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【第2章】迷宮と少女編
69話(126話) 正解
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「ここは——?」
大きな扉。リディアはその扉に覚えがあった。流れ出した聖歌と真紅の絨毯、高らかになるベル。まっすぐに絨毯が伸びた先には祭壇、そして——
「キース」
純白の礼装を着た彼がそこにいる。その姿に安心したのも束の間、リディアはそこで違和感に気が付いた。
「——お進みください」
キースが、こちらを見ていない。それだけじゃない。礼拝堂の中に、人が少なすぎる。
——ミラは? エドもジークも、スザンヌもいない……。
いつだってそばにいてくれるはずのミラがどこにもいない。探さないと、そう思うのに足は動かず、促されるままにリディアは絨毯の上を進む。
「——キース、」
何かがおかしい。リディアはそれをキースに伝えようと口を開いたのだが、キースの返事はない。チラリと目線を向けると、彼は少しもリディアの方を見ていなかった。
「キース……?」
もう一度呼びかけると、彼はやっとリディアの方を見た。——しかし、心底興味の無さそうな冷たい目で。
「……何故君が俺を呼び捨てで呼ぶ?」
「え……?」
それはまるで、初めて会ったあの日のような。背中に冷や汗が流れ、心が凍りついていく。絶対におかしい。……でも何が? 本来の〝リディア〟はこうだったはずじゃない。狂わせたのはリディア自身で、これが正しい世界だ。
——でも。だとしても。
「——ッ、エドは? ミラ、ジー……みんなはどこなの?」
もしもリディアが本来のシナリオをなぞっていたとしても、彼らはいるはずだ。騎士団長、侍女、副騎士団長、そしてキースの師匠として。それが誰一人としてここにいないのはおかしいだろう。リディアが訴えかけると、キースは顔を歪めた。
「……何を言っているんだ」
暗く冷たい瞳のキースが紡いだその後の言葉に、リディアは息を呑む。ずっと恐れていたこと。
「——君が殺したんじゃないか」
「は——」
ふっと、キースの後ろに影が現れる。いくつものそれは、ただ無表情にリディアを見つめていた。責めているような、じっとりとした視線にリディアは追い詰められて後ずさる。
——お前のせいだ。
頭の中にガンガンとそんな言葉が響く。やめて、やめて。リディアは頭を抱えて周りを見回した。礼拝堂の全員がこちらを見ている。リディアは半ばパニックになり、上ずる声で必死に叫んだ。
「——エディット!」
何かがおかしい。こんなの。それを確かめたくて必死にそう叫ぶのに、何も起こらない。キースが怪訝な目でこちらを見ている。
「……何を言っているんだ?」
「おかしい、なんで? 私は魔法を使えるようになったはずなのに、」
「……君は魔法は使えないだろう」
そんなはずはない。あんなに必死に自分の操れる元素を見つけて必死に訓練をして、自分とみんなを守るために新しい術式だって開発したはずなのに。
震える声で防御魔法の呪文を唱えるが、何も起きなかった。気が付くと、リディアの純白のドレスは黒く染まっている。どうして、そう思うと同時にふたたび礼拝堂の鐘が鳴った。入り口の扉が開き、光が差し込む。流れ出す聖歌。攻めるようにリディアを見ていた視線が一気にそちらへと集まった。歩いてくる、純白のドレス姿。割れんばかりの拍手が鳴り響く。
「……アリシア」
そちらへ向いたキースの顔が、それまでの冷たいものから一転して暖かく微笑んだ。純白のドレスの少女のヴェールが上がる。キラキラ光るブロンドヘアーと深いブルーの瞳。
「キース様」
その頬はバラのように赤く染まり、照れて笑う姿はまるで天使そのものだ。誰がどう見てもお似合いの二人。参列者たちがそうヒソヒソと噂している。完璧な光景。
これは、あの物語のフィナーレだ。
二人が近付き、その影が重なる寸前、アリシアがくるっと後ろを振り返った。彼女の顔から表情が消えている。ブルーの瞳はリディアをまっすぐに見つめると、ただ無表情でこう聞いた。
「どうして奪おうとするんですか?」
「え——」
「そこはあなたの場所じゃない。あなたさえいなければ、私は幸せになれたはずなのに」
「アリ——」
リディアが手を伸ばすと、床から伸びて来たイバラの棘がアリシアの身体をがんじがらめにした。彼女の顔が苦痛に歪む。
「私だけじゃないですよ。みんな、あなたがいなければ幸せになれた」
余計なことをしたせいで。ゆらゆらと影が揺れる。キースは「アリシア!」と叫び、リディアを冷たい瞳で見下ろした。心臓が弾けそうなほどの速度で鼓動している。
「お前のせいだ」
脳裏をぐるぐると景色が回る。初めてやってきた日のローゼンブルク家、キースと見て回った街、連れて行ってもらった庭園、そこから見た輝く街の風景。
——ずっと、間違えてた?
