龍の花嫁

アマネ

文字の大きさ
32 / 32

報告

しおりを挟む


初めて足を踏み入れる王宮はハルカが想像していたものより大きく、煌びやかなものだった。
屋敷と比べているので当然だが、スケールが全く違う。

その中をハルカはヒスイと並んで歩いていた。
先導するのは騎士で、2人の後ろにも1人の騎士がいる。
つまり5名で移動しているのだ。

ハルカのドレスは濃紺でワンオフショルダーで、肩の部分がリボンになっている。
Aラインで綺麗に膨らみ、裾にかけて刺繍と金の宝石が施されていた。
小物も主張しすぎない金が使われており、統一感がある。

最初はこんなの着て歩くなんて、と思っていたハルカだがこうして見ればドレス以外は浮いて見えてしまいそうだった。

そんなことをぼやぼやと考えているうちに謁見の間へと着いたようだ。


「こちらです」

「ありがとう」


騎士の1人が扉の前に立つ従僕に声を掛ける。
従僕は頷き、中に合図を送ると扉は内側からいっぺんに開いた。


「どうぞ、足元にお気をつけ下さい」


そういうと従僕は歩きだした。
皇帝へと繋がる道が赤い絨毯で示されている。
ハルカは足が竦んでしまう。ヒスイを覗き見ると、視線に気付き微笑んでくれているのが嬉しい。

その表情に勇気を貰い、一歩踏み出した。


———————————


しかし、やはりいざ目の前にしてみると勇気も萎むわけで。

必死に歩いてきたものの、そこからが始まりであり皇帝が一番近くにいるのだ。
緊張なんてものではない。吐き気がしそうだった。


カナタに教えられたようにヒスイと並び、礼をする。
本来ならばヒスイは必要ないらしいのだが、伺いを立てるといった意味であるようだ。

数秒後、皇帝から声がかかった。



「顔をあげなさい」


声を聞いた印象で言えば厳しそう、というのがハルカの素直な感想だった。
そして顔をあげて見た皇帝は印象を裏切らない厳しい表情をしていた。

まず最初にヒスイが挨拶をする。


「四代目の龍、参りました」


ヒスイは皇帝と何度も会っているからこのような挨拶なのだ。
ハルカは初対面なので、きちんと正式なものをしなければならない。


「ハルカと申します。ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ奉ります。何卒宜しくお願い申し上げます」


最後にカーテシーをする。
これだけのことだと思うかもしれないが、第5層で生まれ育ったハルカにとって天と地がひっくり返ったかのような出来事で、今まで使わなかった言葉に言葉遣い…頭がはち切れそうだった。

カーテシーをすると皇帝から声が掛かると聞いていたが、一向にかからない。
おかしい、そろそろ足にも限界が来ている…と思ったところでヒスイが助け舟を出してくれた。


「陛下」

「…良い」


声の前に大きなため息を吐かれた気がするのは気のせいではないだろう。
皇帝の視線には軽蔑やら怒りやら色んな感情が浮かんでいた。

当然だろう。ハルカが現れなかったらカヤはヒスイの婚約者を夢見て賢明な少女のままだったのだから。


「…この者が私の花嫁です。生涯の伴侶となることを約束いたしました」


それを聞いた皇帝が今度はあからさまにため息をついた。
そしてヒスイに言った。


「このようなみすぼらしい少女のどこが良かったのだ?」


それはハルカも常々思っていたところではあったが、こんなところでこのような聞き方をされるとは思っていなかったのでダメージが大きい。

匂い、とは言っていたが果たしてそれだけで決めて良かったのだろうか、とか今でも気になっていた。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

みりん
2020.04.03 みりん

すごく好きです!
更新楽しみにしています。がんばってください

2020.04.04 アマネ

みりん様

応援のお言葉、ありがとうございます!
初めての感想でとても嬉しいです。
頑張って書いていきますので、どうぞ宜しくお願いします!

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。