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【第2章】迷宮と少女編
77話(135話) 扉の先にあったもの
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この奥に探していたものがある。リディアたちは期待とは違う、どこか不穏な胸騒ぎを感じながら扉と向き合っていた。
「この扉の開き方はわかるのか?」
「ええ。入り口と同じなら——」
リディアはミラとアリシアの顔を見る。入り口の紋章による封じは、二人の祈りを重ねることで開くことができた。同じ紋章が描いてあることから、ここも同様の方法で開くと考えて良いだろう。リディアの視線に応えるように、二人が一歩前へ出る。
「いよいよだな……」
「ええ……」
全員で扉の前に並んだ。一段と濃くなった静謐な空気。その原因であるとてつもない量の魔力は、この扉の隙間から漏れ出している。
「……良いですか?」
開けますよ、と振り返るアリシア。ミラは振り返らず、ただジッと扉を見つめている。リディアはキースとアンドレアと目を見合わせて、頷いた。アリシアがミラに合図をし、二人は祈りを唱え始める。
「光あれと告げし御名において——」
「どうか、私たちに道をお示しください——」
重たい音と共に、アリシアとミラの手が光を放つ。扉に開いた隙間から強烈な光と風が吹き出した。キースがリディアの手を握る。とてつもない魔力が一向を超え、この洞窟全体まで広がっていく気配がした。
「閉ざされし道を清め、真なる扉を示したまえ——」
「闇を越えて、歩む力を与えてください——」
目を焼くような光がさらに強まり、全員を包み込んだ。アリシアとミラの祈りが終わり、それが収まると、目の前には信じられないような光景が広がっていた。
「……」
「これは……」
全員が言葉を失い、部屋中央に鎮座する〝それ〟に目を奪われる。
——これが、神器……。
巨大な白色の発光する球体。周囲には結晶体によって形作られた輪がいくつも浮遊し、回転している。それは脈打つように拍動し、まるで爆発寸前だというように膨張しているようだった。
「すごい魔力ですね……」
最初に口を開いたのはアリシアだった。実際、それが放つ魔力は凄まじく、周りで空気がゆらゆらと揺らいでいるように見えるのはエネルギー体が放出されているからなのであろう。彼女が一歩を踏み出すのについて行くようにリディア、キース、アンドレアも固まっていた動きを解いたが、ただミラだけはその場に留まっていた。
「……ミラ? 大丈夫?」
ミラの顔を覗き込んだリディアはゾッとする。彼女の顔は、これまでにないほど青白くなっていたのだ。何かに耐えるように必死に歯を食いしばっている。
「ミラ!? どうしたの!?」
リディアの声に全員が反応して振り返った。しかしミラはそれに目もくれず、突然スタスタと歩き出した。
「ミラ!」
彼女はス、と腰に刺した剣を引き抜く。突然のことに、リディアは固まってしまった。
「おい!」
迷わず神器へと近付いたミラは、剣の鋒を神器の方に向けて突き立てる。ヒュ、とリディアの喉が鳴った。
「——やめろ」
それを止めたのはキースだった。キースは平然とミラの掲げた剣の先を掴み、下げさせる。彼が「まだ何なのかもよくわからないものを、無闇に攻撃するな」と止めるのを見て、リディアもようやく動けるようになった。慌てて駆け寄り、彼女の背を支える。
「——ミラ、急にどうしたの?」
リディアの言葉に、やっと焦点の合っていなかった視線を戻したミラは、脱力して剣を手から落とした。
「……と、」
「え?」
「壊さないと……いけないんです……」
ミラの声は小さく震えていた。しかし彼女の目は怯えているというより、決意に満ちている。どうやら急に魔力に当たって狂ってしまったとか、そういうわけではないらしい。リディアはミラに「どうして?」と尋ねる。
「これは……厄災しか……呼ばないんです……」
そう言ったミラは、懐から取り出した短剣を思い切り振り上げた。近くにいたリディアとキースが反応するより早く、振り下ろされた剣が神器を貫き——
「……あら?」
「……ッ」
ては、いなかった。ガキン! と強烈な金属音と共に短剣は折れ、刃の先は遥か後ろへと飛んで行ってしまっている。ミラは「やっぱりか……」と悔しそうに呟いた。
「やっぱりって、ミラ——」
リディアがもう一度ミラに問いかけようとしたその時、地の底を這うような地響きが始まった。地面が揺れ、さっきまでいた噴水の部屋の壁から、巨大な天使のような石像が二体現れる。
「……嫌な予感がする。全員下がれ!」
アンドレアがそう言い、キースも前へ出ると、それ以外の三人は神器の方へと近付く。その時、ミラが一瞬痛みに耐えるような表情をしたのをリディアは見逃さなかった。
「いいか、油断するな。防御魔法を張るんだ」
「わかったわ」
「どういう奴かわかるまで無闇に攻撃をしかけるなよ、キース」
「当然だ」
アンドレアが指示を出し、相棒である大剣を持って構える。天使の石像はゆっくりと噴水の方からリディアたちの方を向くと、ピカ! と目を光らせた。
『侵略者、発見! 直ちに排除する』
その天使は愛らしい顔にまったく似合わない、殺意に満ち溢れたような台詞を無機質な声で発した。
———————————————