「わ、たし……は……」
これまでしてきた選択に、ずっと自信がなかった。これでいいのかわからないままがむしゃらに進んできたけれど、もしそれですべてを壊してしまうのだとしたら? 目の前が暗くなる。ガンガンと頭の中で音が鳴り響いている。
——あれ?
ふと顔を上げる。ガンガンと音を立てているのは頭の中だけではないようだ。閉じている入り口の扉。そこが外から叩かれている。
「嬢ちゃん! おい! 聞こえてるか!」
「——アンドレア?」
アンドレアの声だ。ハッとしてリディアは振り向く。扉の外から、アンドレアの声がする。強い頭痛に、リディアは目を瞑った。ガンガンと叩かれ続ける扉。キース、アリシア、ミラ、エド、ジーク——そこにアンドレアはいない。
「嬢ちゃんよく聞け!」
声がする。視界が揺れる。頭が割れそうに痛い。
「今見てんのは幻覚だ!」
その声と共に、景色がガラガラと崩れ出した。
大きな扉。リディアはその扉に覚えがあった。流れ出した聖歌と真紅の絨毯、高らかになるベル。まっすぐに絨毯が伸びた先には祭壇、そして——
「キース」
純白の礼装を着た彼がそこにいる。その姿に安心したのも束の間、リディアはそこで違和感に気が付いた。
「——お進みください」
キースが、こちらを見ていない。それだけじゃない。礼拝堂の中に、人が少なすぎる。
——ミラは? エドもジークも、スザンヌもいない……。
いつだってそばにいてくれるはずのミラがどこにもいない。探さないと、そう思うのに足は動かず、促されるままにリディアは絨毯の上を進む。
「——キース、」
何かがおかしい。リディアはそれをキースに伝えようと口を開いたのだが、キースの返事はない。チラリと目線を向けると、彼は少しもリディアの方を見ていなかった。
「キース……?」
もう一度呼びかけると、彼はやっとリディアの方を見た。——しかし、心底興味の無さそうな冷たい目で。
「……何故君が俺を呼び捨てで呼ぶ?」
「え……?」
それはまるで、初めて会ったあの日のような。背中に冷や汗が流れ、心が凍りついていく。絶対におかしい。……でも何が? 本来の〝リディア〟はこうだったはずじゃない。狂わせたのはリディア自身で、これが正しい世界だ。
——でも。だとしても。
「——ッ、エドは? ミラ、ジー……みんなはどこなの?」
もしもリディアが本来のシナリオをなぞっていたとしても、彼らはいるはずだ。騎士団長、侍女、副騎士団長、そしてキースの師匠として。それが誰一人としてここにいないのはおかしいだろう。リディアが訴えかけると、キースは顔を歪めた。
「……何を言っているんだ」
暗く冷たい瞳のキースが紡いだその後の言葉に、リディアは息を呑む。ずっと恐れていたこと。
「——君が殺したんじゃないか」
「は——」
ふっと、キースの後ろに影が現れる。いくつものそれは、ただ無表情にリディアを見つめていた。責めているような、じっとりとした視線にリディアは追い詰められて後ずさる。
——お前のせいだ。
頭の中にガンガンとそんな言葉が響く。やめて、やめて。リディアは頭を抱えて周りを見回した。礼拝堂の全員がこちらを見ている。リディアは半ばパニックになり、上ずる声で必死に叫んだ。
「——エディット!」
