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恋を売る女
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ーTL漫画ー それは、男女の性的な恋愛を扱う漫画だ。
(正直、ここまで続けられると思ってなかったのだけれど。)
新人TL漫画家の冴島霞は、つい先刻までの担当編集とのやり取りを思い出して一人こぼれそうになる笑みを抑えながら、柏木出版のエントランスを軽い足取りで後にしようとしていた。
(まさか単行本化、なんて)
自分の連載してきた漫画が本になる。
それはつまり‘‘私の書いた作品‘‘を読みたい人がいるということ。
作家として、これはとても幸せなことだ。
(うれしい。)
TL漫画家として、やっていけるのかどうかすごくすごく不安だったから。
周りの女の子たちはみんな就職している中で自分の進む道はこの道で正しかったのか、不安だった。
なんだか気分がいいからこの後飲みにでも行ってしまおうか。
誘うのならば高校時代からの親友の美咲と夕だろう。
二人とも都内のオフィスに勤めているので予定さえ合えば夕方から飲みに行ける。
お誘いのラインを入れようと手に持ったカバンの中を探るものの、あるべきものがないことに気が付く。
「・・・ケータイ、応接室だ・・・。」
打ち合わせが終わってからそれなりに時間はたっていないので次に人が使っているということはない・・・とは思うものの、ここはあくまで取引先のオフィスであって勝手に入ることはできないので、恥を忍んで受付のお姉さんに探してもらえるようお願いをする以外に方法はない。
(すごい恥ずかしいな、こんな年齢にもなって忘れのものとか)
困ってうろうろしていると名前を呼ばれる。
「冴島ぁ~、これ忘れもん」
特徴的な語感のその声の主は霞の編集、三角伸二のものだった。
駆け寄ってくる三角の手にはスマホが握られていた。
「た、助かりました!ありがとうございます。すみません・・・。」
(ここで三角さんが来てくれてよかった!)
職業上、普段人と会話をすることなんてほぼ皆無な霞にとって、人に声をかけるということはそれだけで一仕事なのだ。
三角に再度お礼を心の中でしているとふと、一つの疑問が沸き起こる。
・・・彼はなぜここにいるのだろうか。
というのも先程の打ち合わせの時に三角は言っていたのだ。
打ち合わせ後すぐさま重要な会議がある、と。
(中止・・・とかだったのかな)
そのことを特段気にも留めず、スマホも回収できたところでそのまま帰ろうとしたその時、背後から静かな、それでいて苛立ちを十二分に孕んだ少し低い声がした。ただならぬ雰囲気を醸し出しながらその男は三角に詰め寄る。
「・・・そこにいらしたんですか、三角さん」」
「・・・あ~、い、いや 別に会議サボろうとしてたわけじゃないからね!!ほんと、ほんとだってば!吉村ぁ!!」
本当の目的はサボりだったのかもしれない、とその言動と態度から申し訳ないが思ってしまう。
吉村と呼ばれたその男は手にしていた会議の資料と思わしき紙束を三角に押し付けてなおも詰め寄る。
「木島さんに見つけろって命令されてきたんですけど、もちろんすぐに会議室行ってくれますよね。」
お願いをしている口調ではあるが、その言葉には有無を言わせぬ圧があった。
年齢は霞と同じくらいであろうに。
(こんな大手出版社で働いてるような人だからやっぱりしっかりしてる人なんだろうな・・・、)
三角のことは置いておいて、だけれど。
しぶしぶといっ様子で再びエレベーターに消えていった三角を尻目に吉村が霞に向かって軽く頭を下げる。
「すみません、なんか。あわただしくって。三角はとある企画のサブチーフでして。今回はその案件で大事な会議があったんですよ。・・・ま、サボってたようですが。」
・・・たしかにそんな感じもした。
だけど。
サボる理由だったとしても。
スマホをわざわざ届けてくれたのは嬉しかったし、そのことは本当のことだったと伝えないのはさすがにかわいそうだ。
「あ、あの。三角さん私が忘れて行ってしまったスマホ、届けてくれてたんです。さっきは・・・。」
「・・・、そうですか。」
吉村はほんの少し考えるような真剣な顔をしてから霞に向き直って懐から白いものを取り出す。
「三角に呼び出しがかかる可能性がこれからもままあると思いますので、何かございましたら連絡してください。」
差し出されたのは吉村の名刺だった。
”柏木出版 週刊少年キング 編集 吉村大翔”
