているが、女の叫び声が響く度にビクリと体を竦ませ、それでも恐ろしさからか顔を逸らせずに涙している。
左腕が血だらけになる頃には痛みのせいか開けっ放しの口から涎が垂れていた。
一旦止めると気を失ったのか失禁し出す始末である。
慣れない荒事に肩で息をしながら紗枝は工具を手離した。
全力で握り締め、振り回した手が震えていて、そのせいで重たい金槌を取り落としたといった方が正しいかもしれない。
また両手で顔を覆った。
「……腕痛い……」
ぷるぷる震えるそれに全員が一瞬動きを止めた。
明らかに重い物なんて持てなさそうな紗枝の腕だ。
あんな大きな肉叩き用ハンマーなど何度も振り回せばそうなるだろう。
「ちょっと見せてみろ」
近寄って来た冬木に紗枝は素直に両腕を差し出した。
震える腕を確かめた冬木が溜め息混じりに言う。
「これじゃあ明日筋肉痛で痛えかもなあ」
「本当(マジ)ですか」
「おう、本当本当」
湿布を貼りながら、紗枝はもう少し筋肉をつけようと思った。
(NG19シーン TAKE END)
「一つだけ条件があります」
でもほんの少しだけ身内には優しい人達。
「わたしを殺す時は苦しまないようにしてください」
「……ああ、テメェは一思いに殺してやるよ」
苦笑交じりに言われた言葉が胸の内に沁みていく。
窓から差し込む夕焼けで、わたし達は遠い昔と同じ橙色に染まっていた。
「カット!」
「撮影お疲れ様でした」
監督の声に紗枝はホッと胸を撫で下ろした。
長いようで短かった撮影が無事終わったことで安心する。
椅子にぐったりと身を預ける紗枝に新見が告げる。
「そういえばTAKEシーンも公開するそうですよ」
「えっ? 何それ聞いてません」
振り向いた紗枝に監督が良い笑顔を向けた。
「いやあ、コレ見たいって人が結構いたから」
「視聴率狙い?!」
「正確には読者狙いです(キリッ」
「開き直った!」
* * * * * *
主人公:柳川紗枝
ヤクザ1:冬木東吾
ヤクザ2:新見愁
手下1:松田
手下2:藤堂
エキストラ :他手下六名
:被害者四名
:母親役一名
:彼氏役一名
原作 :友人
監督 :早瀬黒絵
提供 :When I was a girl.
皆様、お疲れさまでした。
家からの距離と図書館までの距離を考えた。
図書館はすぐそこである。
ここまで来てやっぱり止めて帰ろうというのも何だか癪だ。
歩き出そうとした紗枝の横を黒いハイエースが猛スピードで通り過ぎていった。
「……あれ?」
すぐに戻って来たハイエースの運転席から松田が顔を覗かせる。
「スピード出し過ぎちった」
「安全運転でお願いします」
(NG15シーン TAKE2)
家からの距離と図書館までの距離を考えた。
図書館はすぐそこである。
ここまで来てやっぱり止めて帰ろうというのも何だか癪だ。
歩き出そうとした紗枝の横に後ろから走ってきた黒いハイエースが急停車し、バッとドアが開いたかと思うと大きな手が勢い良く伸びてくる。
それを紗枝はサッと避けた。
腕が空振りしてしまった藤堂が驚きの表情を見せる。
「え」
「あ」
「………」
「……すみません、条件反射で……」
やり直しだね~と運転席の松田だけが呑気に笑っていた。
(NG16シーン TAKE1)
紗枝が動き出したことで母と男が示し合わせたように口を閉じた。
「助けてあげよっか?」
両手で母親の肩を優しく撫でながら言う。
視線だけは冬木へ向けていた。
冬木は眉を顰めてダークグレーの瞳を眇めている。
勿論、紗枝も本当に母やこの男を助けられるとは思っていないし、実の母親と言っても助けたいと願う気持ちは微塵もない。
