龍の花嫁

アマネ

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初めて足を踏み入れる王宮はハルカが想像していたものより大きく、煌びやかなものだった。
屋敷と比べているので当然だが、スケールが全く違う。

その中をハルカはヒスイと並んで歩いていた。
先導するのは騎士で、2人の後ろにも1人の騎士がいる。
つまり5名で移動しているのだ。

ハルカのドレスは濃紺でワンオフショルダーで、肩の部分がリボンになっている。
Aラインで綺麗に膨らみ、裾にかけて刺繍と金の宝石が施されていた。
小物も主張しすぎない金が使われており、統一感がある。

最初はこんなの着て歩くなんて、と思っていたハルカだがこうして見ればドレス以外は浮いて見えてしまいそうだった。

そんなことをぼやぼやと考えているうちに謁見の間へと着いたようだ。


「こちらです」

「ありがとう」


騎士の1人が扉の前に立つ従僕に声を掛ける。
従僕は頷き、中に合図を送ると扉は内側からいっぺんに開いた。


「どうぞ、足元にお気をつけ下さい」


そういうと従僕は歩きだした。
皇帝へと繋がる道が赤い絨毯で示されている。
ハルカは足が竦んでしまう。ヒスイを覗き見ると、視線に気付き微笑んでくれているのが嬉しい。

その表情に勇気を貰い、一歩踏み出した。


———————————


しかし、やはりいざ目の前にしてみると勇気も萎むわけで。

必死に歩いてきたものの、そこからが始まりであり皇帝が一番近くにいるのだ。
緊張なんてものではない。吐き気がしそうだった。


カナタに教えられたようにヒスイと並び、礼をする。
本来ならばヒスイは必要ないらしいのだが、伺いを立てるといった意味であるようだ。

数秒後、皇帝から声がかかった。



「顔をあげなさい」


声を聞いた印象で言えば厳しそう、というのがハルカの素直な感想だった。
そして顔をあげて見た皇帝は印象を裏切らない厳しい表情をしていた。

まず最初にヒスイが挨拶をする。


「四代目の龍、参りました」


ヒスイは皇帝と何度も会っているからこのような挨拶なのだ。
ハルカは初対面なので、きちんと正式なものをしなければならない。


「ハルカと申します。ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ奉ります。何卒宜しくお願い申し上げます」


最後にカーテシーをする。
これだけのことだと思うかもしれないが、第5層で生まれ育ったハルカにとって天と地がひっくり返ったかのような出来事で、今まで使わなかった言葉に言葉遣い…頭がはち切れそうだった。

カーテシーをすると皇帝から声が掛かると聞いていたが、一向にかからない。
おかしい、そろそろ足にも限界が来ている…と思ったところでヒスイが助け舟を出してくれた。


「陛下」

「…良い」


声の前に大きなため息を吐かれた気がするのは気のせいではないだろう。
皇帝の視線には軽蔑やら怒りやら色んな感情が浮かんでいた。

当然だろう。ハルカが現れなかったらカヤはヒスイの婚約者を夢見て賢明な少女のままだったのだから。


「…この者が私の花嫁です。生涯の伴侶となることを約束いたしました」


それを聞いた皇帝が今度はあからさまにため息をついた。
そしてヒスイに言った。


「このようなみすぼらしい少女のどこが良かったのだ?」


それはハルカも常々思っていたところではあったが、こんなところでこのような聞き方をされるとは思っていなかったのでダメージが大きい。

匂い、とは言っていたが果たしてそれだけで決めて良かったのだろうか、とか今でも気になっていた。
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みんなの感想(1件)

みりん
2020.04.03 みりん

すごく好きです!
更新楽しみにしています。がんばってください

アマネ
2020.04.04 アマネ

みりん様

応援のお言葉、ありがとうございます!
初めての感想でとても嬉しいです。
頑張って書いていきますので、どうぞ宜しくお願いします!

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