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君と僕のアンサンブル
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地元の音楽コンサートホールのあるレストラン街地下の片隅で、
僕らはピアノを弾いている。
ピアノに向かうふたりの背中。
本来ひとり用の椅子に無理矢理ふたりで座っているので、
肩と肩が触れ合うほど近い距離でいる。
ふたりとも決して上手くはない。
でも、カノンやら、ショパンやら、アニメ曲を連弾で弾いていると、
ふたつの音がうまく混ざり合って、それが楽しい。
「夕と一緒に弾くのなんて小学生以来じゃね?」
そう言ってはにかむ陽は、
背も伸びて体つきもスポーツマンらしくなったものの、
笑顔は昔とかわらなかった。
僕は
「そうだな」
と言って俯いてしまう。
いつの間にか曲はノクターンに変わっている。
俺は右手の五本指を滑らせるようにしてメロディを旋律する。
ドン!
隣でいきなり陽が体当たりしてきてよろめく。
思わず、
「なにすんだよ!」
と怒らずにはいられない。
「いや、なんかお前、大人っぽくなったなって」
そう太陽のような眩しい笑顔でいたずらそうに見てくる。
僕はこの笑顔に弱い。
「夕は昔から元気はつらつって感じのやつじゃなかったけど、クールな感じでさ」
ピアノの鍵盤を見るために目が伏目がちになる。
横から見ると睫毛が長く、弧を描いている。
「でも、今の夕は大人っぽくなった。羨ましいぜ」
陽は目を伏せたまま優しそうに笑う。
「だろう?」
俺は照れ隠しでふざけてみせる。
陽は「お前に言われると気にくわない」とかなんとか騒いでいる。
大人っぽくなったのはお前だよ、と思う。
だって僕、そんな風に笑うお前、初めて見たから。
◯
「それにしてもすごい偶然だよな、俺たち」
ふたりの好きなロボットアニメの主題歌を弾きつつ、
陽は僕の目をまっすぐ見て言う。
「夕にいきなり駅で声かけられてさ。
3、4年ぶりとか?
一瞬、誰かわかんなかったじゃん」
「お前、地味にひでえな」
僕はあからさまに顔を歪ませて文句を言う。
陽は、はははと笑いながら、
わりぃ、わりぃと謝る。
「いや、小学校卒業と同時に俺が他区に引っ越してから
中学校はもちろんのこと、今の高校もお互い違う学校じゃん。
家も正反対だし」
俺は弾き語る陽をただ見ている。
「運命みたいだよなあ」
空を仰ぐようにして、ハハハハと愉快そうにしている。
「どうだろうな」
僕は曖昧に笑いながら過去に思いを寄せる。
運命なわけないだろう。
僕がわざわざ遠回りして帰っていて、
しかも、お前に会えるかもしれないという一筋の光だけで
そんな行動を半年も続けていたなんて、
そのおかげで今日この時があるなんて、
君は知らないだろう。
僕はいきなり難しい曲を選んで弾き始める。
指が先ほどよりも大きく動かすことが必要な曲である。
思っていたとおり、指が陽の指にわずかに触れる。
肩も触れている。
満足だった。
なあ、
お前はいつ僕の気持ちに気づいてくれるんだろうな。
僕らはピアノを弾いている。
ピアノに向かうふたりの背中。
本来ひとり用の椅子に無理矢理ふたりで座っているので、
肩と肩が触れ合うほど近い距離でいる。
ふたりとも決して上手くはない。
でも、カノンやら、ショパンやら、アニメ曲を連弾で弾いていると、
ふたつの音がうまく混ざり合って、それが楽しい。
「夕と一緒に弾くのなんて小学生以来じゃね?」
そう言ってはにかむ陽は、
背も伸びて体つきもスポーツマンらしくなったものの、
笑顔は昔とかわらなかった。
僕は
「そうだな」
と言って俯いてしまう。
いつの間にか曲はノクターンに変わっている。
俺は右手の五本指を滑らせるようにしてメロディを旋律する。
ドン!
隣でいきなり陽が体当たりしてきてよろめく。
思わず、
「なにすんだよ!」
と怒らずにはいられない。
「いや、なんかお前、大人っぽくなったなって」
そう太陽のような眩しい笑顔でいたずらそうに見てくる。
僕はこの笑顔に弱い。
「夕は昔から元気はつらつって感じのやつじゃなかったけど、クールな感じでさ」
ピアノの鍵盤を見るために目が伏目がちになる。
横から見ると睫毛が長く、弧を描いている。
「でも、今の夕は大人っぽくなった。羨ましいぜ」
陽は目を伏せたまま優しそうに笑う。
「だろう?」
俺は照れ隠しでふざけてみせる。
陽は「お前に言われると気にくわない」とかなんとか騒いでいる。
大人っぽくなったのはお前だよ、と思う。
だって僕、そんな風に笑うお前、初めて見たから。
◯
「それにしてもすごい偶然だよな、俺たち」
ふたりの好きなロボットアニメの主題歌を弾きつつ、
陽は僕の目をまっすぐ見て言う。
「夕にいきなり駅で声かけられてさ。
3、4年ぶりとか?
一瞬、誰かわかんなかったじゃん」
「お前、地味にひでえな」
僕はあからさまに顔を歪ませて文句を言う。
陽は、はははと笑いながら、
わりぃ、わりぃと謝る。
「いや、小学校卒業と同時に俺が他区に引っ越してから
中学校はもちろんのこと、今の高校もお互い違う学校じゃん。
家も正反対だし」
俺は弾き語る陽をただ見ている。
「運命みたいだよなあ」
空を仰ぐようにして、ハハハハと愉快そうにしている。
「どうだろうな」
僕は曖昧に笑いながら過去に思いを寄せる。
運命なわけないだろう。
僕がわざわざ遠回りして帰っていて、
しかも、お前に会えるかもしれないという一筋の光だけで
そんな行動を半年も続けていたなんて、
そのおかげで今日この時があるなんて、
君は知らないだろう。
僕はいきなり難しい曲を選んで弾き始める。
指が先ほどよりも大きく動かすことが必要な曲である。
思っていたとおり、指が陽の指にわずかに触れる。
肩も触れている。
満足だった。
なあ、
お前はいつ僕の気持ちに気づいてくれるんだろうな。
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