あるのはただ自分の知りたい疑問だけ。
母から離れた紗枝は今度は煙草を燻らせている冬木の下へ向かう。
殊更ゆっくり歩いてその前に立つとスーツに包まれた左腕に抱き付くように絡んだ。深い仲に見えるよう、わざとらしく擦り寄って甘えてみせると、クッと冬木の笑う声がして頭に大きな掌が乗る。
それは左の耳朶に触れ、頬を包み込むように伝い、顎を持ち上げられる。
屈んで右の首筋に顔を埋めてくる冬木の吐息のくすぐったさに思わず肩を竦めてしまう。
「おかあさん、わたしの質問にきちんと答えてくれるなら助けてもらえるようこの人にお願いしてあげてもいいよ――……ぎゃっ?!」
顔を上げかけた冬木に紗枝が悲鳴を上げた。
見ると顔を赤くした紗枝が右耳を押さえている。
「なんで耳舐めたんですか!」
「舐めてねえ、噛んだだけだ」
「なお悪い!」
ぎゃいぎゃい騒ぐ紗枝に楽しげな冬木を見て新見は内心で思う。
あれは好きな子ほどからかいたくなる性質の悪いタイプだ、と。
「誘ったのはソッチだ」
「そういうストーリーだからです!」
(NG16シーン TAKE1)
二回、今度はその手首に振り下ろす。
三回、四回と肘へ向かって金槌を振った。
隣の男が真っ青な顔で声もなくこちらを凝視しているが、女の叫び声が響く度にビクリと体を竦ませ、それでも恐ろしさからか顔を逸らせずに涙している。
左腕が血だらけになる頃には痛みのせいか開けっ放しの口から涎が垂れていた。
一旦止めると気を失ったのか失禁し出す始末である。
慣れない荒事に肩で息をしながら紗枝は工具を手離した。
全力で握り締め、振り回した手が震えていて、そのせいで重たい金槌を取り落としたといった方が正しいかもしれない。
また両手で顔を覆った。
「……腕痛い……」
ぷるぷる震えるそれに全員が一瞬動きを止めた。
明らかに重い物なんて持てなさそうな紗枝の腕だ。
あんな大きな肉叩き用ハンマーなど何度も振り回せばそうなるだろう。
「ちょっと見せてみろ」
近寄って来た冬木に紗枝は素直に両腕を差し出した。
震える腕を確かめた冬木が溜め息混じりに言う。
「これじゃあ明日筋肉痛で痛えかもなあ」
「本当(マジ)ですか」
「おう、本当本当」
湿布を貼りながら、紗枝はもう少し筋肉をつけようと思った。
(NG19シーン TAKE END)
「一つだけ条件があります」
でもほんの少しだけ身内には優しい人達。
「わたしを殺す時は苦しまないようにしてください」
「……ああ、テメェは一思いに殺してやるよ」
苦笑交じりに言われた言葉が胸の内に沁みていく。
窓から差し込む夕焼けで、わたし達は遠い昔と同じ橙色に染まっていた。
「カット!」
「撮影お疲れ様でした」
監督の声に紗枝はホッと胸を撫で下ろした。
長いようで短かった撮影が無事終わったことで安心する。
椅子にぐったりと身を預ける紗枝に新見が告げる。
「そういえばTAKEシーンも公開するそうですよ」
「えっ? 何それ聞いてません」
振り向いた紗枝に監督が良い笑顔を向けた。
「いやあ、コレ見たいって人が結構いたから」
「視聴率狙い?!」
「正確には読者狙いです(キリッ」
「開き直った!」
* * * * * *
主人公:柳川紗枝
ヤクザ1:冬木東吾
ヤクザ2:新見愁
手下1:松田
手下2:藤堂
エキストラ :他手下六名
:被害者四名
:母親役一名
:彼氏役一名
原作 :友人
監督 :早瀬黒絵
提供 :When I was a girl.
皆様、お疲れさまでした。
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