【R18】純情悪女は無意識に騎士団長を籠絡する~悪女のふりをしていることがバレました~

すめらぎかなめ

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本編 第1章

 でも、やっぱり……。

(だれか、助けて――!)

 神さまにすがるように、心で強く助けを乞う。

 アルバニアがこぶしを強く握っていると、男の手がドレスから離れた。そして、なにかをわめいている。

 恐る恐る瞼をあけると、見知らぬ男が一人増えていた。

 男は青い瞳に冷たい色を宿している。背丈が高く、強面なため大層迫力があった。

「見たところ、不同意のようだが」

 見た目通りの低い声だった。

 彼はアルバニアを一瞥したものの、すぐに視線を逸らした。興味がないのだろう。

「不同意なわけがないだろ! この女が誘ってきたんだ!」
「――ということだが、どうなんだ」

 まさか意見を求められるとは思わず、アルバニアは目を真ん丸にする。だが、すぐに首を横に振った。

「ち、ちがいます。私、誘ってなんて」

 言ったところで信じてもらえない。あきらめ半分に訴えると、青い瞳の彼は大きくため息をついた。

「ということだ。彼女が同意していない以上、これは見過ごせない」

 アルバニアを襲っていた男は、明らかに動揺していた。目の前の男がアルバニアの言うことを信じるとは想像していなかったのだろう。もちろん、アルバニアも同じだ。

「この女はアルバニア・ルーミスだ! ふしだらだと有名な女の言うことなど信じるというのか!」

 男はさらにわめきはじめた。

「悪女だということくらい、お前だって知っているはずだ! 男を手玉に取って遊んでいると――」

 アルバニアを指さし、罵倒を繰り返す。

 今までも散々罵倒されてきた。だから、今更悲しいなんて思わない――はずだった。

(おかしい。悲しみなんてとっくの昔に忘れたはずなのに)

 自身の身体を抱きしめて、アルバニアはうつむく。

 あふれてしまいそうな感情を必死にこらえる。

 きっと、アルバニアを助けてくれた男も、この言葉を聞いたらアルバニアを見捨てる。

 むしろ、一緒に罵倒してくるかもしれない。

「悪女、か」

 彼がかみしめるようにつぶやいた。

 相変わらずわめいている男を無視して、アルバニアに近づく。

 彼はアルバニアの前に跪いて、顔を覗き込んできた。慌てて顔を手で覆う。

「たとえ彼女が悪女であろうと、襲うことは許されたことではない」

 顔を見られたくないというアルバニアの思いに気づいたのか、男は手をどけることはしなかった。

 静かに立ち上がり、わめき続ける男を見下ろす。

「捕まりたくないのなら、さっさと立ち去れ。今なら見逃してやる」
「は、なにさまのつもりだ――!」
「いいから、立ち去れ」

 鋭い瞳でにらまれ、低い声で命じられたからなのか。男は情けない声をあげ、一目散逃げだした。

 残されたアルバニアは、助けてくれた男の顔をおずおずと見上げる。

「大丈夫か」

 短い言葉だったが、彼の心配がよく伝わってくる。

 必死に首を縦に振ると、男がアルバニアのことを見つめているのに気づく。

 だが、視線には情欲の類がまったく感じられない。純粋に心配しているのだろう。

「戻る……のはやめたほうがいいだろうな。その格好で戻ったら、また同じ目に遭う」
「格好?」
「気づいていないのか。胸元が見えているぞ」

 男の言葉にはっとして、自身の身体を見下ろす。

 胸元を覆っていた布が、見るも無残に破られている。先ほどの男の仕業だ。

「あ、あの、お見苦しいものを……」

 腕で必死に胸元を隠すアルバニアに対し、男は困ったように頭を掻く。

 しばらくして、男は自身の上着を脱いでアルバニアの肩にかけた。

「これなら少しはマシだろう。今日は一度帰ることを勧める」
「……はい」
「馬車まで戻れるか?」

 問いかけに首を縦に振った。

 本当はふらふらだし、一人で戻れる保証はない。もしもほかの男と出くわしたら――また同じ目に遭う可能性もゼロじゃない。

 けど、この親切な人にこれ以上迷惑をかけたくなかった。

「だ、いじょうぶ、です」

 肩にかかる上着を握りしめる。

「その……この上着は、いつお返ししたら」

 男の顔を見上げて、か細い声で尋ねる。

 まさか今、上着の心配をされるなど思ってもいなかったのか。男は青の双眸を見開いた。

「返す必要はない。捨てておいてくれ」
「……でも」
「今はそんな心配をしている場合じゃないだろう」

 確かに彼の言うことはもっともだ。悩んだ末に、アルバニアはもう一度首を縦に振る。

 そして、馬車が待つ場所に戻ろうと足を踏み出そうとして――脚から力が抜けた。

「おい!」

 男に抱き留められたため、怪我こそない。

 しかし、相変わらず脚が入らない。

 さらに、頭がふわふわとする。意識も飛んでしまいそうだ。

「確か、ルーミスだったな」

 男のつぶやきを耳にしながら、アルバニアは完全に意識を失った。

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