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えー、何これ、わたし、聖女になってる!?
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目を覚ました瞬間、そこがいつもの六畳一間のアパートではないことに気づいた。
天蓋付きのふかふかベッド。バラの香りがする枕。高級そうなシルクのシーツ。壁には意味深なフレスコ画が描かれ、窓の外には石畳と馬車の行き交う街並みが広がっている。
疑いようもなく、中世ヨーロッパ風の世界。
――完全に異世界転生案件である。
鏡を覗き込むと、そこにはウェーブのかかった淡いピンク色の髪に、澄んだ水色の瞳をした少女が映っていた。
透けるように白い肌に、グロスを塗ったような桜色の艶やかな唇。
どう見ても、ファンタジー作品に登場する『聖女』ビジュそのものだ。
「……えー、なにこれ、わたし、聖女になってる……!?」
これはアレだ。
絶対、「勇者様を癒してください」とか言われるやつ。美味しいスイーツ食べ放題、ふかふかベッドでうたた寝、イケメンに「聖女様……あなたの微笑みに救われます」とか言われちゃうやつ!
前世のブラック企業で、残業続きだった私への、神様からのご褒美に違いない。
ありがとう神様。これからは、憧れのスローライフを満喫します!
──の、はずだったのに。
◇
数日後のわたしはこう叫んでいた。
「聖女の仕事量、どうなってんのよ!? これなら前世の決算期の方がマシだったわ!!」
「聖女様! 癒しの祈祷、もうすぐ二百件目です! 行列が城門の外まで伸びています。現在の待ち時間はおよそ三時間です」
「『夢の国』かよ!」
「泊まりで難民キャンプへの視察です! 馬車の中で仮眠してください! ついでに浄化の儀式と水質改善もお願いしたく!」
「移動時間を休憩扱いするの、完全にブラック企業のやり口だからね!?」
朝は五時起き。
聖水の祈祷に始まり、病人の治癒、土地の浄化、民への施し、国王への報告、外交、山のような書類仕事。ついでに各地の聖堂視察ツアー。
「最近、肌荒れてきてない?」
「聖女様は神に選ばれしお方。疲れなど感じないはずです!」
「“はず”じゃないよ! 感じるし、むしろ今、感じまくってるよ!」
――聖女、超絶ブラック職だった。
◇
ある日。一人きりになれた隙に、こっそり城の隅っこでパンかじってたら、補佐官がやってきた。
「聖女様。……最近、無理されていませんか」
その一言に、思わず笑ってしまう。
「無理しかしてないよ」
まさか、異世界で一番の癒しが、静かな時間と水分補給になるとは思ってもみなかった。
補佐官は、私に小瓶を差し出した。
「これ、なに?」
「最高級のポーションです。疲労回復と、美容効果があります」
「えっ、くれるの?」
「市場価格で金貨十枚ですが、特別にツケにしておきます」
「有料かよ!」
それでも、背に腹は代えられない。
私は小瓶を引ったくり、一気に飲み干した。
カッと体が熱くなり、少しだけ視界がクリアになる。
「……はぁ。聖女も、楽じゃないわね」
◇
そんなある日。
目の下にクマ(濃いめ)が出現。
肌もざらざら。あのぷるぷるだった頃の自分、もういない。
「最近お肌のハリが……」とつぶやいたら、補佐官がこう言った。
「さすが聖女様! 神秘の象徴たる“年輪の美”ですね!」
年輪言うなや!! お肌の歴史が刻まれてるみたいな言い方やめて!?
夜。
鏡の前で、くたびれた自分を見ながら、小さく笑う。
「……やってやろうじゃないの。この世界の労働基準法を改正するその日まで!」
目の下のクマが、少しだけ誇らしげだった。
おわり
天蓋付きのふかふかベッド。バラの香りがする枕。高級そうなシルクのシーツ。壁には意味深なフレスコ画が描かれ、窓の外には石畳と馬車の行き交う街並みが広がっている。
疑いようもなく、中世ヨーロッパ風の世界。
――完全に異世界転生案件である。
鏡を覗き込むと、そこにはウェーブのかかった淡いピンク色の髪に、澄んだ水色の瞳をした少女が映っていた。
透けるように白い肌に、グロスを塗ったような桜色の艶やかな唇。
どう見ても、ファンタジー作品に登場する『聖女』ビジュそのものだ。
「……えー、なにこれ、わたし、聖女になってる……!?」
これはアレだ。
絶対、「勇者様を癒してください」とか言われるやつ。美味しいスイーツ食べ放題、ふかふかベッドでうたた寝、イケメンに「聖女様……あなたの微笑みに救われます」とか言われちゃうやつ!
前世のブラック企業で、残業続きだった私への、神様からのご褒美に違いない。
ありがとう神様。これからは、憧れのスローライフを満喫します!
──の、はずだったのに。
◇
数日後のわたしはこう叫んでいた。
「聖女の仕事量、どうなってんのよ!? これなら前世の決算期の方がマシだったわ!!」
「聖女様! 癒しの祈祷、もうすぐ二百件目です! 行列が城門の外まで伸びています。現在の待ち時間はおよそ三時間です」
「『夢の国』かよ!」
「泊まりで難民キャンプへの視察です! 馬車の中で仮眠してください! ついでに浄化の儀式と水質改善もお願いしたく!」
「移動時間を休憩扱いするの、完全にブラック企業のやり口だからね!?」
朝は五時起き。
聖水の祈祷に始まり、病人の治癒、土地の浄化、民への施し、国王への報告、外交、山のような書類仕事。ついでに各地の聖堂視察ツアー。
「最近、肌荒れてきてない?」
「聖女様は神に選ばれしお方。疲れなど感じないはずです!」
「“はず”じゃないよ! 感じるし、むしろ今、感じまくってるよ!」
――聖女、超絶ブラック職だった。
◇
ある日。一人きりになれた隙に、こっそり城の隅っこでパンかじってたら、補佐官がやってきた。
「聖女様。……最近、無理されていませんか」
その一言に、思わず笑ってしまう。
「無理しかしてないよ」
まさか、異世界で一番の癒しが、静かな時間と水分補給になるとは思ってもみなかった。
補佐官は、私に小瓶を差し出した。
「これ、なに?」
「最高級のポーションです。疲労回復と、美容効果があります」
「えっ、くれるの?」
「市場価格で金貨十枚ですが、特別にツケにしておきます」
「有料かよ!」
それでも、背に腹は代えられない。
私は小瓶を引ったくり、一気に飲み干した。
カッと体が熱くなり、少しだけ視界がクリアになる。
「……はぁ。聖女も、楽じゃないわね」
◇
そんなある日。
目の下にクマ(濃いめ)が出現。
肌もざらざら。あのぷるぷるだった頃の自分、もういない。
「最近お肌のハリが……」とつぶやいたら、補佐官がこう言った。
「さすが聖女様! 神秘の象徴たる“年輪の美”ですね!」
年輪言うなや!! お肌の歴史が刻まれてるみたいな言い方やめて!?
夜。
鏡の前で、くたびれた自分を見ながら、小さく笑う。
「……やってやろうじゃないの。この世界の労働基準法を改正するその日まで!」
目の下のクマが、少しだけ誇らしげだった。
おわり
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