夜行性の暴君

恩陀ドラック

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ダンピールの章

可愛い大事な1

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「あああっ!」


 背中から覆い被さった昢覧に首筋を甘噛みされて、絢次は身を震わせながら射精した。快感と多幸感で涙が滲む。


「昢覧好き……大好き……」


 昢覧は苦笑しつつ、口を舐めてくる絢次の頭を撫でた。知悠が井背里へ行っている間にまた一つ譲歩させられて、甘嚙みをしてやるようになっていた。必死にちんこを扱く絢次の汗ばんだ首筋に口をつけるなんて、やらなくていいならやりたくない。でも毎回感極まるくらい喜ばれると、まぁいいか、となってしまう。


「俺は絢次を甘やかし過ぎたかもしれない……」

「好きだからしょうがないよ」


 絢次は愛情を出し惜しみしない。持ってるものは全て差し出して気持ちを表す。相手からも全力で愛されたい。そんな絢次にとっての当たり前が昢覧にとっては寝耳に水だった。絢次の言う好きは恋愛感情のそれだ。昢覧は自分に問うてみた。が、どう考えてもそういう好きじゃない。絢次がさも当然のように言うから一瞬騙されそうになっただけだった。もしそういう感情を抱くとしたら絢次より……


「昢覧!!」

「ばか、離せ!」


 思い出してにやついていたら勘違いした絢次に人型はだかで抱きつかれてしまった。ひっぺがして一人で浴室へ。ちょっと虚しくなりながら絢次につけられたぬるぬるを洗い流す。ここは旅先で宿にした普通の一戸建ての民家だ。絢次と一緒だと浴室が狭くて使えないのが助かる。


「おい、飯作ってやるからその間に支度しとけよ」


 階段の下から声を掛けられた絢次もシャワーの準備をする。さっきまで昢覧と使っていたベッドの隣には、この家の主婦が転がされていた。彼女は昢覧の軽食にされていて切り傷は瘡蓋になり、圧迫痕は青痣になり始めている。絢次は昢覧の食事風景が好きだ。フル勃起が見られる。今日は少しだけ舐めさせてくれた。いつか口に出してほしい。シャワーを浴びてダイニングキッチンに行くと、ちょうど食事が並んだところだった。バタートーストのいい香りが食欲を刺激する。今日の玉子焼きは会心の出来だそうだ。よくわからないけど美味しい。昢覧が自分のためだけに作った料理は幸せの味しかしない。

 メゾン・サングラントを旅立ってそろそろ一月が経とうとしていた。実は昢覧の一番の目当ては魔術師だ。この世ならざる存在を認識するのが魔術師であるという田坂の言を信じるなら、悪魔と契約する吸血鬼も魔術師の一端であると言える。資格は充分。あとはやり方さえ学べば魔術を使えるはず。待ち受けるのは魔術の深淵か死の制裁か。オカルトファンとして行けるところまで行ってやる。しかし魔術師はおろか伝染型吸血鬼も見つからない。この辺りでの捜索は今日を最後にして、次の目的地に向かうことにした。

 使った皿も鍋もそのままに二人は家を出る。移動は車だ。絢次に荷物を積み込ませる。半霊体の吸血鬼は外的要因がなければ服を汚さない。必要な物は精神干渉とステルス性で現地調達すればいいから、身一つでどこへでも行ける。人狼はそうはいかない。特に二メートル近い絢次はサイズの合う衣類を調達するのが大変で、二つあるスーツケースの中身は殆ど絢次の物だった。

 この家からそう遠くないところにある歓楽街は、それほど大きくないが賑わっている。人が集まる所には餌を求めて人外も集まる。昢覧の同族も例外ではないわけで、この辺りを縄張りとする吸血鬼は侵入者を放置する腰抜けではなかった。


「絢次、ここで待ってろ」


 絢次もただならぬ気配を感じ、黙って頷いた。昢覧は一人歩いて駐車場から住宅街の小路に出る。ちらほらと通行人がいる中に一人の吸血鬼がいた。見た目は二十五歳くらい。ねっとりと絡み付くような雰囲気を纏わせた美女だ。なぜ一目で同族とわかるのだろう。人外の不思議は昢覧をワクワクさせる。


「どーもー、お邪魔してまーす」


 陽気に片手を上げて挨拶するも返事はない。女は昢覧の様子を見ながらゆっくりと歩を進めた。三メートルほどの間を置いて二人は対峙する。


「ちょっと変わった吸血鬼を捜してるんだけど。噛みつかれてなったって奴。俺らとは違うけど、見れば人外だってわかるって。そういう奴に会ったことない?  もし見つ――っと、見つけたら、殺して、おいて、くれ、ない?」


 人通りが途切れた途端に女が襲い掛かった。昢覧は初手を躱し、追撃をいなしながら最後まで言いたいことを言い切る。女もそこそこの手練れだが昢覧の方が上手うわてだ。伊達に非道を重ねていない。






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