突然の朝更新ですみません。蟹を食べていました。次回も朝更新の可能性が高いですが、次次回以降はまた夜に戻します。よろしくお願いします。
「この扉の開き方はわかるのか?」
「ええ。入り口と同じなら——」
リディアはミラとアリシアの顔を見る。入り口の紋章による封じは、二人の祈りを重ねることで開くことができた。同じ紋章が描いてあることから、ここも同様の方法で開くと考えて良いだろう。リディアの視線に応えるように、二人が一歩前へ出る。
「いよいよだな……」
「ええ……」
全員で扉の前に並んだ。一段と濃くなった静謐な空気。その原因であるとてつもない量の魔力は、この扉の隙間から漏れ出している。
「……良いですか?」
開けますよ、と振り返るアリシア。ミラは振り返らず、ただジッと扉を見つめている。リディアはキースとアンドレアと目を見合わせて、頷いた。アリシアがミラに合図をし、二人は祈りを唱え始める。
「光あれと告げし御名において——」
「どうか、私たちに道をお示しください——」
重たい音と共に、アリシアとミラの手が光を放つ。扉に開いた隙間から強烈な光と風が吹き出した。キースがリディアの手を握る。とてつもない魔力が一向を超え、この洞窟全体まで広がっていく気配がした。
「閉ざされし道を清め、真なる扉を示したまえ——」
「闇を越えて、歩む力を与えてください——」
目を焼くような光がさらに強まり、全員を包み込んだ。アリシアとミラの祈りが終わり、それが収まると、目の前には信じられないような光景が広がっていた。
「……」
「これは……」
全員が言葉を失い、部屋中央に鎮座する〝それ〟に目を奪われる。
——これが、神器……。
巨大な白色の発光する球体。周囲には結晶体によって形作られた輪がいくつも浮遊し、回転している。それは脈打つように拍動し、まるで爆発寸前だというように膨張しているようだった。
「すごい魔力ですね……」
最初に口を開いたのはアリシアだった。実際、それが放つ魔力は凄まじく、周りで空気がゆらゆらと揺らいでいるように見えるのはエネルギー体が放出されているからなのであろう。彼女が一歩を踏み出すのについて行くようにリディア、キース、アンドレアも固まっていた動きを解いたが、ただミラだけはその場に留まっていた。
「……ミラ? 大丈夫?」
ミラの顔を覗き込んだリディアはゾッとする。彼女の顔は、これまでにないほど青白くなっていたのだ。何かに耐えるように必死に歯を食いしばっている。
「ミラ!? どうしたの!?」
リディアの声に全員が反応して振り返った。しかしミラはそれに目もくれず、突然スタスタと歩き出した。
「ミラ!」
彼女はス、と腰に刺した剣を引き抜く。突然のことに、リディアは固まってしまった。
「おい!」
迷わず神器へと近付いたミラは、剣の鋒を神器の方に向けて突き立てる。ヒュ、とリディアの喉が鳴った。
「——やめろ」
それを止めたのはキースだった。キースは平然とミラの掲げた剣の先を掴み、下げさせる。彼が「まだ何なのかもよくわからないものを、無闇に攻撃するな」と止めるのを見て、リディアもようやく動けるようになった。慌てて駆け寄り、彼女の背を支える。
「——ミラ、急にどうしたの?」
リディアの言葉に、やっと焦点の合っていなかった視線を戻したミラは、脱力して剣を手から落とした。
「……と、」
「え?」
「壊さないと……いけないんです……」
ミラの声は小さく震えていた。しかし彼女の目は怯えているというより、決意に満ちている。どうやら急に魔力に当たって狂ってしまったとか、そういうわけではないらしい。リディアはミラに「どうして?」と尋ねる。
「これは……厄災しか……呼ばないんです……」
そう言ったミラは、懐から取り出した短剣を思い切り振り上げた。近くにいたリディアとキースが反応するより早く、振り下ろされた剣が神器を貫き——
「……あら?」
「……ッ」
ては、いなかった。ガキン! と強烈な金属音と共に短剣は折れ、刃の先は遥か後ろへと飛んで行ってしまっている。ミラは「やっぱりか……」と悔しそうに呟いた。
「やっぱりって、ミラ——」
リディアがもう一度ミラに問いかけようとしたその時、地の底を這うような地響きが始まった。地面が揺れ、さっきまでいた噴水の部屋の壁から、巨大な天使のような石像が二体現れる。
「……嫌な予感がする。全員下がれ!」
アンドレアがそう言い、キースも前へ出ると、それ以外の三人は神器の方へと近付く。その時、ミラが一瞬痛みに耐えるような表情をしたのをリディアは見逃さなかった。
「いいか、油断するな。防御魔法を張るんだ」
「わかったわ」
「どういう奴かわかるまで無闇に攻撃をしかけるなよ、キース」
「当然だ」
アンドレアが指示を出し、相棒である大剣を持って構える。天使の石像はゆっくりと噴水の方からリディアたちの方を向くと、ピカ! と目を光らせた。
『侵略者、発見! 直ちに排除する』
その天使は愛らしい顔にまったく似合わない、殺意に満ち溢れたような台詞を無機質な声で発した。
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突然の朝更新ですみません。蟹を食べていました。次回も朝更新の可能性が高いですが、次次回以降はまた夜に戻します。よろしくお願いします。
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