何かがおかしい。こんなの。それを確かめたくて必死にそう叫ぶのに、何も起こらない。キースが怪訝な目でこちらを見ている。
「……何を言っているんだ?」
「おかしい、なんで? 私は魔法を使えるようになったはずなのに、」
「……君は魔法は使えないだろう」
そんなはずはない。あんなに必死に自分の操れる元素を見つけて必死に訓練をして、自分とみんなを守るために新しい術式だって開発したはずなのに。
震える声で防御魔法の呪文を唱えるが、何も起きなかった。気が付くと、リディアの純白のドレスは黒く染まっている。どうして、そう思うと同時にふたたび礼拝堂の鐘が鳴った。入り口の扉が開き、光が差し込む。流れ出す聖歌。攻めるようにリディアを見ていた視線が一気にそちらへと集まった。歩いてくる、純白のドレス姿。割れんばかりの拍手が鳴り響く。
「……アリシア」
そちらへ向いたキースの顔が、それまでの冷たいものから一転して暖かく微笑んだ。純白のドレスの少女のヴェールが上がる。キラキラ光るブロンドヘアーと深いブルーの瞳。
「キース様」
その頬はバラのように赤く染まり、照れて笑う姿はまるで天使そのものだ。誰がどう見てもお似合いの二人。参列者たちがそうヒソヒソと噂している。完璧な光景。
これは、あの物語のフィナーレだ。
二人が近付き、その影が重なる寸前、アリシアがくるっと後ろを振り返った。彼女の顔から表情が消えている。ブルーの瞳はリディアをまっすぐに見つめると、ただ無表情でこう聞いた。
「どうして奪おうとするんですか?」
「え——」
「そこはあなたの場所じゃない。あなたさえいなければ、私は幸せになれたはずなのに」
「アリ——」
リディアが手を伸ばすと、床から伸びて来たイバラの棘がアリシアの身体をがんじがらめにした。彼女の顔が苦痛に歪む。
「私だけじゃないですよ。みんな、あなたがいなければ幸せになれた」
余計なことをしたせいで。ゆらゆらと影が揺れる。キースは「アリシア!」と叫び、リディアを冷たい瞳で見下ろした。心臓が弾けそうなほどの速度で鼓動している。
「お前のせいだ」
脳裏をぐるぐると景色が回る。初めてやってきた日のローゼンブルク家、キースと見て回った街、連れて行ってもらった庭園、そこから見た輝く街の風景。
——ずっと、間違えてた?
「わ、たし……は……」
これまでしてきた選択に、ずっと自信がなかった。これでいいのかわからないままがむしゃらに進んできたけれど、もしそれですべてを壊してしまうのだとしたら? 目の前が暗くなる。ガンガンと頭の中で音が鳴り響いている。
——あれ?
ふと顔を上げる。ガンガンと音を立てているのは頭の中だけではないようだ。閉じている入り口の扉。そこが外から叩かれている。
「嬢ちゃん! おい! 聞こえてるか!」
「——アンドレア?」
アンドレアの声だ。ハッとしてリディアは振り向く。扉の外から、アンドレアの声がする。強い頭痛に、リディアは目を瞑った。ガンガンと叩かれ続ける扉。キース、アリシア、ミラ、エド、ジーク——そこにアンドレアはいない。
「嬢ちゃんよく聞け!」
声がする。視界が揺れる。頭が割れそうに痛い。
「今見てんのは幻覚だ!」
その声と共に、景色がガラガラと崩れ出した。
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