公爵夫人は命がけ!

保谷なのめ

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【第2章】迷宮と少女編

10話(67話) 旅支度

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 コンコン、と扉をノックする音が部屋に響く。リディアが「どうぞ」と声をかけると、ミラの開けたドアから入ってきたのはキースだった。



「リディア、役立ちそうなものを持ってきたんだが——」



 防具や薬草、保存食によくわからないものまで、大量の荷物を抱えた彼は、視線を上げてギョッとした表情を浮かべると、すぐに「すまない」と視線を逸らした。



「着替えている途中だとは思わなくて——」

「え? いえ、これは——」

「これはリディア様の冒険用の服です!」



 リディアの代わりに答えたのは仕立て屋のスザンヌ。キースに渋々了承してもらった今回のダンジョン探索は、ドレスではとても動けないだろうからということで、彼女に新しく服を仕立ててもらうことになったのだ。



「冒険用の……」

「だって、ドレスじゃ動けないでしょう?」



 リディアが身に纏っているのは、軽いブラウスに革のベスト、パンツと編み上げのブーツ。いつもドレスを着ているリディアの見慣れない格好と、パンツのピッタリしたラインに、どうやら彼はまだ着替えの途中だと思ったようだ。



「……それで行くのか?」

「どこか変? 軽いし動きやすいんだけど……」



 くるりとその場で一回転して見せるリディアに難しい顔をしたキースは、黙って彼女に近づき、自分の羽織っていたマントを被せた。



「これを羽織っていくといい。これでは少し……軽装すぎるから」

「いいの? ありがとう」 

「おお! さすが領主様! 私もこれからマントを足そうと思っていたんです!」



 スザンヌがこちらにしましょうか、と取り出したマントを取ろうとするリディアを、キースが止める。「俺のマントには防御魔法がかけてあるから、何かあったときに君を守れる」ということらしい。スザンヌはその言葉に目を輝かせ「でしたら絶対そっちの方がいいです!」と笑った。



「あとはいくつかベルトをつけて、装備品を仕舞えるようにしましょう」

「ポケットはつけられる?」

「でしたらこれを!」



 スザンヌはカバンから取り出した、ベルトと一体になったような形状の布をベストのジョイントに装着した。巻きスカートのようなもので、以前ドレスにつけてもらったような隠しポケットもついている。



「少し動きにくくはなると思いますが……」

「これくらいなら平気よ」

「俺もそっちの方がいいと思う」



 スカートにはざっくりとしたスリットが入っていて、これなら足も動かしやすい。キースもなんだか安心した様子だった。



「ご自分でも着られそうですか?」

「これくらいなら全然大丈夫よ」



 ドレスは自分で着るのが難しいが、これなら前世で着ていたのと変わらない。なんならスーツを着るより動きやすいし軽くていいくらいだ。スカートのついているベルトには短剣もつけられるようになっている。鏡で改めて自分の姿をチェックしたリディアの視界に、ふとキースが持ってきた色々な物品たちが目に入った。



「そういえばキース、何を持ってきたの?」

「え? ああ、そうだ」



 スザンヌと共にまじまじとリディアを眺めていたキースは、リディアの問いにハッとして持ってきたものたちをふたたび手に取る。やっぱりかなりの量だ。



「護符に癒しの符、薬草……あとこれは照明石で、こっちが保存食だ」

「すごい量ね……」

「あって損はないだろう」

「そうだけど……」



 それでも、これをすべて仕舞ったら一体どんな大荷物になることか。心配するリディアとまだ何かを取り出そうとしているキースのそばに、ミラが近付いてくる。



「そんなに心配なさらなくても、私が同行しますので……」

「そうよ。大体の怪我や病気ならミラが治せるわ」



 聖女候補であったことを明かしたミラは、今までは軽い怪我や病気を治せる程度の回復魔法しか使えないと言っていたが、実はほとんどのものを治せる程度の力があることも同時にリディアやキースに教えた。公にはできないのでその事実を知っているのはリディアやキース、エドを含めたごく一部だが、彼女は元からリディアのためであればその力を使うことも辞さないつもりだったという。今回の探索に関しても、ミラを連れて行くというのはキースが出した条件の一つだった。



「それはそうだが……」



 それでもキースの心配は尽きないらしい。リディアの出発が決まってから、彼はこうして毎日のようにあれこれ持ってくる。リディアは一歩キースに近付き、その手をとった。



「そんなに心配しなくて大丈夫よ。自分の身は自分で守れるし、アンドレアやミラもいる。かならず無事に帰ってくるから」



 リディアはキースの目をまっすぐ見つめて言った。こうして送り出す不安はリディアにもよくわかるけれど、だからといって行かないという選択は取れないから。できるだけ不安を減らせるように、リディアは「ね?」と語りかけた。キースはぐ、と言葉を飲み込み、ため息を吐いて、それから「じゃあこれだけ」とリディアの手のひらに三つの指輪を載せた。



「綺麗な指輪ね……これは一体?」

「俺の魔力を込めた魔法石がついたものだ」

「魔法石が……」

「これが炎で、こっちが風。そしてこれが氷だ」



 赤色と緑色、そして淡い青色の石の指輪。裏側には文字が彫ってある。微かに魔力の気配がするそれを、リディアは指にはめた。



「それぞれ一回分の魔力が入っている。……必要なときに使ってくれ」



 この世界では、魔力を保存するのは難しく、せいぜい一回か二回分が限界。だからこそリディアはその魔法をもっと多く保存できる素材を求めている。その点で言えば、リディアが持っている緊急避難用のチャームは三回使えるというかなりのレアものだ。職人の腕が良いからなせる業である。

 つまり、キースが使うような自然の力を借りる魔法に関しては、特にその保存が難しく、術者以外が自然を操ることは不可能に等しい。この指輪はその不可能を一部可能にする、相当貴重なものだ。一体どうやって、と問うリディアに、キースは



「あの職人は本当に腕がいいようだな」



 と微かに笑みを浮かべた。

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