【R18】選ばれなかった令嬢は年上辺境侯に永遠を誓う~王太子の婚約者候補だった完璧令嬢は辺境の地で幸せをつかむ~

すめらぎかなめ(ダフォディル)

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第1章 選ばれなかった令嬢

第3話

 辺境へ向かうことが決まり、急ピッチで荷造りが始まった。

 突然のことに間に合うか不安だったが、無事すべての荷造りを終わらせることができた。

「いよいよ明日、私は辺境に向かうの」

 自室の窓から夜空を見上げ、レティシアは口を開く。

「あなたと過ごせた時間、すごく楽しかったわ」

 振り返ると、例の侍女がいる。彼女は浮かない表情でレティシアを見ている。

 レティシアも不安でいっぱいなように、彼女も心配なのだろう。

「あなたの――クララのおかげで、この家での思い出がいやなものばかりにならなくてよかった」

 しみじみとつぶやく。

「本当に感謝してもしきれないわ。どうか、あなたも幸せに」
「……はい」

 嫁ぐ際、通常なら二名ほどの侍女を連れていくものだ。

 しかし、レティシアは侍女を連れていくつもりがなかった。

「お嬢さまは、不安ではないのですか?」
「不安に決まっているわ」

 今まで自分の不安など口に出したことがなかった。でも、クララになら不思議と素直に話すことができる。

「けどね、これ以上ここにいるよりはいいと思うの。ここに居続けたら、お父さまやお母さま……ナルシスの邪魔になってしまうもの」

 いずれ家を継ぐナルシスは、義姉のレティシアがこの家に居続けることをよしとしないだろう。

 今でさえ嫌われているのだ。これ以上嫌われ、憎まれるのは避けたい。

「邪魔になるくらいなら、潔く嫁ぐわ。クララのおかげで、決意が固まったもの」
「私のおかげ、ですか?」
「えぇ。あなたが私の弱音を受けとめてくれたから、新しい土地で頑張ろうって思えたの」

 王太子妃に選ばれなくても、厄介払いとばかりに嫁がされても。死んだわけではないのだから、大丈夫。

「気持ちの整理はまだ完全にはできていないけど、夫となる方と少しでもいい関係を築けるようにがんばるわ」

 相手の情報は最低限しか知らない。そして、辺境の地についても王都で流れている噂程度のことしか知らない。

「お嬢さま」
「応援して、くれる?」

 クララの瞳を見つめると、彼女は力強くうなずいた。それから、何度も何度もうなずき続ける。

 首が取れてしまいそうで、つい笑ってしまった。

「ありがとう。じゃあ、私は寝るわ。……おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」

 明かりを消したクララを見送り、レティシアは寝台に横たわる。

(こんな日でも、眠気はやってくるものなのね)

 大きなあくびをして、レティシアはあっという間に夢の世界へと入っていった。


 夜も深まったころ。

 物音が聞こえた気がして、レティシアは目を開けた。

 まだはっきりしない視界の中、目を凝らす。すると、だれかが部屋にいることに気づいた。

 侵入者もレティシアが起きたことに気づいたのか、露骨に舌打ちをして近づいてくる。

「だ――」

 声をあげる前に、手で口をふさがれた。

 必死にもがいたが、相手の力のほうが強くて抵抗は意味をなさない。

(だれが、どうやって――!)

 ここは侯爵邸だ。一体、だれがどうやって侵入したのだろう。

 レティシアの疑問は、いとも簡単に解決した。

 カーテンの隙間から差し込んだ月明かりが、侵入者の顔を照らす。よく知った人物に、レティシアは目を見開く。

(どうしてここに――ナルシスが!)

 レティシアを押さえつけているのは、ほかでもない義弟のナルシスだった。

 相手がナルシスならば、どうやって屋敷に入ったのかという疑問は疑問にさえならない。

 彼はこの家の住民なのだから。

「ちょっとは大人しくしてよ。声をあげられると困るんだ」

 自身を見下ろすナルシスの目に強い恐怖を覚えた。

 身体の力が抜けたレティシアを見て、ナルシスは満足そうに笑う。その後、レティシアの口から手を離した。

 肩を揺らして呼吸をする。必死に呼吸を整えていると、ナルシスは意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「どうして、ここにいるの……!」

 胸の前で手を握り、問いかける。

「私は明日嫁ぐの。だからもう、あなたの邪魔になることはないわ」

 もし、レティシアが邪魔だから殺しに来たのなら、その必要はないと訴える。

 どうせ明日には屋敷から消える人間を殺しても、自分の手が汚れるだけだ――と。

「そうだね。義姉さんは明日、辺境へと向かうんだ」
「だったら――!」
「僕にとっては、それが困るんだよ」

 ナルシスの目を見ると、ぞっとした。背筋に冷たいものが走る。

「どうして……? あなたは私のことが嫌いで邪魔なのでしょう? だったら、いなくなることは喜ばしいはずよ」

 身体を縮める。ナルシスから離れるように、じりじりと下がっていく。

「確かに僕は義姉さんのことが嫌いだし、邪魔だとは思っているよ。……ただ、いなくなるのは困るんだ」
「――は?」

 彼の言っていることが理解できない。眉間にしわを寄せたレティシアを見るナルシスは、心底楽しそうだった。

「だって、義姉さんは僕のものだからね。勝手に僕から離れることは許されない」

 本当に彼は一体なにを言っているのだろう。

 あれだけ邪険にし、嫌いだと態度に出していたのはナルシスのほうだ。

 なのに、勝手に離れることは許さないだなんて。

「せっかくうまくいきそうだったのに。義父さんも余計なことをしてくれたものだ」
「……あなたは、なにが目的なの?」

 震える声で問う。

 彼の言動はちぐはぐで、どれが本心なのか見当もつかない。

 毛布を手繰り寄せて、抱きしめる。目の前の男が怖かった。

「目的、か。そうだな。僕は義姉さんを側においておきたいんだ」
「ふざけないで……!」
「ふざけてなんていないさ。僕は義姉さんを側において、飼い殺しにしたいだけだ」

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