【R18】俺のセフレはどうやら王国で人気の高い騎士団長らしい。

すめらぎかなめ

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第5章

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 雨粒がガラスをたたく音で目が覚めた。少しして大きな雷鳴が聞こえて、身体が跳ねた。

 窓のほうに近づくと、土砂降りの雨が降っていた。雷は容赦なく鳴り響いている。これはどこかに落ちたかも。

「ルー、大丈夫かな……」

 ぽつりとつぶやく。

 ――って、俺が心配してどうなるんだ。なにもできないくせに。

 視線を動かして、時計を見る。どうやらかなり眠っていたらしく、もう夕方だ。

「今日、休みでよかった」

 この雨の中徒歩で帰るなんて、絶対にいやだから。

 なんて思いつつ、部屋を出ていく。今は飲み物が欲しかった。

 廊下を歩いているときにも、何度も雷が鳴った。さらに木々がざわめく音がした。強い風が吹いているのだろう。

 厨房の扉を開けると、中で夕飯の仕込みをしていた料理人が俺に気づいた。彼はエプロンで手を拭いて、俺のほうに近づいてくる。

「どうなさいました?」
「ちょっと水が欲しくて」

 要望を口にすると、彼は大きくうなずいて冷蔵庫に近づく。その間に、俺は厨房の隅にある休憩スペースに腰を下ろした。

 しばらくして、カップを差し出される。水の上にはレモンが浮いていた。

「どうぞ、すっきりしますよ」
「……ありがとう、ございます」

 気遣いは嬉しいけど、余計な心配をかけたみたいで心苦しくもある。

 俺はカップを口に運ぶ。冷たさが喉を潤すと同時に、スーッとした感覚もある。ほっと息を吐いた。

「なにか、思うことでもありますか?」

 俺の目の前に腰を下ろした料理人が、心配そうに見つめてくる。

「珍しくお料理を残しましたので」
「……まぁ、うん」

 ごまかそうか。でも、うまくごまかせる自信がない。

 悩むうちに自然とカップを持つ手に力が入る。うつむいて、水面を見つめた。

「別に大したことじゃないです。俺が贅沢なだけですから」

 小さなつぶやきに、彼はなにも言わなかった。

 どうしてかそれが心地よくて、言葉が続いた。

「前と比べたらずっと恵まれた環境にいるのに、これじゃあ満足できなくなってて。このままだとどんどん強欲になって、取り返しがつかなくなりそうで、怖くて」

 ルーとの関係をあいまいにしたのは俺自身だ。だけど、あいつが俺に愛情を伝えてくれるのが嬉しかった。恋人になる勇気が出なかったくせに、与えられる愛情が心地よかった。

 こんなあいまいな関係は、どちらかが終わらせようとしたらすぐに終わる。

 しっかりした契約というわけでもないので、保証もなにもない。

 もしも、もしもだ。こんな幸せを覚えた俺がルーに捨てられたら……そのあと、どうなるのだろう。想像するだけでも怖い。

「余計なこと考えてしまったら、全然食べられなくて。困らせるって、わかってるのに」

 ただでさえ、この人たちにとって俺は突然転がり込んできたよそ者だ。迷惑をかけてはいけない。

「ずっと一人で生きてきて、一人には慣れたはずだったんです。……だから、大丈夫なはずなんです」

 説明するというよりは、自分に言い聞かせている。慣れているから大丈夫。俺は一人に戻っても、大丈夫だって。

「きちんとしないとダメなのに。……俺、いつからこんな弱くなったんだろう」

 兄さんが死んで、一人ぼっちになった。だれにも頼らずに生きていくと決めた。

 ナイムさんはいたけど、あくまでも雇用主と従業員の関係だ。プライベートまで頼ることはなかった。

「こんな俺じゃ――ダメなのに」

 幼少のころ。両親が俺を叱責するときは決まって「お前はダメだ」と言ってきた。忘れたはずの言葉が、胸の奥底からよみがえる。それは俺の心を侵食し、頭の中にもう一度こびりつこうとしていた。

「……それは」

 強く目をつむっていたとき。ずっと黙っていた料理人が口を開いた。

「それは、弱くなったということではありません」

 はっきりした言葉に、勢いよく顔をあげた。こちらを見る料理人の目は真剣そのものだった。
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