吉村大翔。
___それは12年も昔の、私の初恋の男の子の名前だった。
(正直、ここまで続けられると思ってなかったのだけれど。)
新人TL漫画家の冴島霞は、つい先刻までの担当編集とのやり取りを思い出して一人こぼれそうになる笑みを抑えながら、柏木出版のエントランスを軽い足取りで後にしようとしていた。
(まさか単行本化、なんて)
自分の連載してきた漫画が本になる。
それはつまり‘‘私の書いた作品‘‘を読みたい人がいるということ。
作家として、これはとても幸せなことだ。
(うれしい。)
TL漫画家として、やっていけるのかどうかすごくすごく不安だったから。
周りの女の子たちはみんな就職している中で自分の進む道はこの道で正しかったのか、不安だった。
なんだか気分がいいからこの後飲みにでも行ってしまおうか。
誘うのならば高校時代からの親友の美咲と夕だろう。
二人とも都内のオフィスに勤めているので予定さえ合えば夕方から飲みに行ける。
お誘いのラインを入れようと手に持ったカバンの中を探るものの、あるべきものがないことに気が付く。
「・・・ケータイ、応接室だ・・・。」
打ち合わせが終わってからそれなりに時間はたっていないので次に人が使っているということはない・・・とは思うものの、ここはあくまで取引先のオフィスであって勝手に入ることはできないので、恥を忍んで受付のお姉さんに探してもらえるようお願いをする以外に方法はない。
(すごい恥ずかしいな、こんな年齢にもなって忘れのものとか)
困ってうろうろしていると名前を呼ばれる。
「冴島ぁ~、これ忘れもん」
特徴的な語感のその声の主は霞の編集、三角伸二のものだった。
駆け寄ってくる三角の手にはスマホが握られていた。
「た、助かりました!ありがとうございます。すみません・・・。」
(ここで三角さんが来てくれてよかった!)
職業上、普段人と会話をすることなんてほぼ皆無な霞にとって、人に声をかけるということはそれだけで一仕事なのだ。
三角に再度お礼を心の中でしているとふと、一つの疑問が沸き起こる。
・・・彼はなぜここにいるのだろうか。
というのも先程の打ち合わせの時に三角は言っていたのだ。
打ち合わせ後すぐさま重要な会議がある、と。
(中止・・・とかだったのかな)
そのことを特段気にも留めず、スマホも回収できたところでそのまま帰ろうとしたその時、背後から静かな、それでいて苛立ちを十二分に孕んだ少し低い声がした。ただならぬ雰囲気を醸し出しながらその男は三角に詰め寄る。
「・・・そこにいらしたんですか、三角さん」」
「・・・あ~、い、いや 別に会議サボろうとしてたわけじゃないからね!!ほんと、ほんとだってば!吉村ぁ!!」
本当の目的はサボりだったのかもしれない、とその言動と態度から申し訳ないが思ってしまう。
吉村と呼ばれたその男は手にしていた会議の資料と思わしき紙束を三角に押し付けてなおも詰め寄る。
「木島さんに見つけろって命令されてきたんですけど、もちろんすぐに会議室行ってくれますよね。」
お願いをしている口調ではあるが、その言葉には有無を言わせぬ圧があった。
年齢は霞と同じくらいであろうに。
(こんな大手出版社で働いてるような人だからやっぱりしっかりしてる人なんだろうな・・・、)
三角のことは置いておいて、だけれど。
しぶしぶといっ様子で再びエレベーターに消えていった三角を尻目に吉村が霞に向かって軽く頭を下げる。
「すみません、なんか。あわただしくって。三角はとある企画のサブチーフでして。今回はその案件で大事な会議があったんですよ。・・・ま、サボってたようですが。」
・・・たしかにそんな感じもした。
だけど。
サボる理由だったとしても。
スマホをわざわざ届けてくれたのは嬉しかったし、そのことは本当のことだったと伝えないのはさすがにかわいそうだ。
「あ、あの。三角さん私が忘れて行ってしまったスマホ、届けてくれてたんです。さっきは・・・。」
「・・・、そうですか。」
吉村はほんの少し考えるような真剣な顔をしてから霞に向き直って懐から白いものを取り出す。
「三角に呼び出しがかかる可能性がこれからもままあると思いますので、何かございましたら連絡してください。」
差し出されたのは吉村の名刺だった。
”柏木出版 週刊少年キング 編集 吉村大翔”
吉村大翔。
___それは12年も昔の、私の初恋の男の子の名前だった。
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