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スマホ
しおりを挟む「ねぇパパ」
「なに?」
「どうしてスマホ買ってくれないの」
「それはパパが貧乏だからさ」
「どうしてパパは貧乏なの」
「パパのパパが貧乏だったからだ」
「グランパのこと?」
「そうだ」
「パパが貧乏だと、僕は貧乏になるの?」
パパは新聞紙を片付けた。
もしかしたら買ってくれるのかも。
外に出る準備をするのかも。
「どうしてスマホが欲しいんだ」
「みんな持ってるもん、スマホ」
「みんなお金持ちなんだな」
「貧乏の子でも持ってるよ」
「じゃあパパは大貧乏だ」
「大貧乏ってなに?」
「世界一貧しいってことさ」
「世界一なんだ、かっこいいね」
「格好は良くないよ」
パパは上着を着た。
パパはサングラスをかけた。
きっと次は車の鍵だ。
「どうしてスマホが欲しいんだ」
「皆持ってるもん」
「皆持ってるから、お前も欲しいのか」
「そうだよ」
「皆が持ってなかったら、欲しくないんだな」
「うーん、そうじゃないかも」
「皆ってのは学校の皆か」
「そうだよ」
「学校に行かない子はスマホを持ってるのかな」
「うーん、持ってるんじゃない?」
「見たことあるのか」
「学校に行ってない子なんていないよ」
「そうか」
パパは靴を履こうとして脱ぐ。
忘れ物をしたみたい。
僕はその後ろを歩く。
「パパ、スマホが欲しいんだ」
「スマホで何をするんだ」
「ゲームとか色々」
「ゲームは沢山あるじゃないか」
「スマホじゃなきゃできないのもあるんだよ」
「それがやりたいのか」
「うん。やりたい」
「スマホのゲームは何が面白いんだ」
「分からない。したことないもん」
「面白くないかもしれないぞ」
「絶対面白いよ。皆楽しそうだもん」
「皆って誰だ」
「もうパパ。皆は学校の皆だよ」
パパがスマホを取り出した。
初めて知った。
パパもスマホを持ってる。
欲しいなぁ。
「パパ、それスマホだよね」
「そうだよ」
「面白い?」
「パパは今面白い顔してるかな?」
「うーん、あんまり。笑ってないし」
「パパはいつ笑うのかな」
「えっとね、ママがいるとき」
「その通りだ」
「ねぇパパ、何でスマホ持ってるの」
「持ってないよ」
「持ってるじゃん」
「持たされてるんだ」
「パパのじゃないの?」
「パパのだよ。パパ以外使えないよ」
「ふーん。変なの」
パパは財布をコートにしまった。
カーテンを閉めて、また玄関に向かう。
「ねぇパパ」
「なんだい」
「僕スマホが欲しいよ」
「ホントに?」
「うん」
「スマホが欲しいのか?」
「うん......」
「スマホがないとダメか」
「ダメ」
「じゃ、パパはダメ人間だな」
「どういうこと?」
「パパはね、スマホなんていらない」
「じゃ僕に頂戴」
「これはパパのだからダメだよ」
「じゃあ僕のスマホ買ってよ」
「買って欲しいのか、スマホを」
「うん」
「そうか。ママを呼んできてくれ」
「どうして?」
「いいから、ママを呼ぶんだ」
ダメだよ。
呼んだらダメだよ。
「やだ」
「ママを呼んでくれないか。パパのお願いだ」
「やだよ。ママは呼びたくないよ」
「じゃあパパが呼ぼう」
「やめて」
「どうして?」
「ねぇパパ、僕スマホいらないよ」
「そうか」
「パパ、僕スマホいらないってば」
「分かったよ」
「スマホいらないから、ママ呼ばないで!」
「ママママうるさいわね。どうしたの?」
ママだ。
ママが来た。
終わった。
「ママ、おはよう」
「おはよう、パパ」
「で、どうしたの」
「スマホが欲しいってさ」
「パパ嫌い!パパ、バカじゃん!」
「ふーん、スマホが欲しいんだ」
「ママあとは任せたよ」
「はーい、ゆっくり休んでね」
「パパ、僕いらないよ!スマホいらない」
「ねぇスマホ欲しいの?」
「いらない」
「欲しいんでしょ」
「いらない」
ママが近寄ってきた。
ママの足音だ。
背中から聞こえた。
そしてパパのドアの閉まる音。
「スマホ、欲しいの?」
「知らない」
「なんで欲しいの」
「言わない」
「やっぱ、欲しいんだ」
「...うん」
「どうしても?」
「......」
「ママが買ってあげる」
「え?」
「スマホ、買ってあげるよ」
「本当に?」
「何個ほしいの」
「一個!」
「えー、百個ぐらい買えちゃうよ」
「一個、一個だけ!」
「百個じゃなきゃ買わない」
ママこわい。
一個でいいのに。
皆一個しか持ってないのに。
百個もいらないよ。
「じゃあ百個」
「じゃあ?」
「スマホ百個欲しいです」
「ふーん。スマホは百個もいらないよ」
「え......」
「無駄でしょ、百個あっても」
「う、うん。僕一個がいいんだ」
「一個がいいんだ!?」
ママが髪の毛を掴む。
痛い。
とっても痛い。
「ママ、痛いよ」
「ゴメンね。はい、離した」
「うっ......ママ僕もうスマホいらないよ」
「いらないんだ?嘘ついたんだ」
「ついてないよ...」
「しょうがない。一個買ってあげるよ」
「いらないよ。本当にいらない」
「じゃあさ、ママの貸してあげる」
「え?」
「はい、どうぞ」
スマホだ。
わっ、重たい。
硬い。
「どう?」
「スマホだよ。ママ、これスマホ!」
「そうだねー」
「ママ」
「なに?」
「これ本当にスマホ?」
「そうだよ」
画面がピカピカしてる。
音がトンタンなってる。
重い。
「ママ」
「なぁに?」
「なんで笑ってるの」
「さぁねぇ」
「ママ」
「なぁに?」
「これ全然面白くないよ」
「ママもそう思うよ」
「ママ」
「なぁに?」
「これ面白くないよ!」
「そうだねー」
「なんで皆スマホ持ってるの?」
「何でだろうねー」
よくわからない。
本当にわからない。
「ママ」
「なによ、これで最後にしてね」
「うん。最後にする。ママ」
「なぁに?」
「僕スマホいらない」
「いらないの?」
「欲しくない」
「どうして?」
「面白くないもん」
「そっかー」
「ママ!」
「なによ。最後でしょ」
「何で笑ってるの